スリムシリーズはeMAXISシリーズの廉価版ですが、先にスリムシリーズに設定され、後からより高い信託報酬でeMAXISシリーズに設定された商品があります。eMAXIS S&P500です。どうして設定したの?意味あるの?
その疑問への答えは、限られた販社数から想像できるような気がしています。
eMAXIS S&P500
2020年12月14日に税抜き信託報酬0.30%で設定されました。S&P500種指数に連動する商品は、すでにスリムシリーズと、つみたてんとうシリーズで設定済みであったにも関わらず、eMAXISシリーズにも設定されたことに驚きました。スリム米国株式(S&P500)の税込み信託報酬はわずか0.088%、つみたて米国株式(S&P500)は0.20%です。遅れてeMAXISシリーズに、より高い信託報酬で設定するのはどうしてでしょうか。
マザーファンドはスリム米国株式(S&P500)、つみたて米国株式(S&P500)と同じで、運用の安定性は実証済みです。違うのは、信託報酬と販路(=顧客層)です。
また、意外なことに、eMAXIS S&P500はつみたてNISA適格ではありません。適格申請すれば問題なく通るところを、あえて申請していないのだと思われます。
運用コスト
次は運用報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。スリム米国株式(S&P500)と比較しています。
マザーファンドが同じなので、隠れコストも同水準なのが期待値ですが、eMAXIS S&P500の隠れコストはスリム米国株式(S&P500)より高いです。これは決算期間の違いによるものかも知れません。
次は隠れコストの明細です。
eMAXIS S&P500は全体的にスリム米国株式(S&P500)より高いです。とは言っても、隠れコストは十分低水準です。
VOOトータルリターンとのリターン比較
次はVOOトータルリターンとの比較です。eMAXIS S&P500の設定直後を避けた2021年1月7日から2021年6月30日までです。
青のラインはリターン差で、VOOトータルリターンーeMAXIS S&P500です。その傾きはeMAXIS S&P500のトータルコストを示しています。
次はVOOトータルリターンの運用コストを年率0.41%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりました。これは、スリム米国株式(S&P500)との比較結果からも、期待通りと言えます。
スリム米国株式(S&P500)とのリターン比較
次はスリム米国株式とのリターン比較です。縦軸のスケールを変更しています。
青のラインはスリム米国株式ーeMAXIS S&P500です。運用報告書から計算したトータルコスト差は0.26%程度です。
次はスリム米国株式の運用コストを年率0.23%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりました。この様子だと、スリム米国株式の隠れコストは(つみたて米国株式から見た)期待値より0.03%ポイントほど高いかも知れません。
少ない販社
eMAXIS S&P500を扱っているのはたったの5社です。
- 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
- 中銀証券
- 山形銀行
- 百十四銀行
- 福井銀行
設定当初は百十四銀行だけでした。eMAXISシリーズに設定する合理性が見えないこと、つみたてNISA適格でないこと、販社が少なくネット証券で扱っていないことなどから、あまり健全でない理由でやむなく設定されたのではないかと、勘ぐってしまいます。
売れ行きは
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。純資産価額は9.62億円です。
スリム米国株式(S&P500)、つみたて米国株式(S&P500)ではなくて、高コストなeMAXIS S&P500がこれだけ買われていることに驚きます。前記販社のどこかが太客とつながっているのでしょうか。
次はつみたて米国株式(S&P500)もプロットしたものです。意外なことに、つみたて米国株式(S&P500)は不人気で売れていません。
緑のラインがつみたて米国株式(S&P500)です。eMAXIS S&P500にあっさり抜かれてしまいました。
評価:別世界の人のための商品です
S&P500種指数に投資するのに、ネット証券が使えるならスリム米国株式(S&P500)がおすすめです。金融機関の対面販売が好みなら、つみたて米国株式(S&P500)が良い選択肢になります。
eMAXIS S&P500は高い信託報酬と限られた販社から、みなさんをターゲットにしていないことは明らかです。別世界の限られた人のために設定された商品と言っていいでしょう。