日本を除く全世界株式に投資する際のベンチマークとして人気なのがMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(除く日本)です。スリム全世界株式(オール・カントリー)から日本を除いたものと同じです。スリム先進国株式の一部をスリム新興国株式に変えたようなものと言ってもいいです。
野村つみたて外国株投信は、運用コストが低く、運用も安定している良い商品なのですが、スリム全世界株式(除く日本)には負けます。
更新情報
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野村つみたて外国株投信
2017年10月2日に税抜き信託報酬0.19%で設定されました。当時、スリム先進国株式の税抜き信託報酬が0.19%だったので、信託報酬が高くなりがちな新興国株式を含んでいるのに安いと絶賛されました。が、信託報酬が安いことの優位性は、長くは続きませんでした。
野村つみたて外国株投信に約5ヶ月遅れて、スリム全世界株式(除く日本)が税抜き信託報酬0.142%で設定されます。信託報酬を引き下げなかった野村つみたて外国株投信に対し、スリム全世界株式(除く日本)は2回対抗値下げを行った結果、現在の税抜き信託報酬は0.104%です。
受益者は必ずしも信託報酬だけで商品を選択しないことは、楽天全米株式、楽天全世界株式の盤石な人気から証明されています。が、野村つみたて外国株投信は、相対的に高くなってしまった信託報酬が勝敗を分けそうな情勢です。
また、野村つみたて外国株投信には珍しい制約があります。積み立てでしか買えないのです。スポット購入できません。楽天ポイントが貯まったから追加投資するかな、なんてことはできないのです。
運用コスト
次は運報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。スリム全世界株式(除く日本)と比較しています。
トータルコストはスリム全世界株式(除く日本)の方が安いですが、野村つみたて外国株投信の隠れコストはたったの0.0390%と驚異的な安さです。
ここからマニアックな話が続きます。それはいいやって方は、ここまで飛ばして下さい。
隠れコストは妥当な水準か
野村つみたて外国株投信は、先進国株式と新興国株式に時価総額比で投資しますが、それは2つのマザーファンドを売買することで実現されています。そのマザーファンドは、Funds-i 外国株式、Funds-i 新興国株式のものと同じです。
引用:目論見書
一般的に、新興国株式インデックスの隠れコストは、先進国株式インデックスのものより高いです。現在の先進国株式と新興国株式の比率で、Funds-i 外国株式とFunds-i 新興国株式の隠れコストを按分すると、こうなります。
隠れコストは0.0495%になりました。野村つみたて外国株投信の隠れコストは0.0390%なので、妥当な水準と言っていいでしょう。それにしてもFunds-i 外国株式の隠れコストは安いですね。
Funds-i 外国株式の隠れコストは本当にそんなに安いのか
Funds-i 外国株式とeMAXIS先進国株式の運報告書から計算したトータルコストです。
運報告書の数値を信じると、Funds-i 外国株式の隠れコストはeMAXIS先進国株式の半分程度しかありません。次は2018年9月7日から、2020年10月23日までの、Funds-i 外国株式とeMAXIS先進国株式のリターン比較です。
青のラインはリターン差で、Funds-i 外国株式ーeMAXIS先進国株式です。トータルコストが0.09%ポイント程度あるはずですが、コロナショックによる株価暴落前はそこまでの差があるように思えませんでした。が、株価暴落後はその程度の差はあると思われます。隠れコストは変動することもあり、評価は難しいですね。
スリム全世界株式(除く日本)とのリターン比較
次はスリム全世界株式(除く日本)の運用が安定した2018年4月16日から、2021年3月26日までの、野村つみたて外国株投信とのリターン比較です。
青のラインはリターン差で、スリム全世界株式(除く日本)ー野村つみたて外国株投信です。期待通り右肩上がりで推移しています。なお、株コロナショック時に青のラインがヘタっているのは想定通りです。
そのためトータルコストは(運用報告書から計算した数値通り)スリム全世界株式(除く日本)の方が安いと判断します。
ここから再度マニアックな話が続きます。超マニアックです。それはいいやって方は、ここまで飛ばして下さい。
リターン差を示すラインがうねるのはなぜか?
次はスリム先進国株式とFunds-i 外国株式のリターン比較です。コロナショック前までです。
青のラインはスリム先進国株式ーFunds-i 外国株式です。きれいな、わずかに弓なりに曲がった直線です。どちらもベンチマークに忠実な運用ができているからこその結果と言えます。まぐれではこうはなりません。
次はスリム新興国株式とFunds-i 新興国株式のリターン比較です。左軸のスケールだけ変えています。
青のラインはスリム新興国株式ーFunds-i 新興国株式です。リターン差はうねっていますが、基準価額の変動の影響を受けていることを考慮すると、この結果は期待通りだと思います。
先進国株式と新興国株式を固定比率で合成する
スリムシリーズとFunds-i シリーズの先進国株式インデックスと新興国株式インデックスを、固定比率87.4%:12.6%で合成し、毎月リバランスした結果を生成しました。次はその合成結果の比較です。
青のラインはきれいな直線です。次はFunds-i シリーズで合成した結果と、野村つみたて外国株投信のリターン比較です。縦軸のスケールを変えています。
青のラインは微妙にうねっています。次はスリムシリーズで合成した結果と、スリム全世界株式(除く日本)のリターン比較です。
青のラインはきれいな直線ではないです。
青のラインがうねるのはリバランスの違いが原因か?
次はスリムシリーズを毎月リバランスして合成した結果と、Funds-i シリーズを6ヶ月毎にリバランスして合成した結果の比較です。
青のラインの様子が変わりました。次はスリムシリーズを毎月リバランスして合成した結果と、Funds-i シリーズをリバランスしないで合成した結果の比較です。
青のラインがうねっています。グラフの青のラインだけを切り出して並べました。
これら検討結果より、スリム全世界株式(除く日本)と野村つみたて外国株投信のリターン差を示す青のラインがうねるのは、この2商品のリバランスタイミングが異なるためだと考えます。
ベンチマークは同じで、各マザーファンドはMSCIコクサイとMSCIエマージング・マーケットに連動しています。MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(除く日本)の、先進国株式と新興国株式の比率も毎営業日、ベンチマークで指示されるそうです。でも、リバランスを実施する条件、タイミングは、運用会社、または商品ごとに異なると思われます。リバランスは運用コストとの関係で「適度」に行うと言われています。逆に言うと、真っ正直に厳密には行わないということです。リバランスはベンチマークへの追従性と運用コストとのトレードオフの関係にあるからです。
このリバランスの違いが、青のラインをうねらせている原因ではないでしょうか。
Fund of the Yearの順位
2017年度に4位だった野村つみたて外国株投信は、2018年度は12位に落ちてしまいました。それは他に魅力的な商品が登場し、相対的に魅力が失われたためでしょう。でも、信託報酬の安いスリム全世界株式(除く日本)より順位が下なのには、限られた投信ブロガーの投票結果とは言え、妙に納得してしまいます。
運用報告書から計算した隠れコストは、野村つみたて外国株投信の方が安いですが、一般の受益者はそこまで見ないでしょうし、比較検討する際に目立つ税込み信託報酬は、スリム全世界株式(除く日本)の方が圧倒的に安いです。
- 野村つみたて外国株投信:0.209%
- スリム全世界株式(除く日本):0.1144%
スリムシリーズ全体の人気も考えると、野村つみたて外国株投信に勝ち目はなさそうです。
人気でもスリム全世界株式(除く日本)に負けています
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。純資産総額は野村つみたて外国株投信が314億円、スリム全世界株式(除く日本)が507億円です。
赤のラインが野村つみたて外国株投信、緑のラインがスリム全世界株式(除く日本)です。因果関係は不明ですが、スリム全世界株式(除く日本)の税抜き信託報酬が0.142%の時代は、野村つみたて外国株投信に追い付けない(差を縮められない)状態でした。その後信託報酬引き下げると、急速に差を縮め、逆転してしまいました。
野村つみたて外国株投信の資金流入額は安定しており、人気は盤石です。それを上回る人気を、スリム全世界株式(除く日本)は獲得中だということです。ほとんど話題にされませんが、これはスリムシリーズの戦略勝ちですね。
評価:スリム全世界株式(除く日本)の方がいいです
野村つみたて外国株投信の運用コストは低水準ですが、スリム全世界株式(除く日本)はさらに安いです。現在の信託報酬差では、野村つみたて外国株投信はリターンでスリム全世界株式(除く日本)に勝てないと思われます。
ベンチマークは同じですから、負うリスクは同じです。どちらも運用は安定しています。純資産総額はどちらも多いですが、人気はスリム全世界株式(除く日本)の方が上です。野村つみたて外国株投信を選択する経済的合理性はありません。
でも、野村つみたて外国株投信に特別な思い入れがあるとか、スリムシリーズが嫌いなどの理由があるなら、野村つみたて外国株投信を選択するのもいいでしょう。