去る8月27日に、SBIバンガードS&P500を信託報酬0.0938%(税率10%)で設定すると発表がありました。衝撃的な安さです。現在、米国株式インデックスファンドは楽天全米株式とスリム米国株式(S&P500)が人気を二分していますが、ここにSBIバンガードS&P500が乱入します。目を疑うような激安の信託報酬を武器にして。
次は税率10%での信託報酬+ETFの経費率です。(スリム米国株式は現物株運用でETFは買っていません。)
隠れコストが判明するのは第一期運用報告書が公開されてからなので、信託報酬が安いからと言って設定直後に飛びつくと後悔するというのは良くある話です。事実、楽天全世界株式、楽天全米株式の第一期の隠れコストは、楽天投信投資顧問が釈明するほどひどいものでした。
でも、多くの受益者は信託報酬率を重視し、隠れコストは相対的に軽視する傾向にあるようです。そして、SBIバンガードS&P500の信託報酬率(ETFの経費率を含む)は、先行する人気商品の58%程度でしかないので、とても魅力的に見えるはずです。
スリム米国株式(S&P500)は対抗値下げしないのか
僕は次の記事で、対抗値下げするしかないと書きました。
スリム米国株式の現在の売上は1,762万円です。税抜き信託報酬を0.088%に引き下げると、売上は921万円に減ります。現在の純資産総額で年間841万円を失うわけです。
が、もしSBIバンガードS&P500に対抗値下げできなかったらもっと大きなものを失います。保証はないものの同率首位戦略を継続してくれるというスリムシリーズにしかない期待を裏切ってしまうのです。2017年2月にスリムシリーズ第一陣を設定してから時間をかけて醸成してきた、圧倒的な優位性が失われてしまいます。841万円はスリムシリーズ全体の売上のわずか9%でしかありません。
ところが、まだ対抗値下げすると発表されません。たわら全世界株式がスリム全世界株式(オール・カントリー)より安い信託報酬で登場すると発表された時は、11日後に対抗値下げが発表されました。今回は24日が経過しましたが、これまで通りならとっくに対抗値下げを発表しているはずなので、心配する声が聞かれます。僕も心配しています。
受益者の行動は総口数に表れます
インデックスファンドの人気、受益者の行動は総口数の推移に(冷酷なくらいに)表れます。純資産総額は基準価額の変動の影響を受けますが、総口数は受けないので、受益者の購入口数ー売却口数の変化が把握できます。
楽天全米株式やスリム米国株式の受益者が、SBIバンガードS&P500への乗り換え(売却を伴う)または切り替え(売却を伴わない)を考えるなら、総口数の推移に人気の衰えとして反映されることが予想できます。いや、そんなに短期間では変化は見られないと思いますか。調べてみました。
グラフの見方
グラフは2つ一組です。最初のは設定来の総口数の推移です。2つめは7月からの総口数の推移で、左端の総口数をゼロにしたものです。SBIバンガードS&P500が発表された8月27日以降を黄色で塗っています。
8月27日の発表を見て即座に行動したとしても、それが表れるのは数日後だと思います。また、総口数の推移には説明を思い付かないパターンも散見されるので、解釈は単純にはできない点に注意してください。
スリム米国株式(S&P500)
設定来、順調に総口数を増やしてきました。青の丸で囲ったところで増加が止まっているように見えますが、これはGWに株式市場が10連休だったためです。気になるのは黄色の丸で囲ったところです。
明らかに増加ペースが衰えています。スリム米国株式の対抗値下げが発表されないのと無関係でしょうか。
楽天全米株式
楽天全米株式は一時期勢いに衰えが見られましたが、その後盛り返しています。僕にはその理由が思い当たりません。
黄色に塗った部分、スリム米国株式にそっくりです。楽天全米株式は設定されてからもうじき2年ですが、ETFの経費率が下がった場合を除いて信託報酬を引き下げていません。楽天投信投資顧問が決めている信託報酬は、税抜き0.12%固定のままです。そのため楽天全米株式の受益者はあきらめ感と共にSBIバンガードS&P500に気持ちがなびくかも知れません。
直近の勢いの衰えはそれが要因でしょうか。
iFree S&P500
リターン実績を比較するとスリム米国株式とiFree S&P500のパフォーマンスに差はなく、よって実質的なトータルコストは変わらないと言えます。であるにも関わらず、信託報酬の差なのか、スリムシリーズのブランド力なのか、iFree S&P500の不人気さは同情を誘います。
グラフは、人気の獲得に失敗した商品に良く見られる形状です。(でも人気ジャンルだけあって、純資産総額は82.8億円あります。)
そもそも勢いがないので、直近の動きから何かを推測しても無駄かも知れません。
見事に減少していますが、SBIバンガードS&P500の登場が要因かどうかは受益者にアンケートでもしない限り分からないですね。
SBI全世界株式
SBIアセットマネジメントは9月5日にSBI全世界株式の信託報酬を税込み0.150%から0.1090%(税率8%)に引き下げると発表しました。スリムシリーズはたわら全世界株式の信託報酬税抜き0.120%に対抗して、全世界株式3兄弟の信託報酬を同率に引き下げたばかりでした。9月26日から実施ですが、従来ならその前に対抗値下げを発表しています。
ところが今回は音沙汰なしです。こちらも受けて立つしかないのですが、スリムシリーズの受益者全員を不安にさせてしまっています。
スリム全世界株式(オール・カントリー)
スリムオール・カントリーは設定来、順調に総口数を増やして来ました。人気を獲得できなければこんなグラフにはなりません。
8月27日から黄色に塗っていますが、SBI全世界株式の信託報酬引き下げが発表されたのは9月5日なので、影響があるとしてもその後です。影響はほぼないと言えるでしょう。
楽天全世界株式
3地域に投資する、全世界株式インデックスファンドの王者です。
こちらも影響はほぼないと言えるでしょう。
SBI全世界株式
SBI全世界株式は、楽天全世界株式の低コスト版ではありませんが、投信ブロガーでもそのことを指摘する人は少ないです。
そして、そこそこ売れています。
純資産総額は35.7億円です。
先週は明らかに増えています。これは偶然ではない気がします。それが正しいかどうかは、時間が経過すれば分かります。
日本のバンガードになりたいなら
「日本のバンガードになりたい」
三菱UFJ国際投信主催のブロガーミーティングで何度も聞いた言葉です。それも複数の方から。おそらく、スリムシリーズを運用しているチームで共有されている目標(願望)なのでしょう。でもそのためには次の2つの条件を満たす必要があります。
- 受益者から圧倒的に支持される低コスト志向。
- 受益者から桁違いの純資産総額を集める。(億円ではなくて兆円)
ビジネスであることからも、片方だけでは成立しません。今は受益者数が少なすぎて利潤の追求は不可能ですが、この不毛で残酷なコスト競争に勝ち残ったものだけが、将来市場を寡占できます。日本のバンガードになりたいのなら、選択肢はひとつしかありません。
ついに信託報酬引き下げを発表
待ちくたびれましたが、ついに次の2商品の対抗値下げが発表されました。
- スリム米国株式(S&P500)は、税抜き信託報酬をSBIバンガードS&P500と同率へ。
- スリム全世界株式(オール・カントリー)を含む全世界株式3兄弟は、税抜き信託報酬をSBI全世界株式と同率へ。
SBIバンガードS&P500の設定が発表されたのは8月27日だったので、対抗値下げの発表までに45日もかかったわけです。長かったですね。でも良かったです。