セゾンバンガードグローバルバランスは、ローコスト投信の草分け的存在です。今ではすっかり高コストファンドになってしまいましたが、不思議なことに人気は衰えず、純資産総額は2,000億円を超えています。キング・オブ・バランスファンドです。
僕がインデックス投資を始めた時に選択した商品のひとつでもあります。その後、信託報酬を引き下げる気がないことなどに嫌気が差して、スリムバランス(8資産均等型)に乗り換えてしまいました。(その後スリム先進国株式集中投資に宗旨変えしました。)
なお、名称が長いので、このブログでは「セゾングローバルバランス」と略します。
セゾングローバルバランス
2007年3月15日に税込み信託報酬0.77%で設定されました。当時としては意欲的な水準だったようです。その後5回引き下げられていますが、うちセゾン投信が信託報酬を引き下げたのは1回だけ、それも0.01%ポイントという小幅なものでした。
次は信託報酬引き下げ履歴です。
セゾングローバルバランスの現在の税抜き信託報酬は0.46%、売買しているバンガード社の投資信託の運用管理費用が0.064%程度です。これは「高コスト」と言っていい水準ですが、不思議なことに人気に衰えが見られません。
セゾングローバルバランスはつみたてNISA適格です。解約時信託財産留保額0.1%が設定されています。
セゾングローバルバランスの昔の話はもういいやって方は、ここまで飛ばして下さい。
セゾン投信の判断による引き下げ
セゾン投信は、かねてから黒字になったら信託報酬を引き下げると宣言していました。それを実行に移したのが0.68%±0.03%への引き下げでした。引き下げ幅はたったの0.01%ポイントでがっかりしたという人もいれば、引き下げたことを評価する人、赤字にしないためにはそれが限界だったと見る人もいました。
当時の純資産総額から、セゾン投信が得る年間の売上金額を計算すると、3.29億円でした。
セゾン投信が運用している商品は、セゾングローバルバランスとセゾン資産形成の達人ファンドの2本だけなので、赤字にしないためにはこれぐらいの売上が必要だった、ということのようです。
では現在の純資産総額から得る売上はいくらかと言うと、5.15億円です。
それでも信託報酬は引き下げられていません。信託報酬を引き下げなくても現在の人気を維持できる、と判断したのでしょう。
安くなくてもコスト競争はしない
セゾン投信の中野社長のインタビュー記事(2010年1月)があります。考え方に賛同する人は応援したくなり、しない人は離れていくと思いました。(記事はなくなりました。)
この中で中野社長は信託報酬についてこう語っています。
STAMシリーズやイーマクシスは、完全にコスト競争に入っていますね。
(中略)
ただ、セゾン投信は、STAMシリーズやイーマクシスと同じ立ち位置にいないんですよ。
セゾン投信は、20年、30年を見据えて形作られている投資信託なのです。投資信託の低コスト競争をすれば、その先はどうなるかご存知ですか?
手数料を下げるだけ下げて、お客様を集めても、手数料の下げ過ぎで投資信託の運用が成り立たなくなったら運用を終了してしまう可能性もあります。引用:特集!セゾン投信にインタビュー取材 ~低コスト競争について~
インタビューされたのは2010年なので、STAMシリーズ、イーマクシスという懐かしい名前が出ています。
またこうも言っています。
ひとりひとりの気持ちを本気で受け止めていますので、50年、100年運用していくためには、コスト競争はしていられません。正直、今のセゾン投信のコストは 安いとは思っていません。
今は、少し投資家の方に我慢していただいているところはありますが、
セゾン投信がさらに成長していけば、コストを下げることを含め、どんどん還元していきたいと思っています。
そして、20年、30年後には、どの証券会社も真似できないような投資信託に成長していると思います。引用:特集!セゾン投信にインタビュー取材 ~低コスト競争について~
次はもっと強烈です。
はっきり申し上げて今のセゾン投信にはこれら大手の出すインデックスファンドのコストレベルを実現することは到底出来ません。
もしその競争に追随しようとするなら、誠実なる運用も健全なる経営も損なうことになるからです。何より長期投資家の皆さまにしっかりと果実をお渡しするためには、この2つを堅持することが絶対条件であり、ゆえに大手の低コスト競争に当社は一切与するつもりはありません。
引用:セゾン投信 NEWS LETTER
これはセゾン投信 NEWS LETTER 2015年11月号に寄せられたメッセージです。2017年2月にスリムシリーズが登場する1年以上前です。
中野社長はセゾン投信の顔であり自社のファンドを薦めるセールスマンなので、そこは割り引いてとらえましょう。実際、セゾン投信がセゾングローバルバランスの信託報酬を引き下げたのは1回だけで、受益者への還元に積極的とは思えません。
でも、中野社長の取り組み姿勢は評価しますし、セゾン投信が「投資信託」という金融商品に与えた影響はとてつもなく大きいと思います。
組成内容
セゾングローバルバランスにベンチマークはありません。そして、資産配分比率を適宜見直すとあることから、つみたてNISAの「指定インデックス投資信託」では適格認定を受けられません。実際、「指定インデックス以外の投資信託」で適格認定を受けています。
その組成は株式と債券の比率が50:50の、王道と言えるものです。これを9本のバンガード社の投資信託を組み合わせて実現します。資産配分比率は時価総額比を基本としますが、ファンドマネージャーの意思で変更されます。
引用:目論見書
次はセゾングローバルバランスが売買する投資信託です。
引用:目論見書
セゾングローバルバランスはアクティブファンド
実はセゾングローバルバランスはアクティブファンドです。途中で性転換したのです。
信じたくないですか。次は横浜銀行のつみたてNISA対応商品の画面です。
引用:横浜銀行
アクティブ型に分類されています。
運用コスト不明
運用報告書にある隠れコストの記載内容は、信じ難いものです。
引用:運用報告書
セゾングローバルバランスは投資信託9本を売買します。それに必要な売買委託手数料も、保管費用も計上されていません。おかしいと思いませんか。
また、投資信託9本の隠れコストもゼロではないはずです。よって、セゾングローバルバランスの運用コスト(トータルコスト)がいくらなのかは不明です。
リターン比較
異なる組成のバランスファンドを、公平に比較するのはほぼ不可能です。たとえばほぼ同じ組成で株式比率に差があるもののリターン比較をすると、長期で見れば株式比率が高いものが有利になります。その代わり、相対的に高いリスクを負います。
ここでのリターン比較は、あくまでその商品同士で見た時の、過去の実績でしかありません。
eMAXISバランス(8資産均等型)とのリターン比較
次はeMAXISバランス(8資産均等型)の設定日直後を避けた、2011年12月15日から2020年7月3日までの、セゾングローバルバランスとのリターン比較です。
青のラインはリターン差で、eMAXISバランス(8資産均等型)ーセゾングローバルバランスです。時期によって有利不利が入れ替わっています。長い目で見れば、両者のパフォーマンスは同等です。
2020年2月の株価暴落で大きな差が生まれていますが、これはリートの有無によるものです。セゾングローバルバランスはリートに投資してませんが、eMAXISバランス(8資産均等型)は25%がリートなのが裏目に出ました。
世界経済インデックスとのリターン比較
次は世界経済インデックスの設定日直後を避けた、2009年2月2日から2020年7月3日までの、セゾングローバルバランスとのリターン比較です。
青のラインはセゾングローバルバランスー世界経済インデックスです。長い目で見れば大差ありません。
SBI資産設計オープン(資産成長型)とのリターン比較
次はSBI資産設計オープン(資産成長型)の設定日直後を避けた、2008年2月1日から2020年7月3日までの、セゾングローバルバランスとのリターン比較です。
青のラインはセゾングローバルバランスーSBI資産設計オープン(資産成長型)です。長い目で見れば大差ありません。
Fund of the Yearの順位
セゾングローバルバランスは高コストかつ、信託報酬引き下げに消極的であることが明確であるにも関わらず、Fund of the Yearの常連です。
たいてい、高コスト商品は脱落して行くものですが、セゾングローバルバランスだけは違います。この投票結果を見て、FOYの仕組みの限界を指摘する意見があるのも事実です。でも、資金流入で見た人気は、投資信託はコストだけじゃないことを教えてくれます。
キング・オブ・バランスファンド
セゾングローバルバランスはキング・オブ・バランスファンドです。純資産総額は2,048億円もあります。最近、楽天全米株式やスリム米国株式(S&P500)やスリム先進国株式の純資産総額が1,000億円を超えてスゲーと話題になりましたが、セゾングローバルバランスはその倍もあります。
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。スリムバランス(8資産均等型)もプロットしています。
スリムバランスが人気と言っても、セゾングローバルバランスの相手ではありません。「頑張ってるな、お若いの」と言われそうです。
セゾングローバルバランスは2013年までは絶好調ではありませんでした。黄色の丸で囲ったところで頭打ちから減少に転じました。その後復活を果たして資金流入を加速しています。これが、日本郵便との業務提携による効果なのかどうかは分かりません。
次は直近1年間の、毎営業日ごとの資金流出入額の推移です。
ほとんどの買い付けは決まった日に行われていることが分かります。これは、セゾングローバルバランスは不自由な積立でしか買えないためです。スポット購入は可能ですが、手軽にはできない前時代的仕様です。ほとんどの受益者は、一度積立設定したら後はほったらかしなのでしょう。
限られた販路
セゾングローバルバランスは限られた金融機関でしか買えません。口座も限定されます。
特徴的なのは、SBI証券でも楽天証券でも、iDeCo口座でしか買えないという不便さです。SBI証券のiDeCo以外の口座で買うには、高島屋ファイナンシャル・パートナーズ経由でSBI証券に口座開設が必要です。極端な囲い込み戦略と言えるかも知れませんが、こんなの普通の投資信託で採用したら逆効果にしかならないと思います。
そして、こんなに自由度が低い販売方法を採用しながら、良くあれだけの資金を集められるものだと感心してしまいます。しかも、まだ頭打ちになっていないのです。(過去に一度なりましたけどね。)
評価:他の選択肢をおすすめします
リターンは不確実ですが、コストは確実です。過去の実績がどうであれ、セゾングローバルバランスの受益者は(相対的に)高いコストを負担してきたことは事実です。これからを考えると、他にもっとローコストな選択肢がある今、あえて高コストなセゾングローバルバランスを選択する価値はないでしょう。
また、購入できる金融機関、口座が限定されているのもマイナスです。たとえばセゾン投信でつみたてNISA口座を開設してセゾングローバルバランスに積立投資を始めたとしましょう。年の途中で気が変わって、S&P500インデックスを買いたいと思っても、できません。翌年度から、別の金融機関のつみたてNISA口座に移管してから可能になります。
現在のビジネスモデルが永続的だと思えません
セゾングローバルバランスがこれまでに成し遂げてきたこと、日本のインデックス投資の歴史に大きな影響を与えたきたその功績は素晴らしいです。でも、現在のビジネスモデルが永続的だとは、僕には思えません。
信者ビジネスと言ったら怒られるかも知れませんが、セゾン投信は前時代的な営業活動に多大なコストを投じている気がします。今はそれで成立しているからこそ、信託報酬を引き下げなくてもいいわけですが、受益者の世代交代が進んだら、戦い方を変えなければいけなくなる時が来ると思うのです。そうなるまでに後どれぐらいの時間が残されているのかは、分かりません。