確定拠出年金(iDeCo)は年金制度として設計されたため、制約が多くて使いこなすのが難しいです。特に出口戦略を考えておかないと、60歳を迎えてから慌てることになりかねません。
積み立てできるのは60歳の誕生日の前まで
国民年金基金は60歳になっても国民年金に任意加入すると(できると)継続して積み立てできますが、残念ながら確定拠出年金は60歳になると積み立て(拠出)は終了となります。
その後も運用は継続できますが、70歳になると運用も強制終了になり一時金で支払われます。
なお、国民年金の第2号被保険者(ざっくり言うと勤め人)に限り、拠出可能年齢を65歳に引き上げる検討が進行中です。
確定拠出年金でリスク資産に投資している僕の場合
僕は確定拠出年金でもスリム先進国株式に投資しています。拠出は60歳の誕生日前までしかできません。その後はガチホに入りますが、問題はいつ解約するかです。暴落しないのであれば、70歳になるまでガチホを継続すればいいわけですが、いつ暴落するかは予測不可能です。
ではいつ解約すればいいかですが、これは各自で考えるしかありません。
- 暴落のことは気にせず、70歳になるまでガチホを継続する。
- 65歳ぐらいで解約することにしておき、その前に暴落したら回復を待つ。70歳になるまで待つかも知れない。
この二択なら、僕は後者が好みです。
特定口座と違うのは、暴落後に回復を待てる期間に制約がある(70歳になるまで)という点です。
暴落してから解約しても、特定口座で買い直せばいいではないか、安く買えるわけだから、と思われるかも知れません。でも特定口座だと利益に譲渡税が課税されます。iDeCoは制度をフル活用できれば、かかる税金をかなり少なくできます。
なお、iDeCo内でリスク資産から無リスク資産に移動させて70歳まで運用することもできますが、これには大して魅力を感じません。無リスク資産だと利益は期待できないでしょうし、(無リスク資産化したとしても)確定拠出年金を受け取らないでいることにもデメリットがあるからです。
全く異なる2つの受け取り方
確定拠出年金を受け取る際は一時金か年金かを選択します。一時金と年金を併用することもできます。一般的には一時金が有利と言われていますが、本当でしょうか。僕の場合の想定金額で計算、比較しました。
前提
- 加入期間は52ヶ月。(加入した年齢が高かったため短いです。)
- 拠出金の総額は67,000円×52=348万円。満額の68,000円でないのは、付加年金を払っているためです。
- ただし口座を2回移管した結果、iDeCo口座上の現在の元本は436万円です。
- 運用益を50%と仮定(期待)。2020年10月末で35%なので十分達成可能な水準。よって受け取り時の資産額は654万円。
- 65歳ぐらいで受け取ると想定。
一時金の場合
一時金を選択すると「退職所得」になり、課税所得は次の式で計算されます。
課税所得=(資産額ー退職所得控除額)÷2
退職所得控除額は加入期間20年までは年40万円、21年目以降は年70万円ですので、僕の場合は52ヶ月の端数を切り上げで(切り上げのはず)5年×40万円=200万円です。よって課税所得は227万円になります。
この課税所得に対して所得税が超過累進税率で、住民税が一律10%課税されます。次は超過累進税率表です。
引用:国税庁
227万円だと所得税率は10%です。よって税額(所得税+住民税)は35.7万円になります。拠出金総額から見た利益は306万円ですから、利益に対する課税率は11.7%になります。特定口座の場合は20.315%ですから、それよりはずっと低いですが、物足りない気がしますよね。
この試算の課税率が高い気がするのは、拠出年数が短いのに、運用金額が多く、利益率が高いためです。
年金の場合
年金を選択すると「雑所得」になり、課税所得は次の式で計算されます。
課税所得=年金額ー公的年金等控除額
公的年金等控除はこうなっています。
引用:国税庁
65歳から5年間で受け取るとして、老齢年金と合算すると「公的年金等の収入金額の合計」は264万円程度になります。よって所得金額は、
246万円×100%ー1,100,000円=136万円
となり、136万円もの金額が雑所得になります。老齢年金だけの場合は
133万円×100%ー1,100,000円=23万円
なので、確定拠出年金を年金として5年間で受け取る場合、その5年間は雑所得が113万円増えることになります。
僕の年金も雑所得です
確定拠出年金を年金で受け取るとかなりの金額の雑所得となることが分かりました。雑所得ということは他の所得(僕の場合は個人事業主なので事業所得など)と合算して所得税と住民税それに国民健康保険料(税)に影響を与えます。そして僕の大事な年金も雑所得です。
なので確定拠出年金を年金で受け取る時はその年の他の所得も気にする必要があります。
一時金の方が圧倒的に有利でした
一時金なら税額35.7万円で済みますが、年金なら所得が5年間、113万円も増えてしまいます。各種所得控除が適用されますが、その時期には使えなくなっているものが多いです。
- 基礎控除は使えます。多分48万円。
- 配偶者控除は妻の収入次第ですが使えます。
- 扶養控除はもう子供が対象外の年齢です。
- 青色申告特別控除は雑所得には適用できません。
- 国民健康保険料控除は使えます。
- 国民年金控除はもう年金を払える年齢ではないので対象外です。
- 小規模企業共済等掛金控除は使えます。(確定拠出年金はもう拠出できる年齢ではありませんので小規模企業共済だけです。)
- 経営セーフティ共済は雑所得には適用できません。
基礎控除48万円、配偶者控除38万円、国民健康保険料控除50万円、小規模企業共済84万円としても合計220万円です。事業売上がそれ以上あると(そうあって欲しいです)増えた113万円に所得税と住民税が課税されることになります。所得税と住民税で15%だとしてもこれだけで15万円を超えます。5年間で合計75万円を超えます。
年金の場合は公的年金等控除額が少ない上に雑所得を増やすことになるので2重に不利です。一時金の圧勝ですね。
退職所得控除の制約
退職所得控除は拠出年数だけで控除額が決まります。拠出額は関係ありません。よって年数をかけてiDeCoに投資した人は多額の控除が可能になります。が、退職所得控除には意地悪仕様があり、その制約を回避しないと控除額が減ってしまいます。
意地悪仕様に引っかからないようにするには、次のどちらかが良いです。
- 退職金をもらってから14年以上空けて、確定拠出年金を解約。
- 確定拠出年金を解約してから4年以上空けて、退職金をもらう。
後者の場合、確定拠出年金を解約できるのは早くて60歳なので、65歳程度まで退職できなくなります。僕の場合は前者に該当します。
また、確定拠出年金を解約後、4年超空けてから、小規模企業共済を解約します。
圧倒的に使いやすく節税効果の高い小規模企業共済は受け取り時も退職金扱いにできますが、その前4年以内に確定拠出年金を受け取っていると税額が増えます。そのため、確定拠出年金を受け取ってから5年は空けてから小規模企業共済を受け取るようにしたいです。つまり、この2つはペアで出口戦略を考えないと予想外の税負担が発生します。
先に「確定拠出年金を受け取らないでいることにもデメリットがあるから」と書いたのはこのことです。余命にも限りがありますからね。
前もって調べ、出口戦略を計画しよう
こういうことには年単位の時間を要する課題が少なくありません。手遅れになる前に調べてどう行動するのがいいのか計画しておきましょう。わずかなことが大きな金額の差を生み出しかねません。
出口戦略(一時金か年金か、一時金ならいつ解約するか、退職所得控除はどうなるのか)なしで60歳を迎えて慌てることのないようにしたいものです。