新興国株式

スリム新興国株式の運用コストと評価

新興国株式で人気が高いベンチマークは、MSCIエマージング・マーケットです。つみたてNISA認定の新興国株式インデックスファンド12本中、10本がこのベンチマークを採用しています。

MSCIエマージング・マーケットに投資する場合、スリム新興国株式は低コストで人気が高く、安心しておすすめできます。

更新情報

第五期運用報告書の内容を反映させています。また参照しているデータを最新版に更新しています。

スリム新興国株式

スリムシリーズ第一弾から5ヶ月遅れの、2017年7月31日に設定されました。税抜き信託報酬は当時最安水準の0.340%でしたが、その後4回引き下げられて現在は0.170%です。(正しくは2020年9月25日からです。)

次は信託報酬引き下げ履歴です。

スリム新興国株式の信託報酬引き下げ履歴表

特にEXE-i つみたて新興国株式(その後SBI新興国株式に改名)への対抗値下げが話題になりました。EXE-i つみたて新興国株式の驚異的な低信託報酬は、ETFを買うだけのインデックスファンドだからこそ可能だたと思われましたが、それに現物株運用のスリム新興国株式が対抗することに驚いたものです。(でもその姿勢が現在のスリムシリーズの高い人気の礎になっているはずです。)

意味のない受益者還元型信託報酬制度

スリムシリーズは純資産総額が500億円、1,000億円を超えると信託報酬が漸減される「受益者還元型信託報酬制度」を採用しています。漸減率は商品によって異なりますが、スリム新興国株式のものは(税抜き信託報酬が0.189%の頃は)十分意味がありました。

スリム新興国株式の受益者還元型信託報酬制度の表、税抜き信託報酬が0.189%の時

ところがSBI新興国株式への対抗で税抜き信託報酬を0.170%に引き下げた時に、漸減率が1/10に圧縮されてしまいました。

スリム新興国株式の受益者還元型信託報酬制度の表、税抜き信託報酬が0.170%のもの

この漸減率はスリム全世界株式(オール・カントリー)やスリム米国株式(S&P500)と同じで、シリーズ最小です。

次は信託報酬が漸減される様子を示したグラフです。純資産総額が500億円を超えると減り始め、1,000億円を超えると減り方が変わります。右端は2,000億円ですが、それだけ増えても0.1694%程度ですから、たったの0.0006%ポイントしか減りません。

スリム新興国株式の信託報酬が漸減される様子を示したグラフ

現在の純資産総額は赤丸の位置で、税抜き信託報酬は0.1698%です。競合商品との比較で、メリットのひとつとして宣伝されるかも知れませんが、実質的な効果は期待できません。

運用コスト=信託報酬+隠れコスト

運用コスト(トータルコスト)は信託報酬と、運用報告書が公開されるまで分からない隠れコストの合計です。運用報告書にある数値は、運用会社ごとに異なる基準で記載されるようなので、その扱いに難がありますが、一応の目安にはなります。

次は運用報告書から計算したトータルコストです。

運用報告書から計算したトータルコスト表

一般的に新興国株式インデックスの隠れコストは、先進国株式や米国株式に比べて高いです。スリムシリーズで見ると、3、4倍もします。

第五期決算期間は、第四期と同じ水準でした。隠れコストの改善も限界が近いのでしょうか。

トータルコストの第三期から第五期の比較表

このスリム新興国株式のトータルコスト0.3635%はMSCIエマージング・マーケット連動商品の中で最低水準です。

リターン比較

ベンチマークが同じ商品と比較します。スリム新興国株式の税抜き信託報酬が0.189%になった2018年7月25日から2022年7月1日までを比較します。

eMAXIS新興国株式との比較

次はeMAXIS新興国株式との比較です。

スリム新興国株式とeMAXIS新興国株式とのリターン比較グラフ

青のラインはリターン差で、スリム新興国株式ーeMAXIS新興国株式です。青のラインの傾きはトータルコスト差を示しています。コロナショックによる株価暴落時に凹んでいるのは想定通りです。

次はスリム新興国株式の運用コストを年率0.42%ポイント増量したものとの比較です。

スリム新興国株式の運用コストを年率0.42%ポイント増量したものとの比較グラフ

青のラインは真っ平らになりました。マザーファンドが同じだからこそ得られる結果です。

運用報告書から計算したトータルコスト差は0.47%ポイント程度なので、どんぴしゃりではありませんが、ほぼ期待通りです。

ニッセイ新興国株式との比較

次はニッセイ外国株式との比較です。ニッセイ新興国株式の税抜き信託報酬は0189%です。

スリム新興国株式とニッセイ新興国株式のリターン比較グラフ

青のラインはスリム新興国株式ーニッセイ新興国株式です。おおむね右肩上がりなので、スリム新興国株式の方が低コストと言えます。

たわら新興国株式との比較

次はたわら新興国株式との比較です。たわら新興国株式の税抜き信託報酬は0.34%です。

スリム新興国株式とたわら新興国株式のリターン比較グラフ

青のラインはスリム新興国株式ーたわら新興国株式です。コロナショックによる株価暴落時にリターン差が開いています。新興国株式であれだけの株価変動があったのですから、期待通りの運用ができなくても仕方なかったかも知れません。

青のラインの傾向からも分かる通り、たわら新興国株式は高コストです。税抜き信託報酬からも分かる通り、コスト意識のある人は選択しませんね。

Fund of the Yearの順位

次はeMAXIS新興国株式とスリム新興国株式の、Fund of the Yearの順位です。スリム新興国株式は2017年度から対象です。

eMAXIS新興国株式とスリム新興国株式の、Fund of the Yearの順位表

eMAXIS新興国株式はかつて人気の高い商品だったことが分かります。設定されたのは2009年10月28日なので、2009年度は信託報酬だけ見て(実力も何も分からないまま)投票して2位でした。

2016年から選外になったのは、よりローコストな商品の登場と、新興国株式そのものの人気の(相対的な)低下が要因だと思います。それは、圧倒的な低コストのスリム新興国株式ですら、上位にランクインできないことからも分かります。FOY2020では選外になってしまいましたが、FOY2021は20位に戻しました。

Fund of the Yearは単なる人気投票に過ぎず、好調な資産クラスが票を集める傾向が強いですね。

新興国株式インデックスでは売れています

次はeMAXIS新興国株式とスリム新興国株式の、設定来の資金流出入額の累計の推移です。純資産総額はeMAXIS新興国株式が333億円、スリム新興国株式が856億円です。

eMAXIS新興国株式とスリム新興国株式の、設定来の資金流出入額の累計の推移グラフ

緑のラインがeMAXIS新興国株式、赤のラインがスリム新興国株式です。eMAXIS新興国株式は資金流出傾向が続いていましたが、最近は横ばいです。コスト意識のある受益者なら、新規投資はスリム新興国株式にするでしょうからね。

次はスリム新興国株式だけをプロットしたものです。

スリム新興国株式の、設定来の資金流出入額の累計の推移グラフ

一定のペースで増加しています。スリム米国株式(S&P500)やスリム全世界株式(オール・カントリー)のように「圧倒的」ではありませんが、人気は手堅いです。

つみたてNISA適格の新興国株式インデックスの中では、スリム新興国株式はダントツで売れています。

評価:MSCIエマージング・マーケットに投資するならスリム新興国株式一択で

MSCIエマージング・マーケットに投資する場合、スリムシリーズが嫌いでなければ、スリム新興国株式一択でいいです。トータルコスト、人気(純資産総額)を考えるとそうなります。これには僕のポジショントークもいくらか入っていますが、スリムシリーズが嫌いでなければ後悔することはないでしょう。

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