iFreeレバレッジシリーズで有名な大和アセットマネジメントは、別系統の商品としてNASDAQ100 3倍ブルとNASDAQ100 3倍ベアも運用しています。どちらも信託期間が6年しかない残念な設定です。
加えてNASDAQ100 3倍ベアのレバレッジの掛け方を動的に変更する、NASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)も運用しています。
更新情報
長らくレバレッジの倍率を0.6倍にしていましたが、相場が転換したと判断したのか1.5倍、3倍と相次いで上げています。
NASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)
2021年3月26日に税抜き信託報酬1.285%で設定されました。高いですね。iFreeレバレッジNASDAQ100(2倍ブル型)が0.9%なので、レバレッジの倍率相応という見方もできますが、それでも高いと思います。
- 目論見書には連動債券と株価指数先物取引を組み合わせて運用するとありますが、運用報告書によると資産の全額を連動債券に投じています。この連動債券がNASDAQ100指数の日々の値動きにレバレッジを掛けます。通常は3倍ですが、リスクオフの場面では段階的に下げます。
- 円で為替ヘッジされます。
- 信託期間が5年しかなく、2026年3月に償還されます。
- 購入時手数料税抜き3.0%が設定可能で、証券会社を選ばないとしれっと徴収されます。
- 5大ネット証券を含む6社で販売されています。(意外なことに大和証券では扱いがありません。)
もちろん、つみたてNISA適格ではありません。
レバレッジをかける仕組み
次はNASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)の組成内容です。
引用:NASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)の目論見書
NASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)は図の右上にある「連動債券」しか売買しておらず、この連動債券が最大3倍のレバレッジをかけています。連動債券そのものを運用しているのはボルト・インベストメンツ・ピーエルシーで、その経費率は0.06%です。(NASDAQ100 3倍ブルの経費率は0.30%です。より面倒な運用なのに経費率が1/5である理由は分かりません。)
連動債券の中身の運用を除くと、組成内容はNASDAQ100 3倍ブル、NASDAQ100 3倍ベアと同じです。
大和アセットマネジメントに確認しましたが、マルチアイ機能が発動されていない時の値動きの特性(ボックス相場で減価するなど)は、NASDAQ100 3倍ブルと同じです。
NASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)の特徴
次は大和アセットマネジメントが公開している「マルチアイ機能についてバックテストにおけるドローダウン抑制効果」からの引用です。
独自の市場分析によって「リスク・アペタイト指数」を導出し、市場リスクに応じて日次で組込比率を変更することで、レバレッジの強度を可変します。
平常時は3倍ですが、警戒局面では1.5倍に、ハイリスク局面では0.6倍に落とします。(この細かい振る舞いは目論見書には明記されていません。)
次はNASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)が設定される前の、コロナショックによる株価暴落時をバックテストした結果です。
コロナショックによる株価暴落時の大幅な下落を、マルチアイ機能によって抑制できたというものです。バックテストでは悪い結果は提示されないので、話半分で聞いておいた方がいいです。
なお、目論見書にある記述内容からは、最大で0.3倍のベア型運用が可能と読めますが、ベア型運用(売り、ショートを仕掛ける)はファンドマネージャーの判断が外れると簡単に焼かれる(損失が拡大する)ので、実際の運用ではそんなことはしないと予想します。
運用コスト
次はNASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)の運用報告書から計算したトータルコストです。NASDAQ100 3倍ブルと比較しています。
信託報酬+連動債券の費用が支配的です。計算上NASDAQ100 3倍ブルより少し安いですが、まあどちらも高コストです。
NASDAQ100 3倍ブルとのリターン比較
次はNASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)の設定直後を避けた、2021年4月10日から2022年8月12日までの、NASDAQ100 3倍ブルとの比較です。
青のラインはリターン差で、NASDAQ100 3倍ブルーNASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)です。
青のラインはある時から大きく変動しています。これはNASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)がレバレッジの倍率を頻繁に変更したためです。青のラインがプラス側に振れている期間は、NASDAQ100トリプルの負けです。
レバレッジの倍率を変更し始めてからしばらくは、相場の読みが当たった期間(青のラインがマイナス側)は少なかったのですが、4月以降は下落率を小さく抑えられており、やっと効果を発揮したかなという印象です。
ファンドマネージャーに予知能力でもない限り相場の動向を正確に予測するのは不可能で、レバレッジの倍率を変更が上手にできないと、期待値とは逆の結果(NASDAQ100 3倍ブルに負ける)となります。
現在は読みが当たっている状況ですが、相場の転換時はまた読みを外しまくるかも知れません。
相場を読み切るのは難しい
ある時期、レバレッジの倍率を頻繁に変更していましたが、その後長らく0.6倍を維持しました。が、2022年8月ついに3倍まで戻しました。
- 2022年1月25日:3倍から1.5倍に変更
- 2022年2月3日:1.5倍から3倍に変更
- 2022年2月7日:3倍から1.5倍に変更
- 2022年2月9日:1.5倍から3倍に変更
- 2022年2月14日:3倍から1.5倍に変更
- 2022年2月15日:1.5倍から0.6倍に変更
- 2022年8月12日:0.6倍から1.5倍に変更
- 2022年8月17日:1.5倍から3倍に変更
変更し始めてからしばらくは右往左往していたことが分かります。0.6倍に落としてからは半年間、変更しませんでした。
次は月次報告書からの引用です。
引用:月次報告書
弱気相場が終了したと見て3倍に戻しましたが、その判断が正しいかどうかは未来にならないと分かりません。
売れ行きは
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。純資産総額は22億円です。
高コストで信託期間が短いにも関わらず、そこそこ売れていましたが、2022年は横ばいになり、資金流出傾向に変わりました。現在は現状維持状態です。0.6倍にしてからのパフォーマンスは悪くないと思いますが(相場の読みが当たっていた)、それでも不人気なままです。
次はNASDAQ100 3倍ブルもプロットしたものです。
緑のラインがNASDAQ100 3倍ブルです。NASDAQ100 3倍ブルの方が(弱気相場に変わっても)売れています。受益者はNASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)を敬遠しているようですね。
評価:受益者の資金を使った実験
市場のリスクの高さを数値化して、レバレッジの倍率を可変する運用が、レバレッジの倍率が固定のものに比べて良い結果をもたらしてくれるかどうかは未来にならないと分かりません。バックテストでうまく行ったからと言って、それが未来の相場に通用するとは限らないのは、一時もてはやされたレバレッジ型バランスファンド(たとえばグローバル3倍3分法ファンド)の衰退を見ても明らかです。
NASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)は、言わば、受益者の資金を使って思惑通りの結果が得られるかどうかを実験しているようなものです。それに参加するかどうかは受益者次第です。
NASDAQ100トリプルは読みを外したことが多く、その結果はリターンの劣化という形で表れていました。そもそも無理なことをしているという気がしますが、これからしばらく弱気相場が続くなら、手のひらを返すように評価されるかも知れません。(これまでのところは、されていないですね。)
また、信託期間が5年しかなく、2026年3月に償還されます。償還前にNASDAQ100指数が暴落して(レバレッジ倍率の変更でもダメージが大きく)評価損で終わる可能性も十分あります。この、ガチホしていればいずれ回復するという望みを持てないリスクを理解せずに買ってはいけません。
NASDAQ100 3倍ブルに関心があり、大和アセットマネジメントの新しい試みに乗ってみたい人には、NASDAQ100トリプル(マルチアイ搭載)は良い選択肢になると思います。でもそのリスクの高さを、良く理解しておくことですね。