証券会社間の競争は微妙なバランスで均衡しているようです。時々どこかが思い切った施策、新サービスを発表するのですが、たいてい大手で業界上位の証券会社は追随・対抗します。
そのため、ネット証券の業界順位が3位以下のところが中途半端な姿勢で戦いを挑むと、SBI証券や楽天証券の返り討ちにあってしまいます。
ひと昔前まで、米国籍ETFの売買手数料は約定代金の0.45%、最低5ドル、上限20ドル(いずれも税抜き)でした。最低5ドルなので、1,111ドル未満の取引だと手数料負けしていました。この手数料の条件、携帯電話の大手3キャリアのように横並びでしたが、それを変えたのがマネックス証券でした。
7月4日:マネックスが米国株の最低取引手数料を5ドルから0.1ドルに引き下げ
7月5日:楽天証券が最低取引手数料を0.01ドル(1セント)に引き下げ
7月8日:マネックスが楽天に追従。米国株の最低取引手数料を0.01ドルに引き下げ
7月9日:SBI証券が米国株の最低取引手数料の無料化(撤廃)を発表
7月10日:楽天証券がSBIに追従。最低取引手数料の無料化(撤廃)
7月10日:マネックスが追従。米国株の最低取引手数料を無料化(撤廃)
笑いを誘ってしまう7日間の出来事でしたが、はっきり分かったことがあります。業界トップのSBI証券と2位の楽天証券は、他社の挑戦に黙っていません。
そのことを知ってか知らずか、それから5ヶ月後に新たな挑戦を仕掛けたところがありました。DMM.com証券です。
DMM.com証券の挑戦
2019年12月に大きな動きがありました。先陣を切ったのは、DMM.com証券でした。2019年12月9日から、米国株式の取引手数料を完全無料化したのです。
引用:DMM.com証券
売買に為替手数料しかかからないということですね。でも、DMM.com証券は為替手数料に弱点があります。
配当金の扱いと為替手数料
DMM.com証券の為替手数料は1ドルあたり25銭です。そして円貨のみの取引なので、ドル転、円転を意識することはありません。
DMM.com証券は配当金は円転されて口座に入ります。その際の為替手数料は25銭ではなくて1円だそうです。(売却時の為替手数料は25銭です。)SBI証券、楽天証券、マネックス証券では、配当金はドルのまま口座に入るため、配当金を再投資する際に為替手数料は発生しません。取引手数料だけです。が、DMM.com証券の場合、取引手数料はゼロでも、為替手数料が往復で1.25円かかります。
これはDMM.com証券のデメリットですが、これを(ドルのままにするなどして)ゼロにしたらDMM.com証券の売上が(配当金の再投資時に)ゼロになってしまいます。円転して口座に入れる今のままだとしても、為替手数料1円は高いからせめて25銭に引き下げるとなると、売上が減ってしまいます。
実際のところ、為替手数料からどれだけの利益が得られるのかは分からない訳ですが、証券会社が実際に負担している「為替手数料」は受益者から徴収しているものより桁違いに少ないのではないでしょうか。
他社の対抗内容
SBI証券とマネックス証券が無料化したETFは全く同じ、楽天証券は少し違います。また、マネックス証券の対応はちょっと残念なものです。
SBI証券
SBI証券はVT、VTI、VOO、IVV、SPYなど米国籍ETF9本の買付手数料(取引手数料ではありません)を無料化しました。
楽天証券
楽天証券はVT、VTI、VOO、SPYなど米国籍9本の買付手数料(取引手数料ではありません)を無料化しました。
マネックス証券
マネックス証券はVT、VTI、VOO、IVV、SPYなど米国籍9本の買付手数料(取引手数料ではありません)をキャッシュバックによって無料化しました。キャッシュバックは税抜きなので、SBI証券、楽天証券より明らかに劣っています。
SBI証券の為替手数料
読者の方から教えて頂いたのですが、住信SBIネット銀行の外貨積立を通じて米ドルで購入する場合(外貨決済)、為替手数料は1ドルあたり2銭になるそうです。ただしこの方法は使いにくい面もあるようで、どれぐらい一般的に利用されているのかは分かりません。
この記事ではSBIネット銀行+SBI証券の合せ技で4銭にできるものとします。
VTIの積み立てシミュレーション
VT、VTI、VOOなどSBI証券で買付手数料が無料化されているETFなら、売却時のコストを考えなければ、明らかにSBI証券の方がDMM.com証券より有利です。それを現実的な積み立てシミュレーションで確認します。対象はVTI、リファレンスとして楽天全米株式を想定します。
- 楽天全米株式は、月額予算が5万円なら、毎月初に5万円ぴったり買います。普通の積立投資です。
- VTIは、月額予算が5万円なら、毎月初にそれをドルに替えて、VTIを買えるだけ買います。端数はドルのまま口座に残して、翌月に繰延べます。翌月は、前月の端数と新規資金の合計で、VTIを買えるだけ買います。端数は翌月に繰り延べます。
- (SBI証券の場合)VTIから配当金が得られたらドル口座に入れ、端数と合わせた結果VTIを買えるならすぐに買います。すぐに買えない場合は、翌月月初の購入資金に加算されます。
- (DMM.com証券の場合)VTIから配当金が得られたら円転されて口座に入ります。端数と合わせた結果VTIを買えるならすぐに買います。すぐに買えない場合は、翌月月初の購入資金に加算されます。
- VTIの期待リターンを年率6%とします。
- VTIの配当金実績から、米国での10%課税後の配当金の利率を年率1.72%とします。
- 1ドルは107円固定とします。
- 楽天全米株式の運用コスト(VTIの経費率を除きます)を0.18%とします。
- SBI証券の為替手数料は1ドルあたり4銭、買付手数料はゼロとします。
- DMM.com証券の為替手数料は1ドルあたり25銭、買付手数料はゼロとします。配当金を円転する為替手数料は1ドルあたり1円です。
- 比較期間は10年です。
なお、VTIの税引き後評価額を円で手にするには、売付け手数料(DMM.com証券なら不要)と為替手数料が必要です。これは売り方で大きく変わるため、記事中では無視しています。
SBI証券の場合
次はSBI証券でVTIを買う場合のシミュレーション結果です。
青のラインは税引き後評価額の差です。税引き後評価額の求め方はこうです。
- 楽天全米株式は、含み益に譲渡税20.315%が課税された残りです。
- VTIは、含み益(=保有株数✕株価ー元本)に譲渡税を課税した残り+ドルで口座に残っている端数です。
青のラインが左端で大きく暴れるのは、(計算式の)分母が小さいためで、正常です。安定した後は、最初はプラスですが、傾向は右肩下がりです。
青のラインにある氷柱(つらら)のようなものは、配当金が出たタイミングで再投資できたことで生じたものです。想定通りです。
DMM.com証券の場合
次はDMM.com証券でVTIを買う場合のシミュレーション結果です。
10年間だと、税引き後評価額で見て、SBI証券の方がDMM.com証券より0.25%ポイント有利でした。
楽天証券の場合
せっかくですから、楽天証券でもやりました。DMM.com証券との違いは配当金の再投資に必要な往復1.25円の為替手数料だけです。
10年間だと、税引き後評価額で見て、楽天証券の方がDMM.com証券より0.06%ポイント有利でした。
結論:VT、VTI、VOOを買うならDMM.com証券はおすすめしません
SBI証券で買付手数料が無料化されている米国籍ETFなら、SBI証券で為替手数料を4銭にして買う方が、DMM.com証券より有利です。
楽天証券で買付手数料が無料化されている米国籍ETFなら、為替手数料は25銭で変わりませんが、配当金の扱いの違いにより、DMM.com証券より有利です。