株式のみに投資するのではなくてある比率で債券も混ぜることで、リターンをあまり下げないで、リスクを下げられます、というような話を聞いたことがあるかも知れません。では、人気の高い米国籍ETFであるVTI(米国株式)とTLT(米国長期債券)を組み合わせた場合、どのようなメリットが得られたでしょうか。
TLTとは
TLTはブラックロック社が運用している米国籍ETFで、残存期間が20年超の米国債券に投資します。実行デュレーションが18年程度と長く、債券金利が1%変動すると債券価格は18%程度変動するのが期待値です。そのためハイリスクと表現されることもあります。
シミュレーション方法
- VTI、TLT共に配当金(米国で10%課税後)を再投資した、トータルリターンを参照します。円換算しています。
- この記事では単にVTI、TLTと書きますが、どちらもトータルリターンです。
- VTIとTLTを指定した比率で購入します。年1回の頻度でリバランスを行います。
- 比較期間は2002年8月1日から2021年3月31日までです。
VTIとTLTのリターン比較
次はVTIとTLTのリターン比較です。
赤のラインがVTI、緑のラインがTLTです。TLTの値動きは債券ファンドにしては大きいです。
VTI+TLT
VTIとTLTを80:20で混ぜた場合
次はVTIとTLTを80:20で混ぜたものと、VTIの比較です。
赤のラインがVTI、緑のラインがVTI+TLTです。青のラインはリターン差で、VTIーVTI+TLTです。
青のラインが右肩下がりの期間は、TLTを混ぜたことでリターンが改善されたことを意味します。が、それは株価暴落時、株価調整時の限られた期間でしか観測されません。
また、2016年までは互角でしたが、2017年、2018年は差が開いています。TLTを混ぜたことによるリターンの改善効果は限定的でした。
次は月次で求めたリスク(変動率)を年率換算したものの比較です。
値動きの小さいTLTを混ぜることで、変動率はいくらか下がります。
次はシャープレシオを比較したものです。
VTI+TLTの方が、シャープレシオが高いです。だからと言って、混ぜれば良いといいというものでもないです。
VTIとTLTを70:30で混ぜた場合
次はVTIとTLTを70:30で混ぜたものと、VTIの比較です。
青のラインの傾向は同じですが、振れ幅が大きくなりました。
VTIとTLTを60:40で混ぜた場合
次はVTIとTLTを60:40で混ぜたものと、VTIの比較です。
青のラインの傾向は同じままで、さらに振れ幅が大きくなりました。
2019年年初からの比較
コロナショックによる株価暴落と、そこからの回復の様子を観察します。
VTIとTLTを80:20で混ぜた場合
VTI+TLTの方が暴落時の下落率は低いですが、すぐに追い抜かれてしまっています。
VTIとTLTを70:30で混ぜた場合
TLTを混ぜることで変動率が低く抑えられますが、リターンも低くなってしまいます。
VTIとTLTを60:40で混ぜた場合
TLTが4割もあるとVTIのリターンの高さというメリットをかなり落としてしまいます。
結論
VTIにTLTを混ぜるメリットです。
- リスク(変動率)が減ってシャープレシオが改善されます。
- 暴落時の下落率が小さくなるので、(相対的に)精神的ダメージが小さくてすみます。
次はデメリットです。
- リターンを改善できる効果はあってもその期間は限定的です。
- 直近18.5年間の比較では、リターンはVTIに劣後しました。相場次第ですが、この傾向は長期では変わらない気がします。
VTIとTLTという、実在する商品のデータを使ったシミュレーションからは、僕はTLTを混ぜるメリットをあまり感じませんでした。確かにリスクが抑えられるので、暴落時の下落率の高さに慣れていない人にはいいかも知れませんが、そういう人はそもそもVTIを買わないでしょう。TLTを混ぜることを考えるのは、リスクうんぬんではなくて、最終的なリターンの改善を期待してではないでしょうか。
その観点では、VTIにTLTを混ぜる意味はないと思います。つまり、VTIの高いリスク(変動率)に耐えられるのであれば、TLTを混ぜるメリットはないですね。もちろん、未来のことは分かりません。