MAXIS全世界株式(オール・カントリー)は、形式上はスリム全世界株式(オール・カントリー)のETF版です。が、マザーファンドは同じで、明らかに一般的なETFではありません。その関係は、MAXIS米国株式(S&P500)とスリム米国株式(S&P500)と同じです。
信託報酬はオール・カントリーより安いですが、トータルコストはオール・カントリーより高いです。そして、配当金の扱いが大きく違います。
更新情報
参照しているデータを最新版に更新しています。
MAXIS全世界株式(オール・カントリー)【2559】
2020年1月8日に税抜き信託報酬0.078%で設定されました。スリム全世界株式(オール・カントリー)の0.104%より安いと、一瞬話題になりました。でも信託報酬以外にもコストがかかります。
まず、マザーファンドはオール・カントリーと同じです。と言ってもオール・カントリー専用のマザーファンドが1本あるわけではなくて、先進国株式、新興国株式、国内株式のマザーファンド3本を利用しています。
引用:目論見書
そして次の、ETF固有のコストが信託報酬以外にかかります。
引用:目論見書
マザーファンドはオール・カントリーと同じなので、信託報酬以外のいわゆる隠れコストはほぼ同じと見ていいはずです。(売買金額に比例するコストは各ベビーファンドごとに変わります。)MAXIS全世界株式の税抜き信託報酬はオール・カントリーより0.026%ポイント安いですが、ETF特有のコストが付加されるため、単純に考えるとオール・カントリーの方が低コストなはずです。(指数の商標の使用料だけで0.055%もします。)
なお、MAXIS全世界株式はETFなので、証券会社を選ばないと売買手数料がかかります。楽天証券なら無料です。
問題は配当金の扱いです。ETFは配当金を出さねばならないルールになっており、MAXIS全世界株式は年に2回出します。VTの配当金のようなものをイメージしているかも知れませんが、違います。
目論見書には解約時信託財産留保額がありますが
MAXIS米国株式には解約時信託財産留保額はありませんが、MAXIS全世界株式には0.1%が設定されています。が、MAXIS全世界株式を証券会社を通して購入する際には適用されません。紛らわしい記述ですね。
MAXIS全世界株式のトータルコスト
法令により、投資信託は運用報告書の公開が義務付けられているそうです。そして、運用報告書には信託報酬以外のコストについて記述されるため、正確さはともかく、いわゆる隠れコストを算出することが可能です。ところが、ETFにはその義務がないため、MAXIS全世界株式の運用報告書は存在しないとのことです。
運用報告書の代わりになるのは決算短信ですが、知りたい隠れコストが明確な形で表現されていません。その隠れコストの0.03%程度は、目論見書に書かれている次のコストだと考えています。
- 受益権の上場に係る費用
- 年間上場料
- 対象指数についての商標の使用料
MAXIS全世界株式のトータルコストは、スリム全世界株式(オール・カントリー)とのリターン比較で推測するのが良いです。
配当金の扱い
オール・カントリーのマザーファンドは約3,000銘柄を売買します。それらから得られる配当金は現地国(日本国外)で課税後に、マザーファンド内で再投資されます。国内課税20.315%が適用されるのは、オール・カントリーを課税口座で売却した時です。それまで課税の繰り延べをしてくれるわけです。
MAXIS全世界株式はETFなんですが、オール・カントリーと同じマザーファンドを利用する点が、普通のETFと異なっています。僕には、年2回分配を行うファンドがETFとして売買できる商品、に思えます。
ETFなので配当金と呼びますが、その原資はオール・カントリーのベビーファンドの資産です。保有している株式から得られた配当金はマザーファンドにて再投資されてしまっているからです。
ここからがめんどくさいです。2020年から税制が改正されて、国内籍のETFは配当金への海外と国内の二重課税を回避できるようになりました。話を簡単にするため、外国での配当金への税率を10%とします。保有している株式から得られた配当金を1とすると、マザーファンドには10%課税後の0.9が入ります。そして年2回の決算時に、0.9を配当金として分配します。課税口座の場合、譲渡税20.315%が課税されますが、配当金への二重課税が行われないように調整がなされます。外国での10%課税が取りすぎになるので、それを相殺してくれるのです。
たとえばVTを課税口座で買うと、年4回もらえる配当金は、外国での課税後に、国内で20.315%課税されてから、ドルで口座に入ります。この場合、二重課税された分を取り戻すには外国税額控除を申請するしかないのですが、これは所得税からの還付であり制度的に不利です。(適切に取り戻すのが難しいです。)
次は税制改正前と改正後の、配当金への課税の違いを説明している楽天証券の図です。
引用:楽天証券
MAXIS全世界株式の場合、年2回もらえる配当金への課税は、外国税+国内税全体の税率が20.315%になります。一方、オール・カントリーは分配金を出さずに、(外国で課税後の)配当金を再投資していますが、課税口座で売却すると利益に対して20.315%課税されます。配当金への課税だけ見ると、MAXIS全世界株式の方が圧倒的に有利です。
MAXIS全世界株式の配当金を再投資する場合
MAXIS全世界株式の保有で年2回もらえる配当金を全額再投資できるとしましょう。ETFは取引価格の倍数でないと買えないから、という話はここでは無視します。
- MAXIS全世界株式は、保有する株式から得られた配当金(二重課税を避ける調整済み)を再投資します。再投資によって元本が増えます。
- オール・カントリーは、保有する株式から得られた配当金(国内課税前)を再投資します。再投資で元本は増えず、売却時に利益に対して20.315%課税されます。
この2つは大きく違います。また、MAXIS全世界株式は運用コストがオール・カントリーよりいくらか高いです。さて、どちらが有利でしょうか?
わけが分からなくなった人もいると思います。
シミュレーション条件
次の条件でシミュレーションしました。
- オール・カントリーの期待リターンを年率5%とします。
- 投資対象株式から得られる配当金を、課税前で年率1.6%とします。
- MAXIS全世界株式から年2回出る分配金を、端株対応で(全額無駄なく)再投資できるものとします。
- 運用コストは、オール・カントリーの方が年率0.13%ポイント安いものとします。
- 投資期間を2020年から10年間とします。
- 課税口座で100万円一括投資し、スリム米国株式は追加投資なし、MAXIS全世界株式は分配金の再投資のみ、とします。
- 売却時の、税引き後評価額を比較します。
シミュレーション結果
次は税引き前評価額の比較です。
赤のラインがオール・カントリー、緑のラインがMAXIS全世界株式です。青のラインはリターン差で、オール・カントリーーMAXIS全世界株式です。
大事なのは税引き後評価額の比較です。右軸のスケールを変えています。
最初MAXIS全世界株式が有利ですが、後半はオール・カントリーの方が有利です。
次は比較期間を20年にしたものです。
20年間で3%ポイントを超えた程度の差ですが、オール・カントリーの方が有利です。
なぜこのような結果になるのか
シミュレーション用プログラムが正しいとしてですが、なぜこのような結果になるのでしょうか。
- 運用コストはMAXIS全世界株式の方が高いので、分配金を無視するとオール・カントリーの方が有利です。
- 分配金を出さないオール・カントリーは、配当金への課税が繰り延べされますが、その効果が出るのには年数がかかります。
- 課税の繰り延べ効果が出ない時期は、課税上有利な分配金を再投資するMAXIS全世界株式の方が有利です。
- でも比較期間が長くなると課税の繰り延べ効果が勝るようになります。課税の繰り延べ効果は複利で作用します。
マザーファンドが同じであるメリット・デメリット
MAXIS全世界株式の純資産総額は156億円ですが、マザーファンドはオール・カントリーと同じです。今後、MAXIS全世界株式が売れるようになると、マザーファンドの規模拡大に寄与することになります。これはメリットです。(現在はオール・カントリーの人気が圧倒的であり、MAXIS全世界株式の純資産総額はおまけ程度でしかありません。)
でもETFゆえ短期売買の対象にされる懸念もあります。MAXIS全世界株式で発生する売買コストを、オール・カントリーの受益者に(できるだけ)負担させないような仕組み・運用であって欲しいものです。それは、三菱UFJ国際投信も良く分かっているはずです。
配当金実績
目論見書には分配方針についてこうあります。
引用:目論見書
配当金はMAXIS全世界株式のベビーファンドから分配されますので、それだけMAXIS全世界株式の基準価額が下がります。オール・カントリーとリターン比較することで、はっきりと認識できます。
MAXIS全世界株式はこれまで2回決算を行い、配当金を出しています。配当金の利率を計算したものが多いか少ないかは、何と比較するかで変わるでしょう。でも三菱UFJ国際投信は、計算期間における配当金全額を分配するとあります。そして、それはファンド内で再投資されてキャピタルゲインの恩恵を受けている純資産から分配されているので、たとえ少ないと感じても損しているわけではありません。
また、基準価額の変化から推測した配当金と実際の配当金は一致しています。(以前、間違った計算をしていて足りないと思っていました。申し訳ございません。)
もしこの分配の仕組みが気に入らないなら、MAXIS全世界株式はあなた向きの商品ではないとうことです。
1回目
2020年6月8日にMAXIS全世界株式の1回目の配当金(収益分配金と記載)の額が決定しました。(その案内がこちら。)一口あたり39円です。
次はMAXIS全世界株式の2020年4月10日からのオール・カントリーとのリターン比較です。右端は2020年6月26日です。
青のラインはリターン差で、オール・カントリーーMAXIS全世界株式です。オール・カントリーの方が低コストなので青のラインは右肩上がりで推移し(しつこい)、赤の矢印の位置で跳ね上がっています。跳ね上がったのは6月8日、分配金が出たその日です。分配金が出たのでリターンが劣化した証拠です。
オール・カントリーとMAXIS全世界株式の基準価額の変化から考えると、6月8日のMAXIS全世界株式の基準価額は40.9円少ないです。これは毎営業日天引きされる運用コスト+配当金なので、一口あたり39円の配当金と一致すると言っていいでしょう。
2回目から6回目
同じ方法で分配金とリターンの劣化の様子が一致するか確認しました。
- 2回目:分配金は64円、リターンの劣化64.7円で一致。
- 3回目:分配金は75円、リターンの劣化74.4円で一致。
- 4回目:分配金は81円、リターンの劣化83.1円でドンピシャリではなかった。
- 5回目:分配金は111円、リターンの劣化112.1円でほぼ一致。
- 6回目:分配金は111円、リターンの劣化111.0円で一致。
運用は期待通りと言えるので、もう次回から確認するのやめます。
二重課税は見事に解消されています
MAXIS全世界株式(オール・カントリー)【2559】は税制上二重課税が自動的に調整されることになっています。本当のところどうなのかについて、ぱやんさん@papayan123_ETFが実際にもらった配当金の明細書から計算したところ、二重課税は見事に解消されていることが分かりました。
あ、2559の外国税額控除分かった。
2559の配当に対して20.315%の国内税だったのを、外国税引き前の本来の配当に対して20.315%にしてるから、この計算になるんだ。偶然計算間違いしたけど、やっぱり分母はC+Kで計算するのが正解だったんだ。 https://t.co/WBs9MSLwaI pic.twitter.com/wei4QZ5lVM
— ぱやん@ダウトリプル5000兆円 (@papayan123_ETF) January 18, 2022
僕もぱやんさんのエクセルを再現してみました。赤枠のセルが入力箇所(明細書から転記するところ)です。
ここで議論の的になっているのは右下の紫色のセルです。現実の外国税と国内税を合算したものの税率が、20.315%です。これは二重課税が完全に解消されていることを示しています。
MAXIS全世界株式とオール・カントリーのどちらが有利なのか
ここではMAXIS全世界株式の配当金を端株対応で無駄なく再投資できた場合の「理論値」であるトータルリターンを扱います。現実にはETFにそこまでの効率は期待できない点に注意して下さい。
運用コストはMAXIS全世界株式の方が高い
次はオール・カントリーとMAXIS全世界株式のリターン比較です。設定日から2022年12月9日までです。
青のラインはリターン差で、オール・カントリーーMAXIS全世界株式です。赤の矢印の位置で跳ね上がっているのは、MAXIS全世界株式が配当金を出したからです。それを除くと、青のラインの傾向は右肩上がりです。それはMAXIS全世界株式の方が運用コストが高いからです。
MAXIS全世界株式のトータルリターンと比較
MAXIS全世界株式はこれまで6回配当金を出していますが、それをそのまま国内課税なしで再投資した場合のトータルリターンと比較しました。右端は2022年12月9日です。
青のラインは右肩上がりの直線です。その傾きが、トータルコスト差を示しています。
次はオール・カントリーの運用コストを年率0.2%ポイント増量したものとの比較です。
前半は適量ですが、後半は増量しすぎですね。運用コストが改善されているようです。
次は2021年5月からで、オール・カントリーの運用コストを年率0.11%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットなので、直近1年半程度のトータルコスト差は0.11%ポイント程度だと推測できます。
よってこの記事では、MAXIS全世界株式のトータルコストはスリム全世界株式(オール・カントリー)より0.11%程度ポイント高いとします。
ETFは保有してもポイントもらえません
オール・カントリーをSBI証券で保有すると率0.042%のポイントが付与されます。楽天証券は2022年4月以降付与されなくなりました。(話をめっちゃ簡略化しています。)
ETFは保有してもポイントは付与されません。ちゃんとポイントを再投資できる人にとっては、その分だけ運用コストが安くなるようなものです。でもこのいわゆる投信マイレージは長続きしそうにないので、あくまでもらえている期間はラッキーだと思うのがいいです。
売れ行きは
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。純資産総額は180億円です。設定から2年11ヶ月ですが、オール・カントリーの人気を考えると思ったほど売れていないのかも知れません。(オルカンと比べるのは不適切かも。)
ETFという性格上、短期売買が見られるのは避けられないようです。でも2021年以降は順調に純資産総額を増やしているとも言えそうです。
評価:ETFへのこだわりがない長期投資家なら、オール・カントリーをおすすめします
運用コスト、配当金への課税、課税の繰り延べと、複数の要素が関係しますが、長期投資を前提とするならオール・カントリーの方が有利と言えます。
そもそもETFは取引価格(現在14,000円程度)の整数倍でしか買えません。そのため積立投資や配当金の再投資に制約があり、投資信託の方が便利だし実用的です。ETFへのこだわりがない長期投資家なら、オール・カントリーをおすすめします。
でもMAXIS全世界株式の持つ(ETFゆえの)独特なメリットを活かせる人には、良い選択肢になり得るでしょう。特に配当金への二重課税が解消されていることは、配当金を再投資する気がない人には大きなメリットになるはずです。