かつて日本で全世界株式と言うと、日本を除いた先進国株式+新興国株式のことを指しました。たとえば2010年に設定されたeMAXIS全世界株式がそうです。これのスリム版が、eMAXIS Slim全世界株式(除く日本)です。
eMAXIS Slim全世界株式(除く日本)のベンチマークはMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(除く日本)です。先進国株式と新興国株式の現在の比率は、87:13ですが、これは時価総額比で変わります。eMAXIS Slim先進国株式に加えて新興国株式にも投資したい、でも国内株式は要らないという人にはちょうどいい選択肢になります。
以下、eMAXIS Slimをスリムと表記します。
スリム全世界株式(除く日本)
2018年3月19日に設定されました。スリムシリーズの第一弾が設定されたのが2017年2月27日だったので、約13ヶ月遅れての登場となりました。税抜き信託報酬0.142%で設定されましたが、その後2回引き下げています。すべて同率への対抗値下げですが、どちらも対抗したのは日本を含む全世界株式インデックスでした。次はその履歴をまとめた表です。
三菱UFJ国際投信は、スリムシリーズの全世界株式3兄弟(除く日本、3地域均等型、オール・カントリー)の信託報酬を同じにしており、他社の「全世界株式インデックス」に対抗する時はまとめて値下げしています。
意味のない受益者還元型信託報酬制度
スリムシリーズは純資産総額が500億円、1,000億円を超えると信託報酬が漸減される「受益者還元型信託報酬制度」を採用しています。ところが信託報酬の引き下げに応じて漸減率が改定された結果、実質的な意味のないものになってしまいました。
漸減率が小さすぎて、現実の世界ではその恩恵を実感するのは無理です。ただし、スリム全世界株式(除く日本)の純資産総額が500億円、1,000億円を超えるとこの制度の存在が話題になり、たとえ実質的な効果がなくても、それが「宣伝効果」を生み、さらに人気を押し上げる可能性があります。マーケティング戦略としては優れていますね。
でも現在のスリム全世界株式(除く日本)の人気だと、500億円を超えるのはまだまだ先になりそうです。
運用コスト=信託報酬+隠れコスト
運用コスト(トータルコスト)は信託報酬と隠れコストの合計です。次は運用報告書から計算したトータルコストです。
税込み0.2076%は、運用報告書の数値を信じるなら、素晴らしい低水準です。
次は先輩にあたるeMAXIS全世界株式の運用報告書から計算したトータルコストです。
隠れコストはスリム全世界株式(除く日本)の方がわずかに高いですが、これぐらいの違いは複数の要因で生まれてしまいます。
ここからマニアックな話が続きます。それはいいやって方は、ここまで飛ばして下さい。
隠れコストは妥当な水準か
スリム全世界株式(除く日本)は、先進国株式と新興国株式に時価総額比で投資しますが、それは2つのマザーファンドを売買することで実現されています。そのマザーファンドは、スリム先進国株式、スリム新興国株式のものと同じです。
引用:目論見書
一般的に、新興国株式インデックスの隠れコストは、先進国株式インデックスのものより高いです。現在の先進国株式と新興国株式の比率で、スリム先進国株式とスリム新興国株式の隠れコストを按分すると、こうなります。
隠れコストは0.0887%になりました。スリム全世界株式(除く日本)の隠れコストは0.0932%なので、妥当な水準と言っていいでしょう。
スリムシリーズで自作した場合
スリム全世界株式(除く日本)のマザーファンドは、スリム先進国株式とスリム新興国株式のものと同じです。先進国株式と新興国株式の比率は固定ではないのですが、現在のもので信託報酬を按分すると、税込み信託報酬の合計は0.1155%になります。
スリム全世界株式(除く日本)の税込み信託報酬は0.1144%なので、ほとんど変わりません。自作すると、定期的なリバランスが必要になります。リバランスしないと、時間の経過とともに先進国株式と新興国株式の比率が崩れてしまいます。(それを許容するという考え方もあります。)
MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(除く日本)に投資するなら、スリムシリーズで自作するメリットはないですね。スリム全世界株式(除く日本)一本で済みます。
らしくなかった設定直後の運用
ファンドの新規設定直後は、運用が不安定になりがちです。これに関してスリムシリーズは優秀なものが多い中、スリム全世界株式(除く日本)は、らしくなかったです。
次は設定直後から半年間の、eMAXIS全世界株式とのリターン比較です。
青のラインはリターン差で、スリム全世界株式(除く日本)ーeMAXIS全世界株式です。その傾きはトータルコスト差を示しています。
黄色の丸で囲ったところは、いろいろ事情はあるにせよ、ちょっと残念な値動きをしています。
eMAXIS全世界株式とのリターン差は期待通りか
次はスリム全世界株式(除く日本)の運用が安定した、2018年4月16日から株価暴落が始まる直前の2020年2月20日までの、eMAXIS全世界株式とのリターン比較です。
税抜き信託報酬が0.142%から0.120%、0.104%と引き下げられていますが、それらの期間を色分けしています。次はスリム全世界株式(除く日本)の運用コストを年率0.42%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインは、税抜き信託報酬が0.142%の期間はほぼフラットになりました。その後わずかに右肩上がりです。この期間のトータルコスト差は計算上0.49%ポイントほどあります。どんぴしゃではありませんが、リターン差は期待通りと言っていいでしょう。
Fund of the Yearの順位
日本を除く全世界株式インデックスは、決して不人気なジャンルではないものの、人気投票で上位にランクインするのは難しいようです。次はeMAXIS全世界株式と、スリム全世界株式(除く日本)の、Fund of the Yearの順位です。スリム全世界株式(除く日本)は2018年度から対象です。
売れています
次はスリム全世界株式(除く日本)の設定来の資金流出入額の累計の推移です。純資産総額は203億円です。
信託報酬ごとに色分けしています。信託報酬の引き下げがどれだけ人気の加速に貢献したかは想像するしかありませんが、引き下げ以降、純資産総額の伸び率が上昇しているのが、ラインの反り返りから分かります。
eMAXIS全世界株式もプロットしました。純資産総額は89億円です。
信託報酬が数世代前の、今ではかなり高額に感じる水準なので、新規投資するならスリム全世界株式(除く日本)にすべきです。それでもまだ、少ないながらもeMAXIS全世界株式が買われている事実には驚きしかありません。
スリム先進国株式やスリム米国株式(S&P500)にはかいませんが、全世界株式インデックスの中では売れています。遅れて設定されたスリム全世界株式(オール・カントリー)は純資産総額316億円と、あっさり追い抜かれてしまいましたが、人気の組成は時代によって変化するものです。でしょ。
評価:スリム全世界株式(除く日本)一択でいい
日本を除く全世界株式に投資する場合、スリムシリーズが嫌いでなければ、スリム全世界株式(除く日本)一択でいいです。トータルコスト、純資産総額(人気)で考えるとそうなります。この結論がしっくり来ない人は、スリムシリーズが好きではないのだと思います。