スリムシリーズは受益者還元型信託報酬を採用しています。純資産総額が500億円、1,000億円を超えると、超えた部分について低減された信託報酬が適用されるというものです。全体ではなくて、超えた部分について、というのがミソです。
この制度、スリムシリーズ登場当初は十分意味があったのですが、信託報酬引き下げ競争の結果、漸減率が圧縮されてしまい、ほとんど意味がなくなった商品もあります。
更新情報
運用会社にとっては意味が大きいことを追記しました。
スリム先進国株式
漸減率はわずか0.00155%ポイントです。
信託報酬が安すぎるため、受益者にさらに還元するだけの原資が確保できないということでしょう。
次はスリム先進国株式の信託報酬が漸減される様子です。横軸は純資産総額です。
500億円を超えると減り始め、1,000億円を超えると減り方が変わります。スリム先進国株式の現在の純資産総額は2,864億円(赤丸の位置)で、税抜き信託報酬は0.0907%ぐらいです。
そんなに下がりません
前記グラフを見るとどんどん下がりそうな期待をしてしまいそうですが、そうではありません。次は純資産総額が1兆円になるまでの様子です。
純資産総額の増加に伴い徐々に0.0899%に近付きますが、それより下がることはありません。3,000億円を超えると数学的にほとんど減少を実感できないでしょう。
スリム米国株式(S&P500)
スリム米国株式の漸減率は小さすぎて意味ありません。スリム先進国株式の約1/3です。
漸減率はたったの0.0005%ポイントです。税抜き信託報酬を0.15%から0.088%に引き下げた時に、1/10に圧縮されてしまいました。流石に信託報酬が激安すぎて、削減幅を減らさないと成立しなかったのでしょう。
次はスリム米国株式の信託報酬が漸減される様子です。
スリム米国株式の現在の純資産総額は10,019億円(赤丸の位置)で、税抜き信託報酬は0.0871%ぐらいです。人気が出すぎて純資産総額は1兆円を超え、信託報酬はもう減らなくなりました。
スリムバランス(8資産均等型)
スリムバランス(8資産均等型)の漸減率は十分意味があります。スリム米国株式の10倍です。
次はスリムバランス(8資産均等型)の信託報酬が漸減される様子です。
スリムバランス(8資産均等型)の現在の純資産総額は1,302億円(赤丸の位置)で、税抜き信託報酬は0.1358%ぐらいです。
スリム全世界株式(オール・カントリー)
SBI全世界株式への対抗値下げにより、スリム全世界株式(オール・カントリー)の受益者還元型信託報酬の削減幅は1/10に減ってしまいました。(スリム米国株式と同じです。)
ここまで減ると数字の遊びレベルで、現実の世界ではその恩恵を実感するのは無理です。ただし、オール・カントリーの純資産総額が500億円、1,000億円を超えるとこの制度の存在が話題になり、たとえ実質的な効果がなくても、それが「宣伝効果」を生み、さらに人気を押し上げる可能性があります。マーケティング戦略としては、実に有効だと思います。
実際、純資産総額が節目の金額を超えるとニュースリリースを出したり、ブロガーが記事にしたりしました。こうしてコストをかけずに宣伝することで、さらに多くの資金流入が期待でき、人気をより盤石なものできれば、それは受益者全員の利益になります。
次はスリム全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬が漸減される様子です。
オール・カントリーの現在の純資産総額は4,262億円(赤丸の位置)で、税抜き信託報酬は0.1032%ぐらいです。
スリム全世界株式(除く日本)、スリム全世界株式(3地域均等型)も信託報酬、漸減率は同じです。スリムシリーズの他の商品についても、今後信託報酬がさらに引き下げられると、同様の措置が取られると見ていいでしょう。
効果の実感は困難
期待リターン年率4%、40年間のシミュレーションです。信託報酬差0.0005%ポイントは小さすぎて満足なリターン差を産めません。
スケールを拡大しました。
40年でリターン差たったの0.05%ポイントです。少ないです。やはり話題にするほどの数値ではないですね。
運用会社にとっては意味が大きい
スリムシリーズの受益者還元型信託報酬制度は、受益者から見るとトータルコスト(信託報酬+隠れコスト)に比べて漸減率が極端に小さいため、その恩恵を実感できません。ところが運用会社(三菱UFJ国際投信)にとっては、とても意味が大きいです。マーケティングの話ですか?いいえ、違います。
次はスリム米国株式(S&P500)の受益者還元型信託報酬制度を説明した表です。
引用:目論見書
500億円、1,000億円を超えると漸減されるのは、信託報酬のうちの委託会社(=三菱UFJ国際投信)の取り分です。
次は三菱UFJ国際投信の取り分だけに着目したものです。1,000億円以上の部分については取り分(売上)が2.94%も減ります。
スリム米国株式(S&P500)の純資産総額は1兆円を超えていますから、純資産総額の90%以上から得られる売上は、受益者還元型信託報酬制度によって約3%少なくなっているのです。
次はスリムシリーズで純資産総額が500億円を超えている商品の、純資産総額、売上高、売上高の減少率をまとめたものです。
受益者還元型信託報酬制度を採用していなかった場合に比べて、売上高は3.15%、2,540万円少なくなりました。でも受益者還元型信託報酬制度を採用していたからこそたくさん売れたかも知れないので、この計算には注意が必要ですね。
結論:スリムシリーズの受益者還元型信託報酬には期待できません
受益者還元型信託報酬の漸減率が0.005%ポイントなら評価できました。でも、スリム米国株式はしょうがないとしても、スリム全世界株式3兄弟までもが「数字の遊び」の領域でしかない引き下げ幅に改悪されました。その水準だと実質的な意味はなく、単なるイメージ戦略でしょう。
おそらくスリムシリーズの他の商品も、今後信託報酬引き下げが行われると、どこかのタイミングで同様の改悪が行われるでしょう。残念です。
ところが三菱UFJ国際投信から見ると、超ローコストで信託報酬から得られる売上が少ないところ、それをさらに少なくしている制度です。コスト意識の高い組織にとっては、売上高を3%少なくしている事実は大きいことでしょう。マーケティング活動に上手に生かして行きたいものです。