米国株式

スリム米国株式(S&P500)の運用コストと評価

近年、米国株式インデックスの人気が高まっています。ベンチマークで言うと、楽天全米株式のCRSP USトータル・マーケット・インデックスと、スリム米国株式に代表されるS&P500種指数が、つみたてNISAの指定インデックスでもあることから、人気を二分しています。

現在、スリム米国株式は人気を加速させていて、絶好調です。でも乗り越えなければならない壁がありました。

スリム米国株式(S&P500)の信託報酬引き下げ履歴

スリム米国株式はこれまで信託報酬を2回引き下げています。すべて同率への対抗値下げです。次はその履歴をまとめた表です。

スリム米国株式(S&P500)の信託報酬引き下げ履歴表

対抗した楽天全米株式とSBIバンガードS&P500は、どちらもバンガード社のETFを買うだけのインデックスファンドです。その組成上、税抜き信託報酬は運用会社の信託報酬と、ETFの経費率の合計ですが、後者は非課税です。そのため税込み信託報酬では同率最安にはなりません。この税抜き信託報酬に同率で対抗する姿勢は、スリムシリーズ共通です。

過去の信託報酬引き下げの話はこれくらいでいいって方は、ここまで飛ばして下さい。

SBIバンガードS&P500への対抗値下げ

SBIバンガードS&P500が、税抜き信託報酬0.088%という衝撃的な安さで設定されると発表されたのは、2019年8月27日でした。スリムシリーズは「業界最低水準の運用コストを目指す」を売り文句にしているので、対抗値下げしてその姿勢を貫くのか、ギブアップして受益者をがっかりさせるのか、大いに注目されました。

当時のスリム米国株式の税抜き信託報酬は0.15%だったので、対抗すると削減率は41.3%というとんでもないものでした。それまで、三菱UFJ国際投信は大した日数をおかずに対抗値下げを発表していたのですが、その時は長い期間沈黙を守りました。そして、期待通りの対抗値下げを発表するまでに45日もかかったのです。

対抗値下げを発表するまでに45日もかかった理由

三菱UFJ国際投信主催のブロガーミーティングで質問しました。

  • SBIバンガードS&P500の発表から、対抗値下げの発表まで45日もかかりましたが、それは販社との交渉が長引いたからでしょうか。ネットでは信託報酬0.10%までは三菱UFJ国際投信だけの判断で引き下げられるが、それを超えると販社の了解を得る必要があるという憶測も流れていました。
  • 今後、一層の信託報酬引き下げがある場合、再度販社との協議が必要なものでしょうか。

代田常務執行役員から直球の回答が頂けました。ありがとうございます。

  • 発表までに45日かかったのは社内の事情。販社は関係ない。
  • スリムシリーズを扱って頂く時点で販社様には信託報酬を三菱UFJ国際投信の判断で変更することを了解してもらっている(表現は違いますが、意味的にはこうでした)。
  • 信託報酬は、今後も三菱UFJ国際投信の判断のみで引き下げられる。

なるほど、そうだったのですね。

この質問の前に、SBIバンガードS&P500への対抗値下げの発表が遅れて多くの人に心配をかけてしまったことへの言及と、次の説明がありました。

  • スリム米国株式の信託報酬を税抜き0.088%まで引き下げたかった。
  • そうすると信託報酬に占める三菱UFJ国際投信の取り分は0.034%になるが、それで運用を続けていけるコスト構造にできるかが課題だった。
  • 信託報酬を引き下げたものの、途中でやめる(繰上償還する)わけにはいかない。それは絶対に避けなければならない。
  • コスト構造の見直しのメドが付いたので対抗値下げを決めた。

乗り越えなければならかった壁は、とても高かったわけです。

でも、この対抗値下げの効果(と思われるもの)を実感するのに、時間はかかりませんでした。

運用コスト=信託報酬+隠れコスト

運用コスト(トータルコスト)は信託報酬と隠れコストの合計です。隠れコストは運用報告書に記載されている、売買委託手数料、有価証券取引税、保管費用、監査費用などから構成されます。

次はスリム米国株式の運用報告書から計算したトータルコストです。

スリム米国株式(S&P500)のトータルコスト表

運用報告書に書かれている数値はあてにならないのですが、それでも同じ運用会社の同じシリーズのものなら算出方法、掲載基準は同じだと思われます。次はスリム先進国株式のトータルコストです。

スリム先進国株式のトータルコスト表

隠れコストはほぼ同じです。このことから、スリム米国株式の隠れコストは(よって運用コストも)低水準で期待通りだと判断します。

意味のない受益者還元型信託報酬制度

スリムシリーズは純資産総額が500億円、1,000億円を超えると信託報酬が漸減される「受益者還元型信託報酬制度」を採用しています。でもスリム米国株式の漸減率は小さすぎて意味ありません。

スリム米国株式(S&P500)の受益者還元型信託報酬制度による信託報酬一覧表

2段階の引き下げ率はたったの0.0005%ポイントです。税抜き信託報酬を0.15%から0.088%に引き下げた時に、1/10に圧縮されてしまいました。流石に信託報酬が激安すぎて、削減幅を減らさないと成立しなかったのでしょう。

次は信託報酬が漸減される様子を示したグラフです。純資産総額が500億円を超えると減り始め、1,000億円を超えると減り方が変わります。右端は2,000億円ですが、それだけ増えても0.0874%程度ですから、たったの0.0006%ポイントしか減りません。

スリム米国株式の信託報酬が漸減される様子を示したグラフ

現在の純資産総額は赤丸の位置で、税抜き信託報酬は0.0878%です。競合商品との比較で、メリットのひとつとして宣伝されるかも知れませんが、実質的な効果は期待できません。

ではその運用はベンチマーク通りで安定しているでしょうか。

スリム米国株式(S&P500)のベンチマーク

スリム米国株式と同じマザーファンドを利用するETFである「MAXIS米国株式(S&P500)上場投信」の指数データを参照します。

MAXIS米国株式(S&P500)上場投信

指数は3種類ありますが、課税後の配当金を再投資したネットトータルリターンを「ベンチマーク」として使用します。

スリム米国株式(S&P500)とベンチマークのリターン比較

次はスリム米国株式の設定日から、2020年4月30日までの、スリム米国株式とベンチマークのリターン比較です。

スリム米国株式の設定日から、2020年4月30日までの、スリム米国株式とベンチマークのリターン比較グラフ

青のラインはリターン差で、スリム米国株式ーベンチマークです。青のラインは右肩上がりで推移するのが期待値ですが、設定日直後はそうなっていません。運用が安定していなかったためだと思われます。

黄色で塗った期間はきれいな右肩上がりの直線になっています。株価暴落後はリターン差のラインがヘタっていますが、これは想定通りで問題ありません。

次は黄色に塗った期間での比較です。青のラインは(ほぼ)きれいな直線になりました。(流石にブラック・クリスマスの位置にはトゲがありますね。)

スリム米国株式とベンチマークのリターン比較グラフ、運用が安定している期間のみ

この比較結果から、スリム米国株式の運用は、2018年11月10日以降はベンチマーク通りで安定していると判断します。じゃあ設定されてからの約4ヶ月は安定してなかったの?そうですね、僕は「期待通りの運用ではなかった」と考えています。

設定後約4ヶ月間の運用は期待通りではなかった?

次はスリム米国株式が設定されてから、税抜き信託報酬を0.088%に引き下げるまでの、ステートストリート米国株式とのリターン比較です。ステートストリート米国株式もS&P500種指数をベンチマークにしていますが、税抜き信託報酬が0.45%と高額です。

スリム米国株式とステートストリート米国株式とのリターン比較グラフ

2018年11月10日までを黄色に塗っています。この比較結果から、設定後約4ヶ月間はステートストリート米国株式と運用コストに差がなかったと推測できます。つまり、期待通りの低コストな運用ができていなかったと思われます。この壁を乗り越えずに、現在の評価はありませんでした。

iFree S&P500とのリターン比較

iFree S&P500はスリム米国株式より10ヶ月早く設定されましたが、残念ながら人気を獲得することができませんでした。税抜き信託報酬は0.225%とやる気満々でしたが、その3ヶ月後に税抜き信託報酬0.16%で登場した楽天全米株式に持って行かれたのかも知れません。

次はスリム米国株式の運用が安定した、2018年11月12日から、株価暴落開始前の2020年2月20日までのリターン比較です。

iFree S&P500とのリターン比較グラフ

青のラインはスリム米国株式ーiFree S&P500です。右肩上がりで推移しているので、期待通り、スリム米国株式の方が低コストだと考えられます。

SBIバンガードS&P500とのリターン比較

SBIバンガードS&P500は、バンガード社のETFであるVOOを買うだけのインデックスファンドです。SBIバンガードS&P500も設定直後は運用が不安定でしたので、その時期を避けて2019年10月16日から比較します。

スリム米国株式とSBIバンガードS&P500のリターン比較グラフ

青のラインはスリム米国株式ーSBIバンガードS&P500です。解釈しにくい推移をしています。

次は同じ比較期間における、スリム米国株式とベンチマークの比較です。グラフのスケールは同じです。

スリム米国株式とベンチマークの比較グラフ、その2

スリム米国株式の運用はほぼベンチマーク通りでした。次は同じ比較をSBIバンガードS&P500と行ったものです。

SBIバンガードS&P500とベンチマークの比較グラフ

これはSBIバンガードS&P500のリターンは、スリム米国株式に劣後していることを示しています。

その他の分析結果も踏まえ、現状、スリム米国株式とSBIバンガードS&P500の税抜き信託報酬は同一ですが、運用コストはスリム米国株式の方が安いと考えています。

Fund of the Yearの順位

米国株式インデックスの人気に火を付けたのは、楽天全米株式です。スリム米国株式は楽天全米株式を目標にしたはずです。

次は楽天全米株式とスリム米国株式の、Fund of the Yearの順位です。スリム米国株式は2018年度から対象です。

楽天全米株式とスリム米国株式のFund of the Yearの順位表

Fund of the Yearはごく限られた投資家の投票結果であり、一般の受益者の動向と同じではありません。楽天全米株式は順位を落としていますが、資金流入で見た人気は盤石です。

スリム米国株式は初年度は8位でしたが、二年目は2位と躍進しました。その背景には、税抜き信託報酬を0.088%に引き下げたことへの評価があったでしょうね。

楽天全米株式を追い抜く勢いのスリム米国株式(S&P500)

次は楽天全米株式とスリム米国株式の、設定来の資金流出入額の累計の推移です。楽天全米株式の純資産総額は984億円、スリム米国株式は974億円です。

楽天全米株式とスリム米国株式の、設定来の資金流出入額の累計の推移グラフ

赤のラインがスリム米国株式、緑のラインが楽天全米株式です。スリム米国株式が税抜き信託報酬を0.088%に引き下げた以降を黄色に、株価暴落開始以降をピンクに塗ってあります。因果関係は不明ですが、スリム米国株式の最近の資金流入は驚異的です。

楽天全米株式の人気は盤石で、株価暴落開始後に買い増しされていますが、スリム米国株式の人気はそれを上回っています。楽天全米株式の純資産総額を追い抜くのは時間の問題です。

iDeCoでも買えます

次の金融機関で、iDeCoの取り扱いがあります。

  • SBI証券(セレクトプラン)
  • マネックス証券

結論:S&P500種指数に投資するなら最適解です

S&P500種指数に投資したい場合、信託報酬を考慮すると次の商品が選択肢になります。(設定されて間もないものは除外しました。)

  • スリム米国株式
  • SBIバンガードS&P500
  • iFree S&P500

運用コスト、ベンチマークとのリターン比較に見る運用の安定性、純資産総額(人気)を考慮すると、スリム米国株式が最適解となります。おそらく、SBIバンガードS&P500は将来運用コストを削減できると予想しますが、現時点ではスリム米国株式の方が有利です。

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