NISA制度の恒久化と非課税期間の無期限化はシン・NISAで実現されました。素晴らしいです。
次の記事に気になる記述がありました。(記事は削除されています。)
問題の箇所を引用します。
現状、「つみたてNISA」は2037年までの時限的措置で、非課税保有期間は20年とされています。これらが撤廃され、恒久的措置になれば、個人が長期的な資産形成を行うに当たって強い武器になります。例えば「つみたてNISA」の限度額は年40万円ですから、毎月の積み立て額上限は3万3000円です。これを年平均3.3%の利回りで積み立て投資を続けると、30年の積み立て期間で2000万円になります。
毎月3.3万円を年利3.3%で30年間積み立てて2,000万円にするには、非課税期間が30年必要です。記事全体を通して、つみたてNISA制度の恒久化とは次の2点だと主張しています。
- 2037年までの時限をなくして、ずっと利用できる制度にする。
- 非課税期間20年を無期限(一生涯)とする。
この記事はコモンズ投信の渋澤健会長が語った内容を文章にまとめた形として書かれています。コモンズ投信の会長が、つみたてNISA制度の恒久化に上記2点目が含まれると理解しているというのは驚きでした。僭越ながら、間違っています。
つみたてNISA制度の恒久化
金融庁のワーキンググループがまとめたまっとうで建設的な報告書にこうあります。
つみたてNISAについては、まずもって国民が長期のライフプランに沿った資産形成に安心して活用できるよう、時限を撤廃し、恒久的な措置とすることが強く望まれる。
非課税期間20年を無期限にすべきとは書かれていません。
金融庁が出した要望
次は金融庁が平成31年度税制改正に臨んで出した「NISA制度の恒久化等」と題した要望書からの引用です。
つみたてNISAの非課税期間20年の変更については書かれていません。
なお、残念ながら上記要望は、平成31年度税制改正では見送られました。
金融庁長官は
次の記事で金融庁の遠藤長官がNISA制度について思いを語っています。
この中で、NISAがお手本にした英国のISA制度についてこう触れています。
NISAは「Nippon ISA」の略。(NISAのモデルとなった)英国のISA制度は非課税期間が恒久化されている。寿命いっぱい非課税期間を使うと1億4400万円になる。NISAは800万円でしかない。
英国のISA制度では非課税期間に制限はありません。この文章から、遠藤長官はつみたてNISAも英国のISA制度のようにしたいと考えていると推測できます。その意図を汲むと、コモンズ投信の会長の理解は間違っていませんが、金融庁(の担当者)が出した要望書は現実的な(控え目な、受け入れてもらえそうな)内容に抑えられています。
みなさんもう目にするのもうんざりな、麻生太郎財務大臣の暴挙によって、インデックス投資家の希望の実現は後退しました。あのまっとうな内容の報告書をまとめた三井秀範企画市場局長は(責任を取らされたのでしょうか)退任されました。が、遠藤長官は続投となりました。一縷の望みは残された、でしょうか。
1点目だけでいいから実現して欲しい
つみたてNISAの非課税期間20年を無期限にするとか、30年、40年に拡大するのは、実現できると素晴らしいと思うものの、その前に制度を恒久化して欲しいです。僕や妻の世代ならともかく、それより若い世代の人のことを考えると必然です。
もし2点目も実現されたら
つみたてNISAが恒久化され、非課税期間20年が無期限になったらどうなるでしょうか。
2030年に20歳になったCさんは速攻で楽天証券につみたてNISA口座を開設しました。大学生でしたが親からの脅迫に近い進言もあって、毎月1万円を楽天カード決済でスリム先進国株式に投資することにしました。初年度も拠出方法を工夫して12万円を積み立てました。大学を卒業して社会人になっても毎月1万円の積み立てを継続していましたが、26歳から2万円に、30歳から33,333円に増額しました。
そして、スリム先進国株式への投資を65歳で退職するまで続けました。総積み立て期間45年です。その後10年間ホールドし続けました。Cさんが75歳になった時のつみたてNISAの評価額はいくらになっていたでしょうか。
平均年率10%
このシミュレーションにスリム先進国株式の期待リターンを年率5%として数学的に計算した基準価額を使おうと思ったのですが、年利5%で期間が55年にもなると複利効果が効きすぎて基準価額は非現実的なほど上昇します。そこでリターンの単純平均が10%なるように手動で調整したものを使います。
赤のラインが年利5%のカーブです。金利5%の定期預金ならこうなりますが、インデックスファンドでは無理です。期待リターンが5%あっても時々大きく下落あるいは暴落しながら推移します。
55年もあれば5回程度暴落しても不思議ではありません。
緑のラインは途中から伸びを抑えて平均年率を10%にしたものです。スリム先進国株式ならこれぐらいは十分あり得るでしょう。
つみたてシミュレーション
つみたてNISAの非課税期間20年が無期限になると、特定口座での積み立て投資において、予算が年間最大40万円までに制約されるのと同じです。ただし、非課税口座です。
次は前記条件で45年間積み立てた後、10年間ガチホしたシミュレーション結果です。
灰色のラインが元本です。年間40万円の非課税枠を満たせるのは30歳以降と、現実的な設定にしたので最初は伸びが悪いです。元本は1,567万円になりました。できない金額ではないでしょう。
Cさんが75歳になった時の評価額は3,772万円でした。2,205万円増やすことができました。元本を2.4倍に増やせたことになります。もちろん非課税口座ですから売却益をまるまる手にできます。
iDeCoより有利
iDeCoは年金制度として設計されたため、使いこなすのが非常に難しいです。Cさんの場合、現行制度のままだと非課税期間は20歳から70歳になるまでの50年間、拠出可能期間は40年間です。税制上圧倒的に有利な退職一時金として解約金を受け取る場合はそうなります。
CさんがつみたてNISAではなくてiDeCoで老後資産を形成しようとする場合、課題がたくさんあります。
- 勤務する会社によっては企業型確定拠出年金があってiDeCoの併用ができないかも知れない。
- その企業型確定拠出年金ではクソ投信しか選択できないかも知れない。
- iDeCoの意地悪仕様を回避できるかどうかは、退職金をもらう頃まで分からない。
iDeCoの意地悪仕様については次の記事に書きました。
仮に意地悪仕様を回避して退職所得控除をフルに受けられるとしましょう。拠出期間が最大の40年の場合、退職所得控除額は、
40万円✕20年+70万円✕20年=2,200万円
です。非課税期間の50年で評価額がつみたてNISAと同じ3,772万円になったとしましょう。その場合次の式から、
課税所得=(資産額ー退職所得控除額)÷2
課税所得は786万円になります。所得税は117万円、住民税が78万円で合計195万円課税されます。でもiDeCoへの拠出金は全額所得控除にできるので、それぐらいは軽く超える税金を支払わずに済んだはずです。
拠出金は所得控除対象になりませんが、制約のないつみたてNISAの方が有利と言えるでしょう。実際問題として、会社員がiDeCoの意地悪仕様を回避して退職所得控除をフルに受けることを計画するのは難しいです。
仮に退職所得控除額がゼロだと課税所得は1,886万円になります。所得税は474万円、住民税が188万円で合計662万円も課税されます。それって、特定口座で売却益2,205万円への譲渡税率が(その遠い未来でも)20%なら(復興特別所得税は終了してます)441万円ですから、ものすごくがっかりしますね。
できることをしよう
国が決めている制度の変更に、国民が直接関与できる少ない手段のひとつが選挙での投票ですが、現状それで変えられる気はしません。つみたてNISA制度が2037年までに恒久化されるかどうかは分かりませんが、賢明なインデックス投資家がすべきことは、現在利用できる有利な制度は最大限活用するということです。それは人に頼らなくても自分で決めて行動すれば実行可能です。
2019年8月1日追記
記事の信憑性に疑問を感じますが、金融庁にはめげずに頑張って欲しいです。
上記記事で大事なところはこれです。
金融庁が目先、政治への働きかけで注力するのは例年8月に予定する税制改正要望だ。今は時限措置である少額投資非課税制度(NISA)の恒久化を求める見通し。だが報告書が未完のままでは恒久化への議論を深められないのではないか、との懸念が横たわる。
僕はまず、つみたてNISAの時限を撤廃して欲しいです。非課税期間の無期限化は後で良いです。一緒にやろうとして共倒れするのは避けて欲しいです。金融庁頑張れ。
ついでに厚生労働省も頑張れ。
