日本を含む全世界株式に時価総額比で投資する際に、楽天全世界株式とeMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)のどちらが良いか迷う人も多いことでしょう。どちらも先進国株式、新興国株式、国内株式に投資しますが、ベンチマークが異なります。
楽天全世界株式はVT(バンガード社のETF)を買うだけのインデックスファンドで、楽天VTとも呼ばれます。VTのベンチマークはFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスです。
eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)のベンチマークはMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスです。ベンチマークが同じなら、トータルコスト、運用の安定性、純資産総額などで判断すれば良いのですが、この場合は難しいです。
その難しい悩みを解消する比較結果をまるっとお見せします。
以下、eMAXIS Slimをスリムと表記します。
更新情報
参照しているデータを更新しました。
国別投資比率
全世界株式と言っても、ベンチマークが異なるので、国別投資比率も微妙に違います。次は2020年4月の月次レポートから作成した、楽天全世界株式とオール・カントリーの国別投資比率の比較表です。
でもこの違いから、どちらが好みだと判断する人は少ないと思われます。
組入銘柄数
組入銘柄数は大きく違っています。
- 楽天全世界株式:8,454
- オール・カントリー:3,040
楽天全世界株式の方がより多くの銘柄に分散投資していると言えますが、どちらがパフォーマンスが良くなるかは時期によって変わります。この組入銘柄数の違いは、好みが分かれるところでしょう。
トータルコスト
次は運用報告書から計算したトータルコスト(信託報酬+隠れコスト)です。楽天全世界株式の信託報酬は、VTの経費率(0.08%)を含みます。
トータルコストはオール・カントリーの方が安いです。運用報告書にある数値はあてにならないものですが、この2商品については、大きくは違っていないと考えています。これでベンチマークが同じなら、オール・カントリーが圧倒的に有利になるところですが、そうではないのでまだ決めかねるところでしょう。
過去のパフォーマンス
次はオール・カントリーの設定日直後を避けた、2018年11月15日から2020年10月23日までの、楽天全世界株式とオール・カントリーのリターン比較です。
青のラインはリターン差で、オール・カントリーー楽天全世界株式です。この比較期間だとオール・カントリーの方がパフォーマンスが高いと言えますが、コロナショックによる株価暴落後は互角です。
2009年からパフォーマンスを比較
もっと長期間の比較をしたいのですが、基準価額データが存在しません。そこでVTとACWI(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスに連動するETF)のトータルリターンの運用コストを調整することで、楽天全世界株式とオール・カントリーの仮想データを生成して比較します。
仮想楽天全世界株式の作り方
このブログでは楽天全世界株式のトータルコストを推測するのに、VTトータルリターンを利用しています。現在、楽天全世界株式はVTトータルリターンの運用コストを、年率0.18%ポイント増量したのに相当することが分かっています。
次は楽天全世界株式の第三期以降の2020年4月30日までの、本物と仮想楽天全世界株式のリターン比較です。
リターン差を示す青のラインはほぼフラットです。
仮想オール・カントリーの作り方
ACWIはiShares社のETFです。ベンチマークはオール・カントリーと同じですが、オール・カントリーとリターン比較をするとがっかりします。
オール・カントリーとACWIの共通点は、ベンチマークが同じだけなので、リターン差が多少暴れるのは当然として、この結果はひどいです。
でもせっかくですから、ACWIトータルリターンの運用コストを調整して仮想オール・カントリーを生成します。ACWIの経費率は0.32%で、ACWIトータルリターンよりオール・カントリーの方がリターンが高いです。そこで、控え目にACWIトータルリターンのリターンを年率0.25%ポイント増量したものを、仮想オール・カントリーとして利用します。
ACWIトータルリターンの運用コストを削減したので、青のラインがフラットに近付きました。
2009年から比較
次は仮想データ同士の、2009年年初からの比較です。
青のラインは仮想オール・カントリーー仮想楽天全世界株式です。11年で10%近い差が生まれています。この比較結果から、これまではオール・カントリーの方が楽天全世界株式よりパフォーマンスが良かったと推測されます。
でも、両者に圧倒的な差があるとも思いません。正しいことは、時間が経過してから本物同士のリターンを比較して初めて分かるでしょう。
2012年から比較
コメント欄で指摘を頂きました。VTは2011年12月19日にベンチマークをFTSEオールワールド・インデックスからFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスに変更したので、2009年から比較するのは不適当ではないか、というものです。
次は2012年年初からの比較です。
過去の比較ではオール・カントリーの方が有利でしたが、両者に圧倒的な差はないですね。
純資産総額
純資産総額は、受益者の有償の愛である現金の積み重ねであり、運用会社にとって売上の源泉です。ビジネスを継続するための原資でもあります。超ローコスト投信は信託報酬が安いので、利益を得ながら生き残るには圧倒的な純資産総額を集めるしかありません。そのため、他の条件が同等なら、純資産総額が多く、その増え方に勢いがある方を選ぶのが正解です。
次は楽天全世界株式とオール・カントリーの、設定来の資金流出入額の累計の推移です。楽天全世界株式の純資産総額は531億円、オール・カントリーは532億円です。
緑のラインが楽天全世界株式、赤のラインがオール・カントリーです。2019年までは楽天全世界株式との差が広がる一方でしたが、2020年になってオール・カントリーが急速に追い上げ、ついに並びました。
純資産総額はどちらも十分です。
三重課税問題
マニアックな話ですが、楽天全世界株式には三重課税問題があります。
三重課税問題は都市伝説ではなく、実在するものなので気にした方がいいです。でも、三重課税問題があるからダメとするのではなくて、それも含めて総合的に判断するのが良いです。
オール・カントリーのベンチマークが楽天全世界株式と同じだけど、オール・カントリーは現物株運用だから三重課税問題がないなら、オール・カントリーの方がかなり有利になりますが、ベンチマークが違うので、三重課税問題は「気にする違いのひとつ」と捉えるのがいいでしょう。
結論:好きな方を選ぶといいです
- VTまたは楽天VTという単語に心がときめくなら、楽天全世界株式でいいでしょう。その方が暴落時に心が乱れる可能性が減るからです。(オール・カントリーを選択しても買い持ちできなければ意味がありません。)
- どちらかのベンチマークに好き嫌いがあるなら、好きな方を選んで下さい。以下同文です。
- 楽天全世界株式にある三重課税問題も考慮すると、運用コストはオール・カントリーの方が低いと思いますが、ベンチマークと運用形態が違うので、過度に重視しなくていいでしょう。
- 「業界最低水準の信託報酬を目指し続ける」という売り文句が強みのスリムシリーズが好きなら、オール・カントリー一択で後悔することはないでしょう。
悩みは解消されたでしょうか。