レバレッジを利用したバランスファンドである、グローバル3倍3分法ファンドが爆発的に売れ始めてから、類似商品がたくさん組成されました。楽天米国レバレッジバランスもそのひとつですが、投資対象が米国株式と米国債券というシンプルな組成で、僕がいちばん注目していた商品です。
でも米国債券金利が上昇傾向になってからは、楽天全米株式に勝てない状態が続いています。やはり現実世界ではバックテストのようには行かないのかも知れません。
更新情報
参照しているデータを最新版に更新しています。
楽天米国レバレッジバランス(USA360)
2019年11月5日に税抜き信託報酬0.425%で設定されました。投資対象であるVTIの経費率0.03%を加えた税込み0.4945%が実質的な運用管理費用になります。先行していたレバレッジ型バランスファンドの信託報酬をふまえて、値ごろ感のある水準にしたという印象です。
- 販売手数料は税抜き3%を上限にして販売会社が設定可能で、金融機関を選ばないと徴収されてしまいます。
- 信託財産留保額はありません。
- 信託期間は無期限です。
もちろんつみたてNISA適格ではありません。
愛称はUSA360です。これは米国株式90%+米国債券270%=360%にちなんだものです。
30年で25倍ですと
レバレッジ型バランスファンドは煽情的な喧伝文句が大好きです。楽天米国レバレッジバランスは30年で25倍になったそうです。
引用:ファンド説明資料
他のレバレッジ型バランスファンドのシミュレーションより好感が持てるのは、積立シミュレーションだと明記している点です。でも所詮、過去のデータを使ったバックワードテストなので、参考程度にした方がいいです。
仕組み
僕も分かったような気になる、それほど複雑ではない組成です。(実は分かっていないかも知れません。)
まず、株式と債券の比率が1:3のバランスファンドです。株式の多くはVTI(楽天全米株式の原資産と同じ)、債券は米国国債です。
引用:目論見書
楽天米国レバレッジバランスは純資産の90%を米国株式(主にVTI)に投資し、残り10%の流動性資金を含む純資産全体を元手にレバレッジをかけて米国債券に投資します。米国株式は純資産の90%ですが、米国債券は3倍の270%に相当します。合算すると純資産の3.6倍に相当する360%になるので、「スリーシックスティ(360)運用」と呼ばれています。
引用:目論見書
そのため、よくある表現としては、楽天米国レバレッジバランスは3.6倍のレバレッジ型ファンドだと捉えればいいでしょう。そして、株式にはレバレッジをかけていないのが特徴です。
また、良く債券が27倍のレバレッジだという表現を見かけますが、楽天投信投資顧問は米国株式90%+現金10%の資産全体で3.6倍と捉えて欲しいようです。
運用コスト
次は運用報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。楽天全米株式と比較しています。
隠れコストは相応に高いです。トータルコストは税込み0.6905%なので、パフォーマンスが期待通りなら気にならない水準でしょう。
楽天全米株式がいかにローコストか良く分かります。次は隠れコストの明細です。高い項目を赤字にしています。
売買委託手数料と「その他」が高いです。でもレバレッジをかけた運用なので、高くなるのは当然でしょう。
リターン比較
楽天米国レバレッジバランスの設定直後を避けた、2019年11月25日から2022年5月20日までの比較です。
楽天全米株式とのリターン比較
リターン比較をする対象として楽天全米株式より適切なものはないでしょう。
赤のラインが楽天全米株式、緑のラインが楽天米国レバレッジバランスです。青のラインはリターン差で、楽天全米株式ー楽天米国レバレッジバランスです。
楽天米国レバレッジバランスはコロナショックによる株価暴落時の下落率が小さかったため、楽天全米株式に大きな差をつけました。暴落からの回復過程では、当初楽天米国レバレッジバランスは楽天全米株式より高パフォーマンスを維持できていましたが、2020年10月以降の伸び率は楽天全米株式に変わらないか、負けています。直近ではその傾向が顕著です。米国債券金利の上昇が大きく影響しているのでしょう。
次は2020年8月3日以降の比較です。
青のラインが右肩上がりの期間は、楽天米国株式に負けています。横ばいの時期もありますが、傾向としては右肩上がりです。もう1年半以上、楽天米国レバレッジバランスは楽天全米株式を満足にアウトパフォームできていません。
グローバル3倍3分法ファンドとのリターン比較
赤のラインが楽天米国レバレッジバランスです。楽天米国レバレッジバランスの圧勝で始まりましたが、9月以降は互角で推移していました。2021年4月以降は再度(わずかながら)楽天米国レバレッジバランスが優位に変わっています。でも直近は差が縮まっています。
どちらも期待外れですね。
ウルトラバランス世界株式とのリターン比較
長らく楽天米国レバレッジバランスの圧勝でしたが、直近は差が縮まっています。ウルトラバランス世界株式の低パフォーマンスに楽天米国レバレッジバランスが近付いているとも言えます。
臨時レポート
こちらの臨時レポートで、設定後6ヶ月の運用を振り返っています。
当ファンドのリスク(振れ幅 )は米国株式よりも低く抑えられた一方、リターンは米国株式を上回り、相対的に運用効率の高い運用成果を獲得することができました。
こちらの臨時レポートで、設定後9ヶ月の運用を振り返っています。
当ファンドのリスク(振れ幅 )は代表的な米国株式指数よりも低く抑えられた一方、リターンは米国株式指数を上回り、運用効率の高い運用成果を獲得することができました。
こちらの臨時レポートで、設定後12ヶ月の運用を振り返っています。太字にしたのは僕です。
米国における新型コロナウイルスの感染再拡大や追加経済対策を巡る協議の難航を受けて、米国株式市場が不安定化した2020年9月や10月には、米国国債先物も冴えない動きとなり、その間の当ファンドのパフォーマンスは代表的な米国株式指数にやや劣後するかたちとなりました。
そうですね。楽天全米株式と比較することで、楽天米国レバレッジバランスの運用が目論見通りかどうかがすぐに分かりますからね。そして残念ながら、期待通りでない状態が2020年10月から続いています。やはり現実はバックテストとは違うのか、そう思ってしまいますね。
運用の実態
楽天米国レバレッジバランスの月次レポートには、株式と債券の比率が記載されています。それぞれ90%、270%の合計360%が目標値です。
次は月次レポートから作成した、それらの推移です。
当初株式はVTIのみでしたが、2020年3月から株式先物が追加されていました。4月からはVTIは75%程度で推移していました。直近は85%程度に上がっています。株式先物を加えた株式比率はおおむね90%です。株式はVTIだけだと思っていたので、ちょっとびっくりでした。
次はお約束のグラフです。
なお、VTIの比率を下げた代わりに株式先物を追加した理由については、臨時レポートでの言及はなかったものの、運用報告書に次の記述がありました。
なお、手元流動性の確保と円滑なポートフォリオ運営等を目的に、2020年3月下旬より米国株式への投資の一部を先物へ振り分けています。
引用:第一期運用報告書
レバレッジ型バランスファンドでは売れていましたが
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。純資産総額は147億円です。
コロナショックによる株価暴落時に売れ行きが鈍りましたが、その後時間をかけて資金流入ペースを増やしました。別格のグローバル3倍3分法ファンドを除くと、レバレッジ型バランスファンドでは良く売れていました。
が、最近はパフォーマンスの平凡さに連動するように頭打ち傾向です。楽天全米株式に勝てない状態が続いているのでまあそうなりますよね。
評価:期待できないかも
僕はスリム先進国株式に集中投資していますが、だからと言って他の商品を否定しているわけではありません。楽天全米株式やスリム米国株式(S&P500)にも魅力を感じますし、投資家にとって良い選択肢が増えるのは大歓迎です。楽天米国レバレッジバランスはレバレッジを利用しているので、キワモノ扱いする人もいるでしょうが、それはそういう商品の歴史が浅いのでしょうがないと思います。
過去のデータを使って行うバックワードテストでは良い結果が得られる組成でも、未来では必ずしも通用しないと言われます。楽天米国レバレッジバランスも、言ってみれば、受益者から集めた資金を使って実証実験をしているようなものです。それは、他のレバレッジ型バランスファンドにも共通して言えることです。
そしてコロナショックによる株価暴落後、その多くが期待したパフォーマンスを発揮できていません。楽天米国レバレッジバランスはまだ良い方でしたが、米国債券金利が上昇傾向になってからは明らかに期待はずれの状態(楽天全米株式に勝てないまま)が続いています。
この様子だと、ファンド説明資料にある「積み立て期間30年で25倍」というような圧倒的なパフォーマンスの実現は夢物語に思えます。