スリム国内リートは信託報酬が最安の国内リートインデックスです。ところがごまかしの効かない基準価額データは、信託報酬が高いFunds-i J-REITとトータルコストがほぼ同じであることを示しています。
ありえなさそうな話ですが、これが現実です。
更新情報
第二期運用報告書の内容を反映させました。また、参照しているデータを最新版に更新しています。
スリム国内リート
2019年10月31日に税抜き信託報酬0.17%で設定されました。当時最安水準だったSmart-i Jリートと同率です。以来、信託報酬は引き下げられていません。
ベンチマークは東証REIT指数です。
スリム国内リートは、eMAXIS国内リート(税抜き信託報酬0.40%)の廉価版です。マザーファンドは同じです。
国内リートインデックスは株式に投資しないため、つみたてNISA適格要件を満たせません。そのため、スリム国内リートはつみたてNISA適格ではありません。
またiDeCoナビによると松井証券のiDeCo口座で扱われています。
意味のない受益者還元型信託報酬制度
スリムシリーズは純資産総額が500億円、1,000億円を超えると信託報酬が漸減される「受益者還元型信託報酬制度」を採用しています。漸減率は商品によって異なりますが、スリム国内リートのものは小さすぎて意味がありません。
この漸減率はスリム全世界株式(オール・カントリー)やスリム米国株式(S&P500)と同じで、シリーズ最小です。
次は信託報酬が漸減される様子を示したグラフです。純資産総額が500億円を超えると減り始め、1,000億円を超えると減り方が変わります。右端は2,000億円ですが、それだけ増えても0.1694%程度ですから、たったの0.0006%ポイントしか減りません。
競合商品との比較で、メリットのひとつとして宣伝されるかも知れませんが、実質的な効果は期待できません。
運用コスト=信託報酬+隠れコスト
運用コスト(トータルコスト)は信託報酬と隠れコストの合計です。次は運用報告書から計算したトータルコストです。
隠れコストは株式インデックス(スリム先進国株式とかオール・カントリーなど)よりひと桁少ないです。
また第二期決算期間の隠れコストは、第一期よりも削減されています。
でももう桁が少なくて誤差範囲でしょう。隠れコストが安いのは、投資対象が国内リートゆえと思われます。
リターン比較
ベンチマークが同じ商品と比較します。
eMAXIS国内リートとの比較
次はスリム国内リートの設定直後を避けた、2019年11月15日から2022年3月18日までの、eMAXIS国内リートとの比較です。
青のラインはリターン差で、スリム国内リートーeMAXIS国内リートです。コロナショック時の段差は、スリム国内リートの下方乖離です。これについては後述します。
次は下方乖離を起こした後の、2020年3月12日からの比較です。
青のラインの傾きは、トータルコスト差を示しています。マザーファンドが同じなので、きれいな右肩上がりの直線です。
次はスリム国内リートの運用コストを年率0.17%ポイントを増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりました。直近は増量し足りないです。運用報告書から計算したトータル差からすると、0.25%ポイントが適量です。それが、0.17%ポイントで良いということは、現実には期待されただけのコスト差がない、ということを意味します。これはとても残念な結果ですが、どうしてそうなったのかは分かりません。
Smart-i Jリートとの比較
次は2019年11月15日から2022年3月18日までの、Smart-i Jリートとの比較です。どちらも税抜き信託報酬は0.17%です。
青のラインはスリム国内リートーSmart-i Jリートです。互角です。
Funds-i J-REITとの比較
次はFunds-i J-REITとの比較です。Funds-i J-REITの税抜き信託報酬は0.40%です。コロナショックによる株価暴落から回復基調になった、2020年4月1日から2022年3月18日までの比較です。
青のラインはスリム国内リートーFunds-i J-REITです。右肩上がりの直線になるのが期待値ですが、そうなっていません。これは、スリム国内リートとFunds-i J-REITのリターンにあまり差がない、つまり、トータルコストがほぼ同じであることを示しています。
ありえないですか?でも基準価額には運用の上手い下手も含めて、あらやるコストが反映されていると言われています。スリム国内リートとFunds-i J-REITのトータルコストはほぼ同じ、これが現実です。
スリム国内リートは下方乖離を起こしました
次は2019年11月15日から2020年4月10日までの、eMAXIS国内リートとの比較です。
赤の矢印の位置で段差ができていますが、これはスリム国内リートが下方乖離を起こしたためです。下がったのは3月2日と3日の2日間です。
次はスリム国内リートの、設定日から2020年4月10日までの、資金流出入額の累計の推移です。
2月中旬から8億円ほど買われた後、同程度売られています。次は2020年年初から4月10日までの、営業日ごとの資金流出入額の推移です。
ドカンと下がっている(売られている)のは3月2日です。3日も売られています。4日は買われています。スリム国内リートの2月28日の純資産総額は13.7億円でした。その翌営業日に5億円近く売られたのが、下方乖離の原因だと推測されます。
売却コスト負担?
有価証券の売買では売買委託手数料が発生します。スリム国内リートには解約時信託財産留保額がないので、売却時に発生するコストは、受益者全員で負担します。2日間でベビーファンドの純資産総額の50%を超える金額が売られたことによるコスト負担が、リターンを大きく押し下げたのではないでしょうか。
解約時信託財産留保額があれば、こういう極端なリターンの劣化は防げたかも知れません。が、時代の流れとしては、解約時信託財産留保額は設定されない方向です。近年設定された超ローコスト投信で、解約時信託財産留保額が設定されたものを僕は知りません。
三菱UFJ国際投信の回答
2020年5月1日にオンラインのみでブロガーミーティングが開催されました。僕は当日参加できなくなってしまったのですが、事前に行った質問に対して回答してもらえたようです。
次は青井ノボルさんのブログからの引用です。
Slim国内リートが3月上旬に下方乖離が発生した要因は
3月上旬に非常に大きな解約があった。(全体の4割程度の規模だった模様)
大量の解約があると、付随する売買コストが生じることで下方乖離の一因となっている。
騰落が激しいマーケットで、資金の出入りがあると、乖離する一因となる。
乖離をどう最小化するか、引き続き考えたい。
予想通りでしたね。
売れています
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。純資産総額は97億円です。
安定した資金流入が継続していますが、圧倒的ではありません。スリム国内リートは歴史が浅いので無理もないです。
次はニッセイJリート、たわら国内リートもプロットしたものです。ニッセイJリートの純資産総額は154億円です。
緑のラインがニッセイJリート、青のラインがたわら国内リートです。資金流入の様子からは、スリム国内リートが高い人気を獲得できていると言えますが、純資産総額ではまだ負けています。
評価:良い選択肢ですが不満があります
基準価額データは、スリム国内リートとFunds-i J-REITのトータルコストが変わらないことを示しています。Funds-i J-REITの税抜き信託報酬は、スリム国内リートより0.23%ポイントも高いのに、リターンに差がないというのはなぜなのでしょうか。謎なんですが、僕は不満です。
そうは言うものの、国内リートインデックスの中では一番おすすめできます。
- スリムシリーズゆえに、将来の信託報酬引き下げに(他社商品対抗で同率にまで下がることに)期待が持てる。
- 安定した人気を獲得できている。
- Funds-i J-REITには解約時信託財産留保額0.3%が設定されている。(スリム国内リートはなし。)
スリムシリーズが嫌いなら、Smart-i Jリートがいいと思います。