新興国株式インデックスには多くの選択肢があります。楽天新興国株式もそのひとつですが、現状、不人気です。バンガード社のETFであるVWOがインデックスファンドで買える、目論見書にある実質的な運用管理費用は税込み0.232%と低廉、と人気商品の条件を満たしていそうなんですが、この業界、それほど単純ではないようです。
VWOにこだわらないなら、スリム新興国株式の方がいいです。
更新情報
参照しているデータを最新版に更新しています。
楽天新興国株式
楽天全米株式、楽天全世界株式に約2ヶ月遅れて2017年11月17日に設定されました。VWO(バンガード社のETF)を買うだけのインデックスファンドなので、楽天VWOとも呼ばれます。税抜き信託報酬0.26%で設定されましたが、これは信託報酬0.12%+VWOの経費率0.14%で構成されました。
楽天新興国株式は設定来、他の楽天バンガードシリーズ同様、信託報酬を引き下げていません。が、VWOの経費率が2回引き下げられており、それに伴い実質的運用管理費用が引き下げられています。
でも一般の受益者にから見れば運用コストが下がるのはいいことなので、それが楽天投信投資顧問とバンガード社のどちらの努力によるものかは問題ではないでしょう。
MSCIエマージング・マーケットとの違い
ローコスト新興国株式インデックスで最も多く採用されているベンチマークはMSCIエマージング・マーケットです。楽天新興国株式のベンチマークはFTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)・インデックスです。この2つ、投資国にそれなりの違いがあります。
次はニッセイ新興国株式と楽天新興国株式の月次レポートから作成した、国別投資割合の比較表です。
MSCIエマージング・マーケットは韓国に投資しますが、楽天新興国株式は投資しません。この違いがいちばん大きいですかね。
つみたてNISAの指定インデックスではありません
楽天新興国株式のベンチマークはつみたてNISAの指定インデックスではありません。そのため、現在はつみたてNISA適格ではないです。
指定インデックス投信以外で適格申請するためには、次の厳しい要件をクリアする必要があります。
- 純資産額が50億円以上
- 信託設定以降5年以上経過
- 信託の計算期間のうち、資金流入超の回数が2/3以上であること
しっかりとした実績のないものは認められないようになっているのです。設定されてから5年経過は待っていれば達成できますが、現状だと純資産総額が50億円以上になる方が後になると思われます。
2022年11月には設定後5年が経過しますが、純資産総額は現在25億円しかありません。厳しいですね。
運用コスト(トータルコスト)
昔はいいから現在の運用コストが知りたいって方はここまで飛ばして下さい。
おどろくほど高コストだった第一期決算期間
楽天新興国株式の第一期決算期間は、おどろくほど高コストなものでした。
次は2017年11月17日から2018年7月17日(第一期決算期間)における楽天新興国株式とVWOトータルリターンの比較です。
青のラインはリターン差で、VWOトータルリターンー楽天新興国株式です。青のラインの傾きは楽天新興国株式の運用コストの大きさを示しています。
設定直後は傾きが大きく、2018年2月頃から小さくなっています。こういう現象は程度の差こそあれ、新規設定されたファンドでは良くあることです。
242日間で0.45%ポイント程度の差が生まれていますので、年率換算すると0.68%ポイント程度になります。これがVWOの経費率を除いた運用コストです。
次は運用報告書から計算した第一期のトータルコストです。
トータルコストは0.6151%と高額です。隠れコストが高いですね。
VWOの経費率0.14%を除いた、楽天投信投資顧問が徴収している運用コストは0.475%程度です。これはVWOトータルリターンとの差から推測した値より小さいですが、特に第一期はそういう傾向にあります。
大幅に改善された第二期決算期間
次は第二期決算期間である2018年7月18日から2019年7月16日までの、VWOトータルリターンとの比較です。
赤の矢印の位置にある大きなトゲは、VWOの配当金を取り込むタイミングの違いによるものなので無視して下さい。
次はVWOトータルリターンの運用コストを年率0.32%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりましたので、VWOの経費率を除いた運用コストは0.32%程度だと推測できます。
次は運用報告書から計算した第二期のトータルコストです。第一期と比較しています。
第二期は隠れコストが44%も削減され、トータルコストは0.4441%になりました。VWOの経費率0.12%を除いた、楽天投信投資顧問が徴収している運用コストは0.321%%程度です。推測値とぴったり一致しました。
次は隠れコストの明細です。
売買委託手数料が激減しています。これは楽天全米株式、楽天全世界株式と共通の事象です。
その他費用の「その他」は印刷費用です。まだ0.097%もあります。楽天全米株式、楽天全世界株式は第二期でゼロに改善したことを考えるとがっかりです。ここは本気出して欲しかったですね。
さらに改善された第三期決算期間
次は第三期決算期間である2019年7月17日以降の、VWOトータルリターンとの比較です。右端は2020年8月31日です。
株価暴落開始後に青のラインがヘタっていますが、これは想定通りです。次はVWOトータルリターンの運用コストを年率0.28%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりましたので、VWOの経費率を除いた運用コストは0.28%程度だと推測できます。
第三期運用報告書から計算した数値は第二期から大きく削減されていました。素晴らしいです。
第二期は隠れコストが35%も削減され、トータルコストは0.3580%になりました。VWOの経費率0.10%を除いた、楽天投信投資顧問が徴収している運用コストは0.258%程度です。推測値より0.022%ポイント安かったです。
次は隠れコストの明細です。
その他費用の「その他」のうち、0.035は印刷費用です。楽天米国高配当株式はずっと印刷費用がバカ高いです。第三期で大幅に削減されたものの、まだ高いです。
第四期決算期間
次は第四期決算期間である2020年7月16日以降の、VWOトータルリターンとの比較です。右端は2021年7月30日です。
青のラインの傾きが小さいです。次はVWOトータルリターンの運用コストを年率0.22%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインは(途中で段差ができていますが)ほぼフラットになりました。同じ方法で運用コストを推測してきましたが、第四期決算期間はさらに低コストで運用されていると思われます。
第四期運用報告書から計算した数値は第三期からさらに削減されていました。
次は隠れコストの明細です。
その他費用の「その他」(これは主に印刷費用)の削減効果が大きいです。
運用報告書から計算したトータルコストは0.313%です。VWOトータルリターンとの比較から推測した、楽天新興国株式のVWOの経費率を除いた運用コストは0.22%でした。VWOの経費率は0.1%なので、トータルコストの推測値0.32%にほぼ一致するという、納得の結果となりました。
よって運用報告書にある数値は適切なものだと思われますし、楽天新興国株式の隠れコストが毎年削減されていることは高く評価します。
第五期決算期間
次は第五期決算期間が開始した2021年7月16日から2022年6月30日までの、VWOトータルリターンとの比較です。
青のラインの傾きは期待したものとはちょっと違います。次はVWOトータルリターンの運用コストを年率0.45%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりました。この様子だと、第五期は運用コストが増えていますね。どうしてなのかは分かりません。
スリム新興国株式より低コストです
次は楽天新興国株式の第四期運用報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。スリム新興国株式と比較しています。
ベンチマークが異なるので、同じ土俵で比較できないのは承知の上ですが、スリム新興国株式より低コストです。でも楽天新興国株式のコストはこれだけではありません。
高い三重課税コスト
日本人が米国以外の資産に投資する米国籍ETFを買う場合、三重課税問題が発生します。VTと楽天全世界株式にあるように、VWOと楽天新興国株式にもあります。米国の資産にしか投資しないVTIと楽天全米株式にはありません。
VWOの投資先は100%米国外の株式なので、VWOが得る配当金は米国外での現地課税と、米国での10%課税が適用されます。ここまでが二重課税で、日本でさらに20.315%課税されると三重課税になる、というものです。
そんなマニアックな話はいいやって方は、ここまで飛ばして下さい。
2018年度は0.262%
VWOの2018年度の年次レポートから、配当金の源泉徴収税率は9.72%だと分かりました。次は課税関係をまとめた図です。
特定口座で楽天新興国株式を買っている場合、売却時に譲渡税20.315%が課税されますので、米国での10%課税が余剰(多重)です。それは配当金の9.03%に相当します。
VWOの2018年の配当金は年利2.9%だったので、2.9×9.03%=0.262%が三重課税コストになります。信じたくないくらい高いですね。
2019年度は0.258%
VWOの2019年度の年次レポートから、配当金の源泉徴収税率は8.40%だと分かりました。
日本国民から見て、米国での10%課税が余剰(多重)です。それは配当金の9.16%に相当します。
年次レポートに配当金の年利の記載がなかったので、自分で計算したら2.82%でした。よって2.82×9.16%=0.258%が三重課税コストになります。泣きたくなるほど高いですね。
2020年度は0.257%
VWOの2020年度の年次レポートから、配当金の源泉徴収税率は10.56%だと分かりました。
日本国民から見て、米国での10%課税が余剰(多重)です。それは配当金の8.94%に相当します。
年次レポートに配当金の年利の記載がなかったので、自分で計算したら2.87%でした。よって2.87×8.94%=0.257%が三重課税コストになります。毎年度そうですが、けっこう高いですね。
2021年度は0.199%
VWOの2021年度の年次レポートから、配当金の源泉徴収税率は10.48%だと分かりました。
日本国民から見て、米国での10%課税が余剰(多重)です。それは配当金の8.95%に相当します。
年次レポートに配当金の年利の記載がなかったので、自分で計算したら2.22%でした。よって2.22×8.95%=0.199%が三重課税コストになります。2021年度は少し減りましたが、それでも高いですよね。
三重課税問題は現物株運用のファンドにはありません
三重課税問題は、スリム新興国株式のような現物株運用のファンドには存在しません。配当金への課税は現地(外国)と国内の譲渡税のみで、余剰となる米国課税がないからです。この課税の仕組み上、三重課税問題は都市伝説ではありませんが、大半の受益者はその存在すら知らないと思います。また、ベンチマークがVWOと同じで現物株運用のファンドがあると、リターン差から三重課税コストの存在を確認できると思うのですが、そんな都合のいいファンドはありません。
MSCIエマージング・マーケットとどちらがいいか
楽天新興国株式と、MSCIエマージング・マーケットを採用している代表格のスリム新興国株式を比べる場合、ベンチマークの違いを意識する必要があります。たいていはパフォーマンスが良い方を評価しがちですが、リターンとリスクは比例する要素なので、そう簡単な話ではありません。
次はスリム新興国株式と楽天新興国株式のリターン比較です。楽天新興国株式の運用が安定した2018年2月から、2022年7月8日までです。
青のラインはリターン差で、スリム新興国株式ー楽天新興国株式です。この様子ならどちらのパフォーマンスが高いかは時期による、と言えそうです。
不人気です
次は楽天新興国株式の設定来の、資金流出入額の累計の推移です。純資産総額は25億円しかありません。
資金流入が頭打ちになった後、横ばい状態が続いていましたが、2021年以降は少し増えました。でもこのペースだと厳しいですね。
スリム新興国株式もプロットすると、楽天新興国株式の不人気ぶりが良く分かります。純資産総額は870億円です。
楽天バンガードシリーズなら何でも売れるというわけではないことが分かります。
Fund of the Year非選出
楽天新興国株式はFund of the Yearで一度も20位以内に入ったことがありません。スリム新興国株式ですら苦戦しているので、当然の結果かも知れません。
ところが、Fund of the Yearの創設間もない頃、VWOは上位にランクインしていたのです。
評価:VWOにこだわらないならスリム新興国株式の方がいいです
VWOにこだわりがあるなら、楽天新興国株式一択です。でもつみたてNISAでは買えないので、まずつみたてNISAの非課税枠を埋め終わってもまだ余裕資金がある場合に限った方がいいです。
楽天新興国株式の運用コストは、昔はともかく、現在は低水準です。運用も安定しています。でも三重課税問題、純資産総額の少なさを考えると、積極的におすすめできません。
VWOにこだわらないなら、スリム新興国株式の方がいいです。運用コスト、つみたてNISA適格であること、人気(純資産総額)で判断するとそうなります。