農林中金<パートナーズ>おおぶねグローバル(長期厳選)は、信託報酬に成功報酬制(ハイ・ウォーターマーク方式)を採用しています。パフォーマンスが良い時にしか運用会社の信託報酬が発生しないというもので、良心的な感じがしますが、そう単純な話ではありません。ローコストファンドの水準から見ると、信託報酬はかなり高くなることが分かっています。
なお、商品名が長いので、ここでは「おおぶねグローバル(長期厳選)」と略します。
更新情報
第一期運用報告書の内容を反映させました。また、参照しているデータを最新版に更新しています。
おおぶねグローバル(長期厳選)
2020年3月19日に設定されました。北米・欧州・日本の株式20~30銘柄に投資する、アクティブファンドです。
「おおぶねグローバル(長期厳選)」は、NVICがこれまで選定してきた北米・欧州・日本の「構造的に強靭な企業」の中から、確信度が高いと考えられる20~30銘柄を厳選し長期投資を行うことで、長期安定的なリターン獲得を目指すファンドです。
引用:目論見書
特徴的なのは、信託報酬の運用会社部分です。目論見書には0%とあります。(図表は目論見書からの引用です。)
これは、運用会社の信託報酬が完全な成功報酬制で、最高値を更新した時だけ報酬が発生する、というものです。
次は成功報酬制(ハイ・ウォーターマーク方式)を説明した図です。最高値=ハイ・ウォーターマークを超えて、基準価額が上昇した時だけ、信託報酬が発生します。
成功報酬額についてはこう説明されています。(一部表現を変更しています。)
成功報酬額は、毎営業日に、当該営業日の基準価額がハイ・ウォーターマークを超えた場合に、その超過額に10.0%(税抜き)を乗じて得た額を1万で除した額に、当該営業日の受益権口数を乗じて得た額とします。
つまり、最高値を更新する上昇をした場合は、その上昇分の税込み11%が成功報酬として、純資産から天引きされます。その分、基準価額は上昇率が減ります。
最高値を更新しない日は成功報酬が発生しないので、運用成績に関わらず信託報酬が発生する既存のファンドと比べて公平な気もしますが、この11%の成功報酬は決して安くはありません。
なお、販売会社と受託会社が受け取る信託報酬は合計税抜き0.30%であり、この部分は成功報酬制ではありません。
また、金融機関を選ばないと購入時手数料税抜き1.5%がかかります。もちろん、つみたてNISA適格ではありません。
成功報酬の発生の仕組み
では成功報酬はどれぐらいになるのか、試算しました。結論だけ知りたい方は、ここまで飛ばしてください。
パターン1
次は期待リターン年率5%で、数学的に生成した基準価額データと、それに成功報酬を適用した場合の比較です。比較期間は1年です。
赤のラインは成功報酬なし、緑のラインは成功報酬ありです。途中で平らなところがあるのはゴールデンウイークの休みです。
青のラインはリターン差で、成功報酬なしー成功報酬ありです。なんと、成功報酬によりリターンは0.5%ちょっと劣化してしまいます。だってこの場合、毎営業日最高値を更新し、毎営業日年率5%基準価額が上昇するのですが、その上昇分の税込み11%が減額されるため、リターンは0.5%ちょっと減ってしまいます。
パターン2
次は同じ1年間で5%上昇しましたが、途中下落、低迷して最後に盛り返した場合です。
黄色で塗った期間は、最高値を更新していないので、成功報酬は発生しません。ですから、その期間の青のラインは水平となります。
最高値を更新していない期間は成功報酬が発生しませんが、この場合1年間のリターンは約5%で、最後盛り返しているところでは成功報酬も多めに(税込み11%ですが)発生しますので、1年間で見た成功報酬率は同じです。
確かに、受益者が得る実際のリターンに応じた信託報酬が発生する仕組みなので、パフォーマンスに関わらず常時発生する従来の信託報酬より公平感があるかも知れません。でも、高いと思います。
実際の商品で試算
以下、実際の商品の基準価額データを使って試算します。
、おおぶねグローバル(長期厳選)の第一期決算期間である、2020年3月19日から2021年3月15日までで試算します。
スリム先進国株式の場合
次はスリム先進国株式の設定以降、2021年6月25日までのリターンの推移です。この期間のリターンは年率換算で18.6%でした。
スリム先進国株式の信託報酬は成功報酬制ではありませんから、パフォーマンスに関わらず常時発生します。でも、現在の信託報酬は全部で税込み0.1%程度です。
では、おおぶねグローバル(長期厳選)の基準価額がこのような推移だったら成功報酬はどれぐらいになるでしょうか。
成功報酬は年率換算で税込み1.495%でした。スリム先進国株式の14倍の水準です。また、販売会社と受託会社の信託報酬は成功報酬制じゃないので、パフォーマンスに関わらずかかります。純資産総額500億円未満部分は税込み0.33%です。そもそもアクティブファンドなので、超ローコストインデックスファンドのスリム先進国株式と比較するのがおかしいと言われるかも知れません。
でもこの成功報酬、絶妙な高さに設定されてると思いませんか?
スリム米国株式(S&P500)のパフォーマンスだったら
次はスリム米国株式(S&P500)の設定以降、2021年6月25日までのリターンの推移です。この期間のリターンは年率換算で21.5%でした。
おおぶねグローバル(長期厳選)の成功報酬制を適用すると、公平の価値観が変わります。
成功報酬は年率換算で税込み1.826%でした。高いですよね。わざわざアクティブファンドを買うのだから、S&P500を凌駕するパフォーマンスを期待するでしょう。となると、これぐらいの成功報酬を負担することになるのです。公平と言われても、と思ってしまいます。
ひふみプラスのパフォーマンスだったら
次はひふみプラスの設定以降、2021年6月25日までのリターンの推移です。この期間のリターンは年率換算で45.8%でした。凄いですね。
おおぶねグローバル(長期厳選)の成功報酬制を適用すると、ひふみプラスの信託報酬(税込み1.078%)が安く感じられます。
成功報酬は年率換算で税込み2.011%でした。ひふみプラスの倍の水準です。
試算結果のまとめ
実際のファンドの基準価額の推移に、おおぶねグローバル(長期厳選)のハイ・ウォーターマーク方式を適用すると、成功報酬はかなり高額なものになりました。
固定の税込み信託報酬0.33%を加えると、アクティブファンドの高めの信託報酬と変わらないか、パフォーマンスが良いともっと高くなる、という試算結果です。
僕は高いと思いました。アクティブファンドが好きな人でも、この成功報酬は高いと感じるのではないでしょうか。
投資対象
現在26銘柄に投資しています。
引用:月次報告書
運用コスト
次は運用報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。予想通りの高さです。
税込み信託報酬は4%を超えています。成功報酬をきっちり請求されているわけです。
次はおおぶねグローバル(長期厳選)の第一期決算期間の基準価額の推移です。右端は2021年3月15日です。コロナショックによる株価暴落が底を打った直後からで、40%も上昇しています。
この期間の税込み成功報酬は計算上3.883%です。成功報酬以外の信託報酬を加算すると、税込み信託報酬は4.209%です。運用報告書にある数値は4.166%ですので、ドンピシャではありませんでしたが、予想通りの結果と言えます。
リターン比較
おおぶねグローバル(長期厳選)は信託報酬が高いアクティブファンドですから、それに相応しい比較対象を選びました。
比較期間はおおぶねグローバル(長期厳選)の設定直後を避けた、2020年4月1日から2021年6月25日までです。赤のラインが比較対象、緑のラインがおおぶねグローバル(長期厳選)です。青のラインはリターン差で、比較対象ーおおぶねグローバル(長期厳選)です。
スリム米国株式(S&P500)とのリターン比較
スリム米国株式(S&P500)の税込み信託報酬は0.0968%です。
2020年はS&P500といい勝負でしたが、2021年は差が開きました。これならS&P500で十分じゃないですか、とアクティブファンド嫌いの僕は思ってしまいます。もちろん、未来のことは分かりません。
ひふみプラスとのリターン比較
ひふみプラスの税込み信託報酬は1.078%です。
ひふみプラスに負けていましたが、2021年3月以降急速に差が縮まりました。
ひふみワールド+とのリターン比較
ひふみワールド+の税込み信託報酬は1.628%です。
ひふみワールド+の圧勝です。
セゾン資産形成の達人ファンドとのリターン比較
セゾン資産形成の達人ファンドの税込み信託報酬は1.35%程度です。
セゾン資産形成の達人ファンドに負けています。
一般販売されています
おおぶねグローバル(長期厳選)は農林中央金庫専売ではなく、一般販売されています。現在は次の3社だけです。
- SBI証券
- 楽天証券
- 松井証券
なお、おおぶねグローバル(長期厳選)は積立でしか購入できないようです。
売れ行きは
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。設定日の純資産総額が9.99億円ありました。そのうちのいくらかは運用側の初期投資かも知れません。現在の純資産総額は22億円です。
安定した資金流入がありますが、そのペースは運用会社(農林中金バリューインベストメンツ)の期待値より少ないかも知れません。でもラインの形状は悪くありません。
受益者の方は、高い成功報酬が現実のパフォーマンスに見合ったものなのかどうか、じっくり評価した方がいいと思います。
評価:絶対におすすめしません
アクティブファンドを選択するとしても、他の選択肢の方が良いです。成功報酬制が受益者に有利に働く時はパフォーマンスが低く、満足なパフォーマンスが得られる時は成功報酬が高くつきます。成功報酬制は悪くないと思いますが、最高値を更新する上昇をした場合に、上昇分の税込み11%が成功報酬になる設定がきついです。
他の商品と比較して、パフォーマンスと成功報酬を考えるとボッタクリ感が強いです。僕の感覚だと、成功報酬は現状の1/4が適正水準です。
成功報酬制という聞こえの良いワードに惑わされないようにしたいものです。