野村スリーゼロ先進国株式投信は、2030年末までは信託報酬がゼロで、その後も現在のニッセイ外国株式やスリム先進国株式の信託報酬程度を予定しているので、それだけ聞くとインパクトが大きいです。が、野村証券のつみたてNISA専用で、まあ誰が考えても客寄せパンダ的商品です。この組成で金融庁がつみたてNISA適格としたのは残念という他ありません。金融庁が嫌ってきた、証券会社の悪しき商習慣が形を変えて登場しただけ、というのが僕の感想です。
更新情報
記事構成を変更しました。また、参照しているデータを最新版に更新しています。
野村スリーゼロ先進国株式投信
2020年3月16日に設定されました。ベンチマークはMSCIコクサイです。野村證券のつみたてNISA口座専用商品で、10年間は信託報酬がゼロです。2031年からはニッセイ外国株式やスリム先進国株式と同程度の信託報酬を予定しているとのことです。
発表当時、一瞬話題になりましたが、すぐにこの商品の「本質」は見抜かれてしまったようです。
運用コスト
次は運用報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。スリム先進国株式と比較しています。
もちろん信託報酬はゼロです。隠れコストはスリム先進国株式よりも安いです。トータルコストは0.0331%と驚異的な安さです。
スリム先進国株式とのリターン比較
次はスリム先進国株式が信託報酬を0.093%に引き下げた、2020年3月17日から2022年4月28日までの、野村スリーゼロ先進国株式投信とのリターン比較です。
青のラインはリターン差で、野村スリーゼロ先進国株式投信ースリム先進国株式です。ラインの傾きはトータルコスト差を示しています。
次は野村スリーゼロ先進国株式投信の運用コストを年率0.16%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインは直近を除いてほぼフラットになりました。よってこの比較期間だと、野村スリーゼロ先進国株式投信のトータルコストはスリム先進国株式よりも0.16%ポイント安いが、直近ではその差が縮まっていると思われます。運用報告書から計算したトータルコスト差と完全一致ではありませんが、ほぼ期待通りと言っていいでしょう。確かに、信託報酬がゼロなだけのことはあります。
売れ行きは
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。純資産総額は34億円です。微妙ですね。
ラインが階段状なのは積み立てでしか購入できないからです。買い付け日は引き落とし方法によって2パターンあります。
受益者が増えると段差が大きくなります。ラインが反り返っていることから、徐々に資金流入が増えていることが分かりますが、資金流入額が少ないです。
直近6ヶ月間の資金流入額はこうでした。
- 野村スリーゼロ先進国株式投信:14億円
- スリム先進国株式:462億円
この様子だと、野村アセットマネジメントの期待ほどには受益者が増えていないと思われます。その理由のひとつに、先進国株式インデックスの人気が落ちてきている(米国株式と全世界株式の人気の方が上回っている)というのもあるでしょう。結果的に、野村スリーゼロ先進国株式投信が魅力的ではないのだと思います。
僕は野村スリーゼロ先進国株式投信が売れない方が安心します。売れるとしたら、それはどうにも健全なことだと思えないからです。もちろん、これはスリム先進国株式に集中投資している僕の、強いバイアスのかかった見解です。
積み立て方に自由度がありません
野村スリーゼロ先進国株式投信は野村證券のつみたてNISA口座専売商品でしたが、2022年2月9日よりLINE証券のつみたてNISA口座でも販売開始されました。
この口座、積み立て方に自由度が全くありません。(野村證券に確認済みです。)
- 積み立て可能額は1,000円単位です。毎月の積み立て上限額は33,000円なので、最大でも年間396,0000円までしか積み立てできません。余った非課税枠4,000円を埋める手段はありません。もったいないですね。
- 年の途中で積み立てを開始した場合であっても、毎月の積み立て上限額は33,000円です。
- 毎月の積み立て金額に加えてボーナス月などに増額することもできません。よって、年の途中で積み立てを開始した場合は非課税枠を使い切れません。また、実質的な年初一括投資は不可能です。
楽天証券のつみたてNISA口座の自由度は抜群です。
- 積み立て可能額は100円以上1円単位です。毎月の積み立て上限額は33,333円なので、普通に満額積み立てれば年間399,996円になります。
- 年の途中で積み立てを開始した場合、毎月の積み立て上限額は33,333円に加えて「増額設定」をすることで非課税枠をほぼ満額埋めることができます。(これはSBI証券でもできないようです。)
- 1月をボーナス月に設定することで、実質的な年初一括投資ができます。
なお、SBI証券でもボーナス月設定を使って、年の途中からでもほぼ満額積み立てることは可能です。
野村證券は業界トップの規模を誇りますが、つみたてNISA口座の利便性は周回遅れのようです。
評価:現在は超ローコストですが、おすすめしません
野村スリーゼロ先進国株式投信の信託報酬は確かにゼロであり、隠れコストは期待通りの安さです。ごまかしの効かない基準価額データは、野村スリーゼロ先進国株式投信のトータルコストはスリム先進国株式より0.16%ポイント安いことを示しています。これは運用報告書から計算した数値と完全一致ではありませんが、正しいのは基準価額データです。
問題は、信託報酬がゼロなのは2030年末までだという点です。つみたてNISA専用なら、非課税期間20年のうちの、最初の10年間は信託報酬ゼロという設計もできるはずです。(信託期間20年のベビーファンド量産することになりますが。)そうしていない、期間限定の信託報酬ゼロという仕様は、明らかに自社のつみたてNISA口座に誘導する販促ツール目的だからでしょう。
野村スリーゼロ先進国株式投信のここが嫌い
僕は、野村スリーゼロ先進国株式投信は成功しないと予想しています。つみたてNISA専用、野村證券でしか買えない、これらはOKです。嫌いなのは、2030年末までの10年間限定で信託報酬をゼロにしている点です。期間限定の信託報酬ゼロという仕様は、明らかに自社のつみたてNISA口座に誘導する販促ツール目的だからでしょう。それはこのインタビュー記事からも伺えます。
そもそも、信託報酬ゼロは期間を限定しなければ実現不可能と考えるのが妥当です。資産総額が増えれば増えるほど赤字額が大きくなるわけですから、別の手段で売上を確保することになります。さて、野村アセットマネジメントはどうやって帳尻を合わせるつもりでしょうか。
投資信託をどのように設計するのも自由ですし、要件を満たせばつみたてNISA適格になれます。でも、野村スリーゼロ先進国株式投信は、つみたてNISA制度の趣旨にそぐわない性格があると思うのは、僕だけではないでしょう。