インデックス投資

【恐怖】もしも金融所得が分離課税から総合課税に変わったら

少額投資非課税制度であるNISAは素晴らしい制度です。特につみたてNISAは制度設計のバランスが良く、足りないのは制度の恒久化です。それができれば、非課税期間を無期限にしなくてもほとんどの人は十分な恩恵を享受できるはずです。

つみたてNISAの最大のメリットは、非課税投資枠と非課税期間に制限があるものの、利益に課税されないことです。20歳以上であれば働き方に関わらず誰でも利用できる使いやすさ、分かりやすさはiDeCoを圧倒します。

一方、課税口座では確定申告が不要な特定口座(源泉徴収あり)が通常選択されます。その場合、投資信託の売却益には現在20.315%の譲渡税が課税されます。2038年以降は20%です。この税率は年収、金融資産の多い少ない、年齢などに関わらず一定です。

インデックス投資家の中にはこの税制を前提にライフプランを立てている人も多いことでしょう。それを覆すリスクは、少ないながらもゼロではありません。

譲渡税率の引き上げ

先日、高市早苗さんの政権構想が話題になりました。

マイナンバーを活用して金融所得(配当所得と譲渡益)を名寄せして、50万円以上の金融所得の税率を現状の20%から30%に引き上げると、概ね3,000億円の税収増になります。2021年度(予算)の配当所得と譲渡益に係る財務省資料の数字を基に試算です。

引用:【わが政権構想】日本経済強靭化計画|高市早苗

譲渡税率を現行の20%から30%に引き上げる案ですが、これに限らず譲渡税率は機会あるごとに引き上げのネタにされるのは避けられないですね。

金融所得課税の強化

前回の参院選の時もそうでしたが、国政選挙では野党から金融所得課税の強化の話が出ます。きっと次の衆院選でも出るでしょう。その中で僕が極端だと思うものに、金融所得の総合課税化があります。

現実的な問題としては、金融所得の総合課税化の実現が容易でないことは、ちょっとGoogle検索すれば分かります。それよりは、譲渡税の税率を20%から30%などに上げる方がはるかに容易です。

なお、預貯金の利息は利子所得なので、譲渡税の税率とは独立しています。

恐怖の総合課税

金融所得の総合課税化はいかにも左派ポピュリズム政党が言いそうなことだというのは、少し調べれば分かります。が、源泉分離課税に累進性がないことが富裕層ほど有利に働くことは事実です。だからそういう主張をしたい気持ちは良く分かります。でも僕の場合、控え目な試算でも大幅な増税になるので反対です。

次は我が家のリスク資産の先月末の状況です。スリム先進国株式に3,541万円投資していますが、うち2,258万円は特定口座です。

我が家のリスク資産の状況一覧表

NISA制度が利用できるようになったのは2014年です。若いけど入金力が平均的な人ならNISA制度、とくにつみたてNISA制度で入金力の多くを満たせると思いますが、歳とってるけど入金力が平均より高い人は必然的に特定口座を利用することになります。ここは世帯ごとに事情が異なるはずです。

仮に僕の特定口座での投資額が3,700万円になり、出口戦略発動時の評価額が5,550万円だったとします。利益率50%です。(8年以上のちに分かりますが、控え目な試算です。現在はバブル相場で60%を超えています。)僕の出口戦略ではリスク資産の大半を債券に移します。その際に一度「利益確定」することになります。

仮に、出口戦略発動時にはつみたてNISAを残して(NISAはもう使い終わっているはず)特定口座は全額スリム先進国株式から債券に買い換えるとします。源泉分離課税で税率が現行のままなら、税金は375万円です。含み益が変わらない場合、同一年内の買い換えだろうが数年かけての買い換えだろうが税額の合計は変わりません。

総合課税の場合、売却益は他の所得と合算して累進課税が適用されます。ここで、出口戦略を発動する時の僕の収入のほとんどが公的年金だとします。マクロ経済スライドで減らされなければ年金額は227万円程度となる見込みですが、各種控除はこれで使い切ってしまいます。ここでは控除後の年金を無視します。

金融所得が総合課税化された時の扱いは想像するしかないのですが、スリム先進国株式の売却益が累進課税対象の所得になるものとします。すると出口戦略でスリム先進国株式を売却した売却益が総合課税のために所得総額に加算されます。同一年内に全額売却して売却益が1,850万円だとすると、所得税率は40%です。さらに住民税が10%課税されます。ただし超過累進税率なので、売却益全体に40%の所得税ではありません。

超過累進税率表

引用:国税庁

所得税は1,850万円✕40%ー2,796,000円なので460.4万円です。住民税は185万円で、合計675.4万円にもなります。利益に対する税率は36.5%です。源泉分離課税より300万円の増税です。しかも、話はそれだけで終わりません。翌年の国民健康保険料も上がります。所得が1,850万円もあるとどうなるか、国民健康保険料を払っている人は震えてしまうでしょうね。

売却を2年に分けた場合

出口戦略を発動するなら、1ヶ月ぐらいの間に利益確定してしまいたいと思っています。でも総合課税化されるとその年度の所得が跳ね上がってしまいます。そこで売却を2年に分けた場合を考えます。

先程の話と合わせるため、2年に分けて925万円ずつ利益確定させたとします。所得税は925万円✕33%ー1,536,000円なので151.7万円です。住民税は92.5万円で、合計244.2万円になります。これを2回なので、税額は488.4万円です。利益に対する税率は26.4%です。源泉分離課税より113万円の増税です。

そして、翌年の国民健康保険料が上がります。

総合課税化=超過累進税率が適用されるということなので、同一年度内の売却益が増えるほど不利になります。年度を分ける考えもありますが、それは僕の出口戦略に向いていません。

総合課税はやめてくれ

源泉分離課税はほとんどの人にとって総合課税より有利な税制です。累進課税でないため、相対的に富裕層を優遇していることは否定しません。左派ポピュリズム政党は経済的に恵まれている企業や個人を目の敵にしがちですが、金融所得の総合課税化だけは勘弁して欲しいです。それは、勤勉に働いて節約に努め、貯蓄とは別に相応のリスクを負った上で投資によって資産形成している一般人にも高い税負担を求めることにつながります。

たとえば、つみたてNISAの非課税期間20年が過ぎても売却しないで保有する場合、それは特定口座でその時の評価額が元本になります。今若い人ならそこから10年以上ガチホすることも可能でしょう。それでも売却時には総合課税になってしまいます。

どうしても金融所得への課税を強化したいなら、譲渡税の税率を上げればいいと思います。ただしそれはつみたてNISA制度の非課税枠の拡大や非課税期間の無期限化など、普通の人が特定口座を利用しなくても困らない程度にまで拡充するのとペアでやって欲しいです。だって目的は富裕層への課税強化なのですから。

なお、我が家はもう特定口座でたくさん投資済みなので、譲渡税の税率を上げるとしても次の世代でお願いします。

インデックス投資家のあなたにできること

いくつかあります。

  • 次回以降の国政選挙で、金融所得の総合課税化を目指す可能性のある政党、またはそのような政党と連立を組みそうな政党には投票しない。それ以外の政党に投票する。(そもそも投票しないのは論外。)
  • 可能な限り非課税枠(NISA、つみたてNISA、iDeCo)から利用し、特定口座の利用は最後にする。(ただしiDeCoの利用方法はとても難しいので良く考えてから。)
  • 所得税の累進課税は個人単位なので、夫婦の場合は特定口座の利用方法を見直す。
  • 同一年内の売却総額を抑えた出口戦略を考える。

2番目以降はまさかの総合課税化に備えるものです。

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