SBI・V・S&P500は、バンガード社のETFであるVOOを買うだけのインデックスファンドです。そのため、SBI VOOと呼ばれることもあります。VOOを自分で買う場合に生じるデメリットを解消してくれる代わりに、SBIアセットマネジメントが徴収する運用コストを負担しなければなりません。その運用コストは、信託報酬と隠れコストから構成され、毎営業日、純資産から天引きされます。
でもその運用コストがクセモノです。
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SBIバンガードS&P500の衝撃的デビュー
SBIバンガードS&P500が、税抜き信託報酬0.088%という衝撃的な安さで設定されると発表されたのは、2019年8月27日でした。当時、楽天全米株式とスリム米国株式の税抜き信託報酬は0.15%でした。ニッセイ外国株式とスリム先進国株式の税抜き信託報酬は0.0999%でした。
設定日は2019年9月26日ですが、その前の14日間(8営業日)に事前募集を実施し、16.38億円を集めました。(そのうちいくらかはSBIアセットマネジメントによる初期投資の可能性があります。)資産10億円を集められないファンドがゴロゴロあることを考えると、素晴らしいスタートを切ったと言えます。
設定後も高い人気を獲得し、順調に売れています。が、残念ながら運用コストは期待値より高いです。削減努力が必要です。
SBIバンガードS&P500からSBI・V・S&P500に改名
SBIバンガードS&P500は、2021年6月15日に、SBI・V・S&P500に改名されました。名称以外はそのままです。
SBI・V・S&P500の運用コスト(実質コスト)を推測する方法
SBI・V・S&P500はVOOを受益者に代わって買います。その価格はVOOの終値です。また、VOOから年4回配当金が出ますが、それを国内課税なしで再投資します。
次の手順でVOOトータルリターンを生成します。
- 2011年1月5日に10,000円でVOOを買ったことにします。扱う株数は「端株数」です。つまり、VOOの取引価格が9,500円なら1.0526株買ったことになります。
- 配当金が出たら米国での10%課税後のドルを再投資します。税引き後の配当金でVOOを端株数で買うのです。そうして保有株数を増やします。保有株数が増えるのは配当金を再投資した時だけです。
- 円をドルに替える為替手数料もVOOの購入手数料もゼロとします。
- 評価額は円換算して求めます。
- 評価額の推移を指数化します。
たとえると、架空の証券会社がVOOを買うだけのインデックスファンドを運用して、配当金の再投資までしますが、信託報酬も隠れコストもゼロ円の場合の基準価額の推移を生成するようなものです。そのため、このトータルリターンは現実にはありえない仮想的なものです。
これとSBI・V・S&P500の基準価額の推移を比較することで次のコストの総和が推測できます。(VOOの経費率を除きます。)
- 純資産から毎営業日天引きされている信託報酬。
- 運用報告書に記載される、隠れコストと呼ばれる、信託報酬以外のコスト。売買委託手数料、有価証券取引税、監査費用、保管費用など。
- SBI・V・S&P500がコストとは認識しないものの、運用で生じたロス。たとえば純資産の一部を現金で保有したことによる機会損失。
信託報酬、隠れコスト、ETFの経費率を合算したものは、実質コストとも呼ばれます。この記事では実質コスト=トータルコストです。
VOOトータルリターンとの比較
前フリは要らないって方はここまで飛ばして下さい。
次はあえてSBI・V・S&P500の設定来の、VOOトータルリターンとの比較です。右端は2020年4月末です。
青のラインはVOOトータルリターンーSBI・V・S&P500です。赤く塗った、株価暴落開始後はリターン差から運用コストを推測できないので、除外します。
問題は、設定直後の黄色に塗った期間です。大きく落ち込んでいますが、これはVOOトータルリターンよりSBI・V・S&P500の方がリターンが高かったことを示しています。いやいや、そんなの理論的に不可能でしょ。
VOOの配当金の扱い
次はVOOトータルリターンと取引価格の2019年年初からの比較です。右端は2020年1月末です。
青のラインが階段状になっているところで配当金が出ています。VOOトータルリターンは配当金を再投資しているため、リターンが上昇します。
次は9月26日頃を拡大したものです。架空の証券会社は9月27日に配当金を再投資しています。
SBI・V・S&P500の設定日は9月26日ですが、その日は配当金の権利落ち日なので、おそらく27日に配当金をもらっていると思われます。それを確かめる方法があります。
次はSBI・V・S&P500とVOOの取引価格の比較です。
青のラインは9月27日に約0.5%ポイント跳ね上がっています。配当金が純資産に取り込まれた動かぬ証拠です。配当金の権利落ち日に設定して翌日ちゃっかり配当金をもらっていたわけです。いや、別に批判しているわけではありません。謎解きしているだけです。
第一期決算期間
第一期決算期間のことはいいやって方はここまで飛ばして下さい。
運用コストの推測
次はSBI・V・S&P500の設定直後を避けた、2019年10月16日から第一期決算期間最終日(2020年9月14日)までの、VOOトータルリターンとSBI・V・S&P500の比較です。
青のラインはVOOトータルリターンーSBI・V・S&P500です。右肩上がりの傾きは、SBI・V・S&P500の運用コストの大きさを示しています。
次は同じ期間における、VTIトータルリターンと楽天全米株式の比較です。グラフのスケールは同じです。
巨大なトゲは無視して下さい。青のラインの傾きがずいぶん小さいです。このことから、SBI・V・S&P500固有の運用コストは、間違いなく楽天全米株式より大きいと推測できます。僕には他の説明が思い付きません。
次はコロナショックによる株価暴落前までを切り出したものです。
次はVOOトータルリターンの運用コストを年率0.60%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりました。次はコロナショックによる株価暴落から回復途上の、2020年4月1日から、第一期決算期間終了日の9月14日までを切り出したものです。
次はVOOトータルリターンの運用コストを年率0.55%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりました。この比較結果から、控え目に見ても、SBI・V・S&P500固有の運用コストは年率0.55%あると推測できます。よって、VOOの経費率0.03%を加えた0.58%が税込みトータルコストの推測値となります。本当だったらがっかりですね。
ちなみに、同一期間における楽天全米株式とVTIトータルリターンの比較で必要だったコスト増量分は、暴落前が0.21%ポイント、暴落後が0.42%ポイントでした。
運用報告書から計算した運用コスト
次は第一期運用報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。
隠れコストが異様に安いです。次は隠れコストの明細です。
気になっていた売買委託手数料がゼロです。SBI・V・S&P500は、売買委託手数料と有価証券取引税が計上されていません。
運用報告書ではこうなっています。
次はSBI・V・S&P500と同様の運用をしている、楽天全米株式の隠れコストの3期比較です。
楽天全米株式(と楽天全世界株式)の第一期決算期間は売買委託手数料が高額で、多くの人をがっかりさせました。が、第二期、第三期は大幅な削減ができています。
次はSBI全世界株式の隠れコストの2期比較です。
SBI全世界株式が計上していて、SBI・V・S&P500が計上していない理由をSBIアセットマネジメントに問い合わせました。
- VOOをブローカーではなくて、マーケットメーカーから買っているので、売買委託手数料は発生しません。
- 第一期は資金流入が続いたので、SBI・V・S&P500を売っていません。そのため有価証券取引税は発生していません。
とのことでした。よって、計上されていないのは適切です。当初この運用報告書を不誠実だとしたのは僕の間違いでした。お詫びして訂正します。申し訳ございませんでした。
でも、トータルコストが運用報告書通り0.11%程度だとすると、実際の基準価額とVOOの取引価格などから計算したトータルリターンとの差の説明ができません。僕の推測だとトータルコストは税込み0.58%近くにもなります。このことについても問い合わせましたが、分からないとのことでした。なお、マーケットメーカーからも、VOOの終値で買っているとの説明でした。
第二期決算期間
運用コストの推測
次はSBI・V・S&P500の第二期決算期間(2020年9月15日)から2021年9月30日までの、VOOトータルリターンとSBI・V・S&P500の比較です。
次はVOOトータルリターンの運用コストを年率0.32%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになったのですが(直近は増量しすぎ)、きっとこれは気に入らないと思います。次は比較開始を2020年11月11日に変更したものです。
青のラインはほぼフラットです。よって、SBI・V・S&P500固有の第二期の運用コストは年率0.32%程度であると推測できます。第一期より大幅に減りました。が、VOOの経費率0.03%を加えると税込みトータルコストは0.35%にもなります。
VOOトータルリターンとの比較結果から推測した、SBI・V・S&P500の第二期の運用コストは、第一期より減ったとは言え、まだ高いです。なお、直近ではわずかにコストの改善傾向が見られるのは良いことです。
運用報告書から計算した運用コスト
次は第二期運用報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。
隠れコストが削減されました。次は隠れコストの明細です。
売買委託手数料と有価証券取引税はゼロです。その他費用が削減されています。
第3期決算期間
運用コストの推測
次はSBI・V・S&P500の第三期決算期間(2021年9月15日から2022年9月14日まで)の、VOOトータルリターンとSBI・V・S&P500の比較です。
次はVOOトータルリターンの運用コストを年率0.20%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットです。よって、SBI・V・S&P500固有の第三期のVOOの経費率を除いた運用コストは年率0.20%程度であると推測できます。第二期より大幅に減りました。いいですね。
運用報告書から計算した運用コスト
次は第三期運用報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。
計算上は第二期と同じです。まあそもそも運用報告書にある数値ってあてにならないですからね。
スリム米国株式(S&P500)との比較
次はスリム米国株式(S&P500)とSBI・V・S&P500のリターン比較です。スリム米国株式(S&P500)が税抜き信託報酬を0.088%に引き下げた2019年11月12日から2023年3月31日までです。
青のラインはスリム米国株式(S&P500)ーSBI・V・S&P500です。このスケールだと変動が激しいですが、傾向としては右肩上がりで推移していまいした。これはSBI・V・S&P500のリターンは、スリム米国株式に負けていたことを示しています。でも最近は互角に見えます。
次はSBI・V・S&P500の第三期決算期間が始まった2021年9月15日からの比較です。
2022年以降は運用コスト差はほぼないように見えます。SBI・V・S&P500、頑張って来ましたね。
SBI・V・S&P500の宿命
マニアックな話はいいやって方はここまで飛ばして下さい。
VOOのベンチマークはS&P500種指数ですが、VOOはETFなので、その取引価格は売買を要因として変動します。株価暴落時にはとんでもなく変動しました。つまり、取引価格の変動を要因として、ベンチマークから乖離しますが、これはSBI・V・S&P500の宿命であり、非難されるべきことではありません。スリム米国株式のように、503銘柄もの現物株を売買しなくていい代わりに、VOOだけを売買すれば良いというメリットと引き換えに、受け入れるべき制約です。(メリットがあるのは運用側ですが、運用がシンプルなだけ、低コスト化しやすいと思われます。)
このことを無視して、スリム米国株式とSBI・V・S&P500のリターン比較をすると、トンチンカンな解釈をしてしまいます。
^SP500TRとVOOの取引価格の比較
次はティッカーシンボル^SP500TRでダウンロードできる、S&P500トータルリターンと、VOOの取引価格(配当無視、円変換後)の比較です。
青のラインは^SP500TRーVOOです。赤の矢印の位置で階段状になっているのは、^SP500TRが配当金を再投資したのに、VOOはしていないからです。そして、黄色の丸で囲ったところは大きく暴れています。ひと目盛り0.5%ポイントです。青の矢印の位置で再度配当金を再投資しており、暴れを無視すると段差ができていることが分かります。
この大きな暴れの要因が、次のどちらか一方なのか、組み合わせなのかは分かりません。
- VOOの運用が、ベンチマークから乖離した。
- VOOの取引価格が、市場取引の結果大きく変動した。
どちらにしても、SBI・V・S&P500がVOOを買った時点ですでに、ベンチマークから乖離しています。これは、SBIアセットマネジメントがコントロールできることではありません。
株価暴落開始後のリターン比較に注意
次はスリム米国株式とSBI・V・S&P500の、2019年10月16日から2020年8月31日までの比較です。
青のラインが暴れています。投資ブログで良く見かけますが、ある日とある日の基準価額をつまんで比較する方法は危険なことが分かります。
また、赤の丸で囲ったところでリターン差が開いています。(スリム米国株式の方がリターンが高く、傾向は右肩上がりです。)
スリム米国株式だって株価暴落の影響を受けています
次はスリム米国株式(S&P500)の設定来の、S&P500ベンチマークとのリターン比較です。右端は2020年8月28日です。
株価暴落開始の影響を受けていますが、4月以降は株価暴落開始前と変わらない運用であることが分かっています。
売れていますが、スリム米国株式(S&P500)には敵いません
SBI・V・S&P500はS&P500インデックスファンドで後発組ですが、人気の獲得に成功して売れています。でも、ライバルであるスリム米国株式には大きく負けています。
次はSBI・V・S&P500とスリム米国株式の、設定来の資金流出入額の累計の推移です。SBI・V・S&P500の純資産総額は8,231億円、スリム米国株式は18,757億円です。
赤のラインのSBI・V・S&P500は順調に資金を集めていますが、緑のラインのスリム米国株式はそれを凌ぐペースで推移しています。
直近90日間における、資金流出入額の累計はこうでした。
- SBI・V・S&P500:664億円
- スリム米国株式:1,727億円
SBI・V・S&P500の人気は凄いですが、スリム米国株式はとんでもなく凄いです。
楽天証券では買えません
現在でも、SBI・V・S&P500は楽天証券では買えません。SBI証券、松井証券、マネックス証券、auカブコム証券では買えます。楽天証券で買えないのは痛いですね。
2019年10月に楽天証券に取り扱いを聞いた時にもらった回答はこうでした。
恐れ入りますが、お問合せの「SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド」につきましては、現在、あいにく弊社では取り扱い予定がございません。
2020年7月に再度同じ質問をしたのですが、もらった回答は同じ文章でした。
これは楽天証券側の事情によるものでしょうかね。(楽天証券はSBI・Vシリーズは一切扱っていません。)
iDeCoでの取り扱いはありません
iDeCoでは、お気に入りのファンドが買える金融機関を探さないといけないのが実情ですが、SBI・V・S&P500を扱っている金融機関はありません。
評価:S&P500に投資するならスリム米国株式(S&P500)かSBI・V・S&P500
2022年以降、ようやく、SBI・V・S&P500の運用コストはスリム米国株式(S&P500)と変わらない水準になりました。人気(資金流入)はスリム米国株式(S&P500)には敵わないものの、S&P500に投資するならこれら2商品のどちらかを選んでおけば安心と言えます。
ただし、スリム米国株式(S&P500)は他社対抗で信託報酬を引き下げていますが、SBI・V・S&P500にその動きがないことが気になります。
SBI・V・S&P500は販売戦略上のミスなのか、時期的な不運によるものなのかは分かりませんが、楽天証券で買えない、iDeCoでの取り扱いがないことが、スリム米国株式(S&P500)に人気で大きく負けている要因のひとつだと思われます。