米国分散投資戦略ファンドは、グローバル3倍3分法ファンドの成功に続こうと組成された(と思われる)、レバレッジ型バランスファンドです。1倍、3倍、5倍コースがあります。コロナショックによる株価暴落時の下落率が低く、その後驚異的な回復力を見せたものの、直近では普通のインデックスファンドに劣後しています。
更新情報
参照しているデータを最新版に更新しています。
米国分散投資戦略ファンド
2019年11月15日に設定されました。運用会社は三井住友DSアセットマネジメントです。運用会社が設定した信託報酬はコース共通で税抜き1.075%ですが、投資対象の投資信託の報酬を合算した、実質的な運用管理費用はこうなっています。
高いですね。
全コース、決算頻度は年2回です。目論見書には積極的に分配するとは書かれていませんが、実際には分配されています。残念ですね。
- 販売手数料は税抜き3%を上限にして販売会社が設定可能で、金融機関を選ばないと徴収されてしまいます。
- 信託財産留保額はありません。
- 信託期間は10年の2029年11月12日までです。
もちろんつみたてNISA適格ではありません。
20年で10倍?47倍?
レバレッジ型バランスファンドはどれもお約束のように煽情的な喧伝をしています。米国分散投資戦略ファンドも負けじとアピールしています。
引用:販売用資料
3倍コースは20年で10倍、5倍コースは47倍です。もう笑っちゃいますね。これで信託期間が10年しかないのは誠実な対応とは言えないですよね。
仕組み
このファンドの心臓部はケイマン籍の「TCW Qアルファ・レバード・US・ディバーシフィケーション・ファンド」で、これに5倍のレバレッジがかかっています。また、全資産が為替ヘッジされます。
引用:目論見書
米国分散投資戦略ファンドは、このケイマン籍のファンドとほぼ現金のようなものを組み合わせて、3つのコースを作り出しています。
投資対象は次の4資産と、短期金融資産です。
引用:目論見書
- 1倍コースは資産の20%でそのケイマン籍のファンドを買います。残りの80%で国内籍投資信託を買いますが、ほぼ現金と思っていいでしょう。20%の5倍で100%だから1倍という言い方をしています。
- 3倍コースは資産の60%でケイマン籍のファンドを買います。60%の5倍で300%だから3倍という言い方をしています。ここまでの説明でがっかりした人も少なくないでしょうね。
- 5倍コースは資産のほぼ100%でケイマン籍のファンドを買います。レバレッジ5倍だから5倍コースですね。
この米国分散投資戦略ファンド、株価暴落から驚異的な回復力を発揮しています。でも僕の評価は良くありません。正直、悪いです。
めんどうなことをしているのは、ケイマン籍のファンドです。米国分散投資戦略ファンドの各コースは、総資産中のケイマン籍のファンドの割合をコントロールしているだけです。それなのに税抜き信託報酬が1.075%とボッタクリ感が強いです。
その印象の悪さは、信託報酬の内訳を見ると増幅されてしまいます。
気になったのを赤字にしています。米国分散投資戦略ファンドの販売会社の比率は運用会社の倍です。それが何を意味するかは容易に想像できますよね。
運用コスト
次は運用報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。
が、残念なことに運用報告書に記載されている、信託報酬以外のコストは監査費用だけです。ケイマン籍のファンドを売買する上でかかった売買委託手数料、有価証券取引税は記載されていません。これはファンド・オブ・ファンズ方式での投資信託では珍しくないのでまあいいとしても、問題のケイマン籍のファンドの隠れコストが不明です。運用報告書で開示されていません。
そのため、実際のトータルコストはこれより高いと思って下さい。(さらに印象が悪くなりました。)
1倍、3倍、5倍コースの値動き
次は米国分散投資戦略ファンドの、設定日直後を避けた2019年12月2日から2021年3月5日までのリターン比較です。
赤のラインの5倍コースが基本で、3倍コースと1倍コースは値動きの少ない資産(ほぼ現金)を40%、80%混ぜただけです。
米国分散投資戦略ファンドは、コロナショックによる株価暴落から信じられない回復力を見せました。が、2020年8月をピークに下落が続いています。
1倍コースと楽天バランス(債券重視型)のリターン比較
次は米国分散投資戦略ファンド(1倍コース)と楽天バランス(債券重視型)のリターン比較です。
赤のラインが米国分散投資戦略ファンド(1倍コース)です。株価暴落時の下落率が驚くほど小さく、短期間で暴落前の推移に近い状態に戻しました。が、その後基準価額はほとんど上昇せず、9月以降はダラダラと下落しています。つまり、良かったのは暴落の直後だけということです。
楽天バランス(債券重視型)と比べると、米国分散投資戦略ファンド(1倍コース)の残念さが良く分かります。
3倍コースとスリム先進国株式のリターン比較
次は米国分散投資戦略ファンド(3倍コース)とスリム先進国株式のリターン比較です。
赤のラインが米国分散投資戦略ファンド(3倍コース)です。株価暴落時の下落率が驚くほど小さく、短期間で暴落前の推移に近い状態に戻しました。が、期待したとおりに基準価額は上昇できず、9月以降は下落傾向です。
スリム先進国株式は株価暴落時の下落率は高かったものの、その後順調に回復しています。つまり、米国分散投資戦略ファンド(3倍コース)が良かったのは暴落の直後だけということです。
5倍コースとスリム米国株式(S&P500)のリターン比較
次は米国分散投資戦略ファンド(5倍コース)とスリム米国株式(S&P500)のリターン比較です。
赤のラインが米国分散投資戦略ファンド(5倍コース)です。3倍コース同様、良かったのは暴落直後だけです。スリム米国株式(S&P500)は暴落の底から順調に回復していますが、米国分散投資戦略ファンドは9月から下落傾向です。悲しくなりますね。
AIが判断するアクティブファンド
株価暴落をどう切り抜けたのか、こちらの資料でネタばらしされています。次はその資料からの引用です。
「基本ポートフォリオ(1倍コース)」は、「レバレッジ5倍のケイマン籍のファンドの米国債券以外」と読み替えて下さい。
株価暴落開始後、株式とリートを大量に売却し、金を大幅に買い増ししています。このポートフォリオ変更をAIの判断で行ったとありますが、これはファンドマネージャーがAIに変わっただけで、アクティブファンドに他なりません。そのAIがどれだけ優秀で、また強運を備えているかは分かりませんが、市場に勝ち続けられるとは思えません。(そう思えるなら、米国分散投資戦略ファンドは買いです。)
今回の株価暴落に対して、暴落直後に限れば、非常にうまくポートフォリオを変更できています。ところが4月以降は期待ハズレです。高額な信託報酬を考えればそう言い切っていいでしょう。
4月以降のパフォーマンスが冴えない理由
次は月次レポートから作成した、主な投資対象4資産の比率の変化をまとめた表です。
米国株式の列を見て下さい。2月に大きく減り、3月に激減しました。7月に増えましたが、その後また減らしています。これって、安い時に売って、高い時に買い戻してますよね。
さらに、10月にまた大きく減らしています。え、この後ハイテク主導で株価が上昇するんですけど。(このAI馬鹿だな。)
次はお約束のグラフです。
結果的に、指数に連動するインデックスファンドと比較して、米国分散投資戦略ファンドの運用は残念なものです。資産配分の変更に関して、AIは高報酬のファンドマネージャーより適切な判断ができたとは言えないですね。いや、ファンドマネージャーなら適切な判断ができたとも限らないので、この表現は不適切ですね。
これだけは確かです。株価暴落後に米国分散投資戦略ファンド(正確には5倍のレバレッジがかかったケイマン籍のファンド)が選択した資産配分の変更は、期待ハズレなものでした。
売れ行きは
次は米国分散投資戦略ファンドの、設定来の資金流出入額の累計の推移です。一番人気は5倍コースです。
純資産総額は3コース合計で184億円です。青のラインの1倍コースは超絶不人気です。普通に考えれば、買う価値ないですよね。
赤の矢印の位置で株価暴落が始まりました。売れていた5倍コースも頭打ちになりますが、黄色の丸で囲ったところで売れます。でも7月以降、パフォーマンスの低迷にならうように資金流出が続いています。
次は3倍コースと1倍コースだけをプロットしたものです。
3倍コースは頭打ちから資金流出傾向です。
この人気は現状のパフォーマンスを素直に反映したものですね。おそらく受益者は、米国分散投資戦略ファンドに投資したことを後悔していると思います。もし後悔していないとしたら、もっと他に良い投資対象があったことを学んだ方がいいです。
評価:買う価値ありません
たとえアクティブファンド好きな方であっても、僕はおすすめしません。リスクを負う代わりに高いリターンを期待するとしても、米国分散投資戦略ファンドはやめた方がいいです。
- 1倍コースは論外です。どう考えても買う価値ないでしょう。
- 3倍コース、5倍コースは期待通りのリターンが得られるならいいと思いますが、これまでのところ、高いコストに見合う価値がありません。
- 株価暴落後の判断ミス(それも複数回)が尾を引いており、パフォーマンスは情けない状態です。(アクティブファンドは結果がすべてですよね。)
- いろいろとボッタクリ感が強くて、印象最低です。
数あるレバレッジ型バランスファンドの中でも最低クラスです。