グローバル3倍3分法ファンドは、レバレッジ型バランスファンドのさきがけです。異常な人気を獲得したため、似たようなレバレッジ型バランスファンドが後に続きました。
新しい試みなので、いわば、受益者から集めた資金を使って目論見通りのリターンが得られるかどうか実験するようなものです。過去のデータを使って行うバックワードテストではうまく行っても、現実に設定して運用するとダメなことがあるのは、業界の専門家も認めるところです。そして、その実験は失敗に終わったようです。
更新情報
参照しているデータを最新版に更新しています。
グローバル3倍3分法ファンド
2018年10月4日に税抜き信託報酬0.44%で設定されました。グローバル3倍3分法ファンドの組成内容から考えると、意欲的な、低水準で設定されたと言っていいでしょう。これは評価できます。
1年決算型と隔月決算型がありますが、隔月決算型は情弱をカモにする以外に存在価値はないです。
- 販売手数料は税抜き3%を上限にして販売会社が設定可能で、金融機関を選ばないと徴収されてしまいます。
- 信託財産留保額はありません。
- 信託期間は設定時は10年でしたが、2020年12月24日付で信託期間を「無期限」に変更されています。
もちろんつみたてNISA適格ではありません。
仕組み
次の図は目論見書からの引用です。3分法とは株式、REIT(不動産)、債券の3つの資産に投資することを指しています。これは普通にあります。それを、先物取引などを使って純資産総額の3倍相当額で運用するのが3倍3分法です。
値動きのイメージも説明されていますが、全く理解できません。
15年で10倍ですと
次はグローバル3倍3分法ファンドの刺激的なシミュレーション結果です。
引用:日興アセットマネジメント
2003年3月末から2018年9月末の約15年で10倍以上とあります。次はその期間における、SPYトータルリターン(S&P500連動ETFの配当を再投資したリターン)の推移です。
約15年で4.1倍でした。この高いリターンよりもっと上を目指すのがグローバル3倍3分法ファンドです。でもそのためには、追加コストと相応のリスクを負う必要があります。それだけの価値がるかどうか、負担に見合うだけのリターンが得られるかどうかは、未来になってみないと分かりません。
運用コスト
次は運用報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。0.6%を超えています。
当初の期待リターンの高さから考えると、十分低コストと言えますが、現在のパフォーマンスではそもそも、存在価値が怪しいです。
ここからマニアックな話になります。そういうのはいいやって方は、ここまで飛ばしてください。
グローバル3倍3分法ファンドは、適格機関投資家向けファンドに投資する、ファンド・オブ・ファンズ方式です。
引用:目論見書
この形式の投資信託の運用報告書は、たいてい不誠実な書き方をされます。
引用:運用報告書
売買委託手数料と有価証券取引税が計上されていません。投資しているのが投資信託証券の場合、それらの費用は明記しなくていいとのことです。
運用報告書には適格機関投資家向けファンドの費用明細があります。
引用:運用報告書
つまり、この費用はゼロではなくてしっかりかかっているのです。
リターン比較
スリム米国株式(S&P500)との比較
次はスリム米国株式(S&P500)とのリターン比較です。グローバル3倍3分法ファンドの設定直後を避けた、2018年10月24日から2022年3月25日までです。
赤のラインがグローバル3倍3分法ファンド、緑のラインがスリム米国株式(S&P500)です。青のラインはリターン差で、グローバル3倍3分法ファンドースリム米国株式(S&P500)です。
グローバル3倍3分法ファンドが差を広げられたのは2019年10月までで、それ以降はS&P500に追い上げられていました。そしてコロナショックによる株価暴落以降はいい勝負でしたが、2021年2月以降はS&P500に負けています。
次は2020年年初からの比較です。
S&P500と比べてこのパフォーマンスでは、高いコストを負担してまで投資する価値を感じないです。
オール・カントリーとの比較
次はスリム全世界株式(オール・カントリー)との比較です。2020年年初から2022年3月25日までです。
青のラインはスリム全世界株式(オール・カントリー)ーグローバル3倍3分法ファンドです。オール・カントリーの方が高パフォーマンスです。
受益者の資金を使った、グローバル3倍3分法ファンドの実証実験は失敗に終わった気がします。
熱狂から冷めた受益者たち
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。赤のラインが1年決算型、緑のラインが隔月決算型です。純資産総額は1,869億円と1,001億円です。
設定後半年間は全く売れませんでした。その後突然売れ始めますが、資金流入額が異常に多かったです。1年決算型は3ヶ月半で1,000億円も集めました。まさに熱狂状態でした。
隔月分配型の売れ行きから、受益者の金融リテラシーがどれほどのものか、容易に想像できますね。
ところが、2020年2月21日に始まった、コロナショックによる株価暴落を境に、見事なぐらい資金流入が止まります。スリム米国株式(S&P500)やスリム全世界株式(オール・カントリー)にびっくりするほど資金が流入したのと真逆です。
そして2020年5月中旬以降、資金流出が止まりませんでした。暴落後の平凡なパフォーマンスを露骨に反映していると言えます。と同時に、受益者の属性が透けて見えますね。
最近は資金流出ペースが下がりましたが、現在の情けないパフォーマンスでは資金流入に変われないでしょう。そしてもう結論は出ているような気がします。
Fund of the Yearの順位
グローバル3倍3分法ファンドはFOY2019で8位でした。これが人気投票の現実です。このことを嘆いた投信ブロガーもいました。
FOY2020での入賞は絶望的だと思っていたら17位でした。いや、それおかしいでしょ。そしてFOY2021では選外でした。
評価:実験はもう終わったと言っていいでしょう
受益者の資金を使った壮大な実験は、もう終わったと言っていいでしょう。残念な形で。
グローバル3倍3分法ファンドの組成内容はコロナショック後の2年間以上に通用していないのは明らかなので、もう見切った方がいいと思います。