個人事業主が節税に使える手段として「経営セーフティ共済」も良く目にします。これは僕から見るとバランスの悪い制度で使い方が難しいです。でも我が家では悩みに悩んだ末に僕も妻も利用することにしました。何も考えずに使うと大変なことになりますが、デメリットを理解した上で上手に使えば十分大きな節税効果が期待できます。
経営セーフティ共済のメリット
中小企業倒産防止共済とも言います。この制度が生まれた理由はもちろん節税のツールではありませんが、我が家ではその本来の趣旨とは縁がない事業を営んでいるので、関心はもっぱら節税効果です。その観点では次のメリットがあります。一部デメリットに見えることもありますが、十分我慢(理解)できることです。
- 最大月額20万円、年間240万円まで積み立て(拠出)可能です。
- 拠出金は全額必要経費です。(所得控除よりも強力です。)
- 最大800万円まで積み立て可能です。
- 40ヶ月以上積み立てていればいつでも解約でき、元本割れしません。40ヶ月未満だと元本割れします。40ヶ月なんてたったの3年4ヶ月です。
- 40ヶ月以上積み立てれば解約するのに小規模企業共済のようなややこしい制約はありません。廃業する必要もありません。
ここまでならものすごく魅力的な制度なんですが、「行きはよいよい帰りは怖い」です。
経営セーフティ共済最大のデメリット
経営セーフティ共済はメリットの大きさに負けない、強力なデメリットを有します。
- 解約して取り戻した現金(解約手当金)は事業所得になります。
- 解約は全額一気にしかできません。
積み立て時に全額必要経費になるのは節税のツールとして見ると最強です。小規模企業共済や個人型確定拠出年金の拠出金は全額「所得控除」でした。所得控除は所得税と住民税の軽減には効果がありますが、国民健康保険と事業税には効果がありません。必要経費が効かないのは消費税の免税業者でいるために課税売上高を1,000万円以内にする時ぐらいのもので(おおざっぱに言うと売上が1,000万円超えると必要経費が200万円あってもめでたく課税業者に昇進です)、他の税金には万能薬のように効きます。
たとえば事業が好調なので毎年200万円ずつ4年間積み立てたとします。本当はもっと積み立てたいけど積み立て可能な上限が800万円なので泣く泣くあきらめます。そうして4年間は毎年200万円を必要経費にできるので所得税、住民税、国民健康保険、事業税を確実に少なくできます。ところが積み立てた800万円を手にする時には全額が事業所得になるのです。売上が800万円増えるようなものですね。特に所得税は累進課税なのでまとめてそんなに増えたら困りますね。下手をすると4年間の節税分を後でまとめて支払うようなことになるかも知れません。
せめて小分けにして解約できるといいのですが、残念ながらそう都合良くはできていません。
経営セーフティ共済の出口戦略を考える
これは我が家の場合の話です。
積み立て時は全額経費になるのでその時点で多分25%以上の節税効果を手にしていると思います。この言ってみれば先にもらっているリターンを忘れてはいけません。次に解約時には全額が収益になるので、売上が少ない年に解約しないと課税額が増えて大変です。仮に、廃業しないまでも引退間近で仕事量を激減させた年に解約したとします。仕事量は減っても固定費のような経費はいろいろ計上できますので、収益(=解約金)からいくらかの経費を引いたものが所得になります。廃業していませんから、事業売上が0でも売上になった解約金を加算した結果が総売上です。廃業していると単なる一時所得になるためもっと不利です。
それに、廃業していなければ65万円の青色申告特別控除が使えます。
また、国民年金、個人型確定拠出年金、国民年金基金は60歳を過ぎると(基本)拠出できないので所得控除となる社会保険料控除額が減ります。それも考慮して、解約金ー毎年普通に発生する固定費のような経費=事業所得がいくらぐらいなら、前もって手にしたリターンとの比較で許せるかを考えました。これもエクセルで積み立て総額、解約時の税額、積み立て時の節税額(=先にもらったリターン)、実質の節税額を計算させて、積み立て総額をいくらすればいいかを考えました。そして僕は360万円に抑えることにしました。60万円ずつ6年間です。積み立て上限の半分にもなりませんが、そういう制度なのでしょうがないです。
受け取り時の税額計算
経営セーフティ共済を受け取る時の税額を計算しました。いろんな想定にもとづいた予測ですが、事業売上が少ない時に解約するし、もうその時は結構な年齢のはずなので・・・と未来を想像してみます。
当然ですが積み立て総額が増えると受け取り時の税額が増えます。そのため受け取る払戻金が非課税だったらまるまる生きる積み立て時の節税効果が、積み立て総額が増えると減って行きます。受け取り時にこんなに税金取られるのはイヤだから積み立て総額を抑えよう、という判断に使えると思います。何も考えずにとか、なんとなくで決めるよりは、未来の予想は外れることが多いとしても、こういう計算をしてみるべきでしょう。
この払戻金がいくらなら税額がいくらになるかという計算をしているのがこれです。
これも素人が作ったものなのでツッコミどころ満載だと思いますが、雰囲気はつかめると思います。この表の内容は各家庭ごとに違うので、みなさんがご自分の場合について予想する材料程度にして下さい。
上記2シートが入ったエクセルはこちらです。見過ごせない間違いなどありましたらご指摘頂けると幸いです。
妻も経営セーフティ共済を使う
これだけ使いにくい制度なので当初妻には使わせないつもりでしたが、考え直して使うことにしました。売上が少なくなった時の所得控除額を想像した結果、5年程度で320万円積み立てることにしました。妻についても僕同様に、ある想定の元で計算した結果から決めました。
たとえ後から税金を払うとしても
経営セーフティ共済の払戻金は全額が収益になるので、税金の支払いを先送りしているだけだと言われることがあります。確かにそれは否めませんが、積み立て額と払戻金を受け取る時の他の売上によっては実質の税負担を減らせます。また、先に手にした節税分のリターンを払い戻すまでの長い年数を活用して増やす(たとえばインデックスファンドに投資してそこそこのリスクでそこそこのリターンを得るとか)こともできると思います。
経営セーフティ共済に申し込む時の注意点
こちらに経営セーフティ共済の加入資格の説明があります。一般的な個人事業主が引き続き1年以上事業を行っていれば加入できると読めます。確かにそうなのですが、実は他にも条件がありました。僕の場合は問題なかったのですが、妻が申し込んだ際にひっかかりました。
まず、小規模企業共済も経営セーフティ共済も、銀行の窓口を通して申し込む際は、利用できる銀行が限られています。(一覧はこちら。)便利なネット銀行である楽天銀行とか大和ネクスト銀行とかイオン銀行とかは全滅です。それで我が家の場合はネット銀行から引き落としできないそのようなもののために三菱東京UFJ銀行を利用しています。僕も妻もです。で、妻の場合は小規模企業共済を年払いする時に初めて三菱東京UFJ銀行で口座を作成しました。その時は個人事業の開設届の控えがあれば何も問題なく小規模企業共済への加入ができました。
その約1年後のことです。妻が個人事業を開業してから1年以上経過しているし、1度確定申告しているのでその控えがあり事業の実体があることを証明できます。(確定申告書の控えでできるってのもまあいい加減な話ではありますが。)それで今年は妻の経営セーフティ共済への加入と12ヶ月の前納の手続きに同伴で同じ三菱東京UFJ銀行に行きました。ところがここで1点ダメ出しされたのです。その三菱東京UFJ銀行の口座を作成してから1年経過しておらず、2週間ほど足りないので今日の時点では中小機構に提出できませんと。なんですと。
そんな条件があるとは知りませんでしたが、中小機構から取り寄せた申込書にはその趣旨のことが書かれているようでした。三菱東京UFJ銀行の口座は事業運営には使っておらず、単にネット銀行からは引き落とせないもののために利用しているだけなんですけどね。でもルール上はその、中小機構が引き落とす対象の口座で事業運営の有無を判断するとかいう、うん、さすが独立行政法人だ。でも三菱東京UFJ銀行の窓口のおばさんは親切な人で、作成日を未来に変更して(訂正印を押しました)その日はその書類を預かってくれて、口座開設から1年経過してから中小機構に提出してくれることになりました。(出し忘れてたりしたら許さないぞ。→10月12日に三菱東京UFJ銀行から申請書の控えが送付されて来ました。ご苦労様でした。)
経営セーフティ共済に加入する可能性があるなら、次の準備をしておきましょう。
- 開業時に「個人事業の開廃業等届出書」の控えに押印してもらい、その控えを保管しておく。(これは何をするにしても必要です。)
- 中小機構の窓口を代行できる銀行に口座を作成しておく。小規模企業共済にも必要だし。
- 確定申告書の控えが必要なので確定申告時には控えを印刷して返信用封筒と共に提出、戻ってきた押印済みの控えを大切に保管しておく。
調査と事前準備が大切です。