リーマンショック後の10年間で見ると米国株式一強とも言える状態であり、近年手軽に米国株式インデックスに投資できるようになったことから、米国株式に集中投資する人も少なくありません。一方、インデックス投資の教科書的な著書には世界分散すべきと書かれていると、警鐘を鳴らす人もいます。
おそらく、米国株式集中投資を選択する人はそのパフォーマンスの高さに賭けているはずです。相応のリスクも負うことになりますが、その認識は人それぞれでしょう。では米国株式集中投資ではなくて、全世界株式への分散投資を選択する人はどうしてそうするのでしょうか。
- 世界分散が良いと言われているから。
- 米国株式集中投資は危険だと言われているから。
抽象的ですね。もっと具体的な確信があればいいのですが、そうでない場合、大切な資金を投資するのにそんな不明瞭な材料で判断していいのでしょうか。
以下、eMAXIS Slimをスリムと表記します。
比較方法
全世界株式を代表してVT、米国株式を代表してVTI、先進国株式を代表してTOKに登場して頂きます。TOKはMSCIコクサイに連動するETFです。それらの配当金を米国で10%課税後で国内課税なしに再投資した、円換算後のトータルリターンを比較します。
登場するグラフは、指定した年の年初から2020年4月末までです。赤のラインがVTI、緑のラインがTOK、青のラインがVTです。
2010年から比較
米国株式の圧勝です。先進国株式と全世界株式に大きく差を付けました。また先進国株式の方が全世界株式より高パフォーマンスでした。
2012年から比較
米国株式の圧勝です。先進国株式と全世界株式に大きく差を付けました。また先進国株式の方が全世界株式より高パフォーマンスでした。
2014年から比較
米国株式の圧勝です。先進国株式と全世界株式に大きく差を付けました。それから見ると、先進国株式と全世界株式の差は取るに足りないですね。
2016年から比較
差が目立つようになったのは、2018年後半からです。結果的には米国株式の圧勝ですが、比較開始時期によって様子がずいぶん変わります。先進国株式と全世界株式は大差ないです。
2018年から比較
パフォーマンスが高い順に米国株式、先進国株式、全世界株式となっているのが良くわかります。
積み立てシミュレーション
では毎月初積立投資を継続していた場合、2020年4月末の評価額はどうなっていたでしょうか。次はそれをまとめた表です。数値は税引き前利益率です。2010年から米国株式に積立投資していたら、利益率が100.67%なので、評価額は元本の2倍になっていた、ということです。
グラフにすると良く分かります。
式で表すと、米国株式>>>先進国株式>全世界株式、でしょうか。そして過去10年間だと、比較期間が長くなるほど米国株式の強さ(好調さ)が目立つ結果になりました。
未来は過去の繰り返しではない
過去何年かのパフォーマンスを見ると米国株式が最強だから、米国株式集中投資で行く、という考え方に対して、今後も過去のパフォーマンスが維持される保証はないと良く言われます。確かにその通りで、どんなに過去を分析して未来に起こることを予想しても当たるとは限りません。でも歴史に学ぶという表現がある通り、過去の実績を無視すべきではないでしょう。
過去10年間だと米国株式の圧勝ですが、それでも米国株式集中投資より全世界株式への分散投資の方が良いとする意見の根拠は何なのでしょうか。
- 未来では、全世界株式の方が高いリターンが得られるかも知れないから?
- 米国株式集中投資には基準価額の変動率の高さ以外のリスクがあるから?
米国株式のリスクは高いのか
リスクには複数の側面があります。次は月次で求めた変動率を年率換算したものです。米国株式、先進国株式、全世界株式で大差ありません。
債権比率が50%のバランスファンドの代表格である、セゾングローバルバランスのリスクはずっと低いです。
これから分かる通り、基準価額の変動率で言えば、米国株式が先進国株式や全世界株式より特段高いわけではありません。でも米国株式は米国一国集中であり、世界の他の地域・国に分散投資した方がある種のリスクが小さくなる、という見方はできるでしょう。
ところが投資対象として選択した地域がリスクになるかも知れません。たとえば新興国株式が長期間低迷するとか。
全世界株式が米国株式に勝てない理由
VTがVTIに勝てなかった理由と言うべきですが、それは単純です。もちろん過去10年間程度の話であって、未来のことは分かりません。
- 米国と日本を除く先進国株式のリターンは、米国株式のリターンより劣っています。
- 新興国株式は、短い期間で見ると米国株式のリターンを凌駕しますが、長期間で見ると成長していません。
- 国内株式は、リーマンショック後で見ると右肩上がりで成長していますが、過去27年間で見ると低迷しています。
米国株式以外の資産を混ぜれば混ぜるほど、リターンが劣化したのです。
次は先進国株式、新興国株式、国内株式の2010年からのリターン比較です。日興インデックスファンドシリーズに登場して頂きました。
赤のラインが先進国株式、緑のラインが新興国株式、青のラインが国内株式です。2013年以前は優劣をつけ難いですが、それ以降差が開き始めます。
報われると思うから投資するのですよね
インデックス投資の目的が資産形成であるなら、報われないと分かっているものには投資しませんよね。でも過去の利益率が高かったかどうかは分かっても、未来のことは分かりません。そのためどう熟考しようが賭けになることは変わりません。
将来どの資産クラスが上昇するか分からないから全部均等に買っておくという考え方で組成され、高い人気を獲得したのが8資産均等型です。でもそのリターンは株式100%のインデックスファンドにかないません。リターンを追求するなら株式100%が良いです。(米国株式集中投資を懸念するように、株式集中投資を懸念する意見も聞かれます。)
では米国株式のみではなくて、米国と日本を除く先進国株式、新興国株式、国内株式にも投資する(選択できる組み合わせはいくつかあります)場合、その理由が次のどちらかなら分かります。
- 投資する資産クラスの未来を信じている。(投資した方が報われると思っている。)
- その資産クラスにも投資した方が自分のリスク許容度に合う。
僕の場合
僕は過去の実績を重視していて、新興国株式と国内株式に投資しても、僕の存命中にその投資が報われることはないと予想しています。とても報われると思えないのです。
一方で、米国と日本以外の先進国株式への投資よりも、米国株式のみへの投資の方が報われる可能性は高いと正直思います。つまり、スリム先進国株式よりもスリム米国株式(S&P500)の方が報われると思います。それでもなお、スリム先進国株式への集中投資を継続し、スリム米国株式に投資しない理由は論理的とは言えません。
- 心理的にどうしても米国一国集中に不安を感じる。
- MSCIコクサイのパフォーマンスは十分高いことが分かっている。
僕は基準価額の変動率として計算できるリスクは気にしていません。また、MSCIコクサイの6割以上(直近では約7割)は米国株式なので、米国株式が低迷すればMSCIコクサイも低迷します。その時、欧州、カナダ、オーストラリアにも投資していたことが奏功するかどうかは分かりません。
あえて具体例をあげませんが、米国経済だけが特殊な事情で長期低迷するような事態になる(=カントリーリスクが顕在化する)可能性にビビっているのです。もしそれが起こると僕の存命中に回復しないだろうなと思っているのです。
そうなった時に、欧州、カナダ、オーストラリアが成長すると、MSCIコクサイの米国比率が大きく下がります。時間はかかりますが、米国と日本以外の先進国にも投資したことが報われる数少ないケースになります。
そこまで極端でなくても、今後は米国株式のみより先進国株式の方が期待リターンが高いという予測もありますが、僕は信じていません。スリム先進国株式に集中投資している身としては歓迎すべきかも知れませんが、僕の期待はこうです。
- 米国株式には現在の絶好調を維持して欲しい。(暴落するのはOKです。)
- 米国と日本を除く先進国株式にはこれまで通り頑張って欲しい。
だから、現在米国株式に集中投資している人と僕の投資成績を10年後に比較した時に、米国株式に集中投資していた人の方が大きな利益を上げていたとしても後悔しません。「彼(彼女)は高いリスクを負った分だけ大きな利益を得たわけだし、僕も十分な利益を手にできて良かった」と思いたいのです。彼(彼女)の投資は報われなかったけど僕の投資は報われたというのは、MSCIコクサイでは無理な話でしょう。
ジョン・C・ボーグル氏は
これは良く知られた話ですが、バンガード社は世界分散投資を推奨しているものの、バンガード社を創設したジョン・C・ボーグル氏は米国集中投資をしていました。
著書「インデックス投資は勝者のゲーム」の中でも株式はS&P500インデックスが良いと書いています。教科書を執筆するような著名人全員が世界分散投資を推奨しているわけではありません。(なお、ジョン・C・ボーグル氏は米国債券にも投資していました。)
それから、バンガード社が世界分散投資より米国集中投資を勧めるわけがないことは、ちょっと考えれば分かります。それはトヨタが「現在のガソリン価格ならガソリン車の方がコスパが良い」と言うのと同じで、会社の利益にならないからです。
主張通りに投資しているとは限らない
書籍でもブログでも、作者が主張・推奨している投資手法通りに投資しているとは限りません。自身のポートフォリオを公開していない場合、分かるのは本人だけです。そのため、教科書に書かれていることを鵜呑みにしない方がいいと思います。
そもそも国籍や年収や金融資産が違う人が書いた書籍の内容をそのまま真似る前に、自分にとって最適解なのかどうか他の情報とも突き合わせて考えるべきです。
結論:後悔する可能性が一番低いと思われるものを選択すれば良い
ブログタイトルへの回答は、信じるものによる、となります。逃げてますね。逃げないで答えるなら、五十歩百歩ですね。俯瞰すればどっちも世界経済と運命を共にするのです。
いろんな意見、主張、考え方がありますので、できるだけ幅広く情報収集して自分が一番納得できる、後悔する可能性が一番低いと思われるものを選択すれば良いと思います。でも投資経験なしにその選択肢に辿り着くのは難しいので、数年投資してみてから方針を大きく転換するのも良いでしょう。
どれを選択してもそこそこ高いリスクは負わねばなりません。何しろリスク資産に投資して、大切な資金を長期間リスクにさらすことで高いリターンを得ようとするわけですから。