全世界株式

楽天全世界株式(楽天VTプラス)の運用コストと評価

楽天全世界株式はVTを買うだけのインデックスファンドだったため楽天VTとも呼ばれていました。楽天全世界株式固有の運用コストを負担しなければなりませんが、その代わりに、VTを自分で買う場合に生じるデメリットを解消してくれます。その運用コストは、信託報酬と隠れコストから構成され、毎営業日、純資産から天引きされます。

楽天全世界株式は低コストで全世界の株式に投資する最良の手段のひとつでしたが、これからはそうでもないかも知れません。

更新情報

参照しているデータを最新版に更新しています。

楽天全世界株式

2017年9月29日に税抜き信託報酬0.12%+VTの経費率で設定されました。当時のVTの経費率は0.1%でしたが、その後3回引き下げられて現在は0.07%です。楽天全世界株式の信託報酬は設定来引き下げられていません。

購入時手数料、解約時信託財産留保額ともにゼロです。

楽天全世界株式はつみたてNISA適格です。またiDeCoナビによると楽天証券と松井証券のiDeCo口座で扱われています。

楽天全世界株式が登場するまでは、日本を含む全世界株式インデックスは不人気で売れないとされていました。楽天全世界株式の登場は画期的でしたし、この業界に与えた影響は非常に大きいです。

VTIとVXUSにも投資します

2022年4月15日から、VTに加えてVTIとVXUSにも投資するように変わりました。

楽天全世界株式のファンドの仕組み

引用:目論見書

この変更を行う理由は、VTの経費率が0.07%であるのに対し、VTIの経費率が0.03%であり、VTをVTI+VXUS(経費率0.07%)で代用できれば事実上の経費率を抑えられるからですね。こちらの説明資料では、こうすることのメリットを2つあげています。

  • これまで以上に効率的な運用が実現できる。
  • 追加銘柄の純資産総額に占める比率が増えることで、中長期的に「実質的に負担いただく運用管理費用」の引き下げが期待できる。

前者はちょっと何言ってるのか分からないです。VT一本+先物の方がシンプルで効率的ではないですかね。

後者は、これから純資産総額に占めるVTIの割合を増やして行きますよということと同意です。VTの米国比率は60%程度なので、楽天全世界株式のVTI比率が60%、その他40%がVXUSに置き換わり、VTはゼロになったとすると、計算上の経費率は0.046%になります。経費率を含む税込み信託報酬は0.170%です。ちなみにSBI・V・全世界株式は0.1338%です。いや、目指す方向間違ってないですかね。

まず、VTのベンチマークであるFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスとの連動性を確保できるのかが気になります。それはVTトータルリターン(ガチで本物のVT)との比較結果を見れば分かります。どうなるか、未来が楽しみです。

また、楽天全世界株式のメリットのひとつにあの憧れのVTに投資信託として投資できるがあったはずですが、それはもう過去のものとなりました。本物を好む方は、SBI証券でしか買えませんが、SBI・V・全世界株式がいいですね。

楽天バンガードHEADSに質問した結果

楽天全世界株式がVTIとVXUSにも投資するようになった件について、楽天バンガードHEADSに質問しました。質問は4つありました。

  1. VTの純資産総額に占める楽天VTの比率が10%を超えると税制上の問題が発生するのが、この変更の背景だというツイートがあったのですが、そうでしょうか。
  2. VTIの指数はFTSE社が作成しているわけではないので、VT=VTI+VXUSではないと思うのですが、VTIにも投資することでVTの指数から乖離してしまう懸念はないのでしょうか。
  3. VTIの経費率がVTより安いメリットを活かすために、楽天VTの純資産総額に占めるVTの比率を下げる必要がありますが、時間をかけてVTを売却する予定でしょうか。それとも投資済みのVTは資金流出が起きない限りホールドする予定でしょうか。
  4. 楽天バランスシリーズ4商品のVT部分も同様に変更される予定でしょうか。

質問が直球過ぎて回答できないものがあるのは想定していました。頂いた回答の要旨はこうでした。(回答して頂けた楽天バンガードHEADS運営担当の方は、僕がブログで楽天全世界株式をどう評価してきたかご存知です。)

  • 今回の投資対象の追加は、あくまで運用目標の達成ならびに運用パフォーマンスの更なる改善を目的としたものです。今後、残高がさらに拡大しても効率的な運用が継続できるよう総合的に判断しました。
  • 追加となる複数のETFへの投資を通じて、「VT」と同等のパフォーマンを確保することが可能であると考えており、引き続き、FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス(円換算ベース)に連動する投資成果を目指し行きます。
  • 現在保有しております「VT」については、全てを売却することは想定していません。あくまで、新規買い付け資金を中心に「VTI」+「VXUS」を購入していく予定です。
  • 上述の内容は、あくまで現時点の見解である点をご理解下さい。
  • 楽天バランスシリーズ4商品のVT部分の変更は予定していません。

可能な範囲で最大限の回答をして頂けたものと理解しています。これを受けての僕の感想です。

  • 保有中のVTは積極的に売却しないので、実質的な経費率が下がるのには相応の時間が必要になるはず。
  • VTトータルリターンとの差が従来以上に出るとしても、相応の時間がかかるはず。
  • SBI・V・全世界株式との競争も含めて、今後が楽しみ。

VTIとVXUSにも投資している様子

予定通り、資金流入でVTIとVXUSを購入することで、全体としてはVTの比率が下がってきています。

VTIとVXUSの投資比率の積み上げグラフ

現在のVTの比率は64.9%です。

運用コスト(トータルコスト)

細かい話はいいから現在の運用コストが知りたいって方はここまで飛ばして下さい。

おどろくほど高コストだった第一期決算期間

楽天全世界株式の第一期決算期間は、受益者が失望を隠せないほど高コストなものでした。

次は2017年9月29日から2018年7月17日(第一期決算期間)における楽天全世界株式とVTトータルリターンの比較です。

2017年9月29日から2018年7月17日(第一期決算期間)における楽天全世界株式とVTトータルリターンの比較グラフ

青のラインはVTトータルリターンー楽天全世界株式です。赤の矢印の位置で跳ね上がっているのは、楽天全世界株式の運用上の問題でリターンが劣化したためです。同じ現象は楽天全米株式にも観測されました。新規設定されたファンドで良く見られる問題ですが、その程度が大きかったです。

次は運用が安定してきたと思われる、2017年11月1日からの比較です。

青のラインはきれいな直線で、その傾きは楽天全世界株式の運用コストの大きさを示しています。

次はVTトータルリターンの運用コストを年率0.58%ポイント増量したものとの比較です。

VTトータルリターンの運用コストを年率0.58%ポイント増量したものとの比較グラフ

青のラインはフラットに近くなりました。よってこの期間の楽天全世界株式の、VTの経費率を含んだトータルコストは税込み0.67%程度だと推測されました。ところが、第一期運用報告書から計算した数値はそれより小さい税込み0.4871%でした。

第一期運用報告書から計算した楽天全世界株式のトータルコスト表

僕が推測したトータルコストと、運用報告書から計算したトータルコストが一致しない理由はいくつか考えられるのですが、ここでは運用報告書にある数値が正しいとしましょう。

当時、楽天全世界株式の受益者はこのトータルコストの高さに泣きました。目論見書では、実質的に負担する運用管理費用をこう表現していました。

引用:目論見書

この桁数の多い数値は(当時の)VTの経費率0.1%を含んでいます。あのVTがインデックスファンドで、しかもこんな低コストで買えると狂喜乱舞した後で、隠れコストを加えると税込み0.4871%だったと知らされた時の落胆は大きかったです。

大きく改善された第二期決算期間以降

第二期決算期間以降、運用コストは大きく改善されました。VTトータルリターンとの比較でも、その様子は確認されました。

楽天全世界株式の第一期から第五期のトータルコスト比較表

このように楽天全世界株式の隠れコストが毎年削減されていることは高く評価します。

第五期決算期間以降

次は第五期決算期間が開始した2021年7月16日から2023年3月31日までの、楽天全世界株式とVTトータルリターンの比較です。

2021年7月16日から2023年3月31日までの、楽天全世界株式とVTトータルリターンの比較グラフ

次はVTトータルリターンの運用コストを年率0.18%ポイント増量したものとの比較です。

VTトータルリターンの運用コストを年率0.18%ポイント増量したものとの比較グラフ

青のラインは、2022年3月中旬まではほぼフラットになりました。ところがそれ以降、明らかに増量不足です。これは(端折って言うと)運用コストの増加を示しています。

この青のライン、僕には不自然に見えますね。

SBI・V・全世界株式との比較

次は2022年4月1日から2023年3月31日までの、楽天全世界株式とVTトータルリターンの比較です。

2022年4月1日から2023年3月31日までの、楽天全世界株式とVTトータルリターンの比較グラフ

次は同じ比較を、SBI・V・全世界株式で行ったものです。SBI・V・全世界株式の方が低コストだし、青のラインの形状が自然です。

2022年4月1日から2023年3月31日までの、SBI・V・全世界株式とVTトータルリターンの比較グラフ

この手の比較をさんざん行ってきた経験から、僕には楽天全世界株式のVTへの連動性が悪くなってきているように思えます。

楽天全世界株式は先物を利用しています

楽天全世界株式は設定されてからしばらくは、VTとわずかな比率の短期金融資産だけで運用されていましたが、現在は株式先物を利用しています。

この取り組みは素晴らしいと思います。

SBI・V・全世界株式

楽天全世界株式と同じくVTを買うだけのSBI・V・全世界株式が、2022年1月31日に税抜き信託報酬0.058%(+VTの経費率)で設定されました。楽天全世界株式より0.062%ポイント安いです。

ベンチマークに忠実ではないSBI全世界株式と違い、SBI・V・全世界株式は「本物」です。楽天全世界株式は純粋にVTに投資するファンドではなくなったので、本物を好む方にはSBI・V・全世界株式をおすすめします。また、運用コストもSBI・V・全世界株式の方が安いです。

人気が衰えない楽天全世界株式

その昔、先進国株式+新興国株式+国内株式で組成される「全世界株式」は、日本では売れないと言われた時期がありました。今そんなこと言ったら「馬鹿じゃね」と笑われそうです。その、ひと昔前の通念を打破したのが、楽天全世界株式でした。あのVTがインデックスファンドとして買えるとあって、設定直後から高い人気を獲得しました。

その人気は、あのスリム全世界株式(オール・カントリー)の登場後も盤石です。オール・カントリーが何度も信託報酬を(他社対抗で)引き下げた後でもです。

次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。純資産総額は2,672億円です。

楽天全世界株式の設定来の資金流出入額の累計の推移グラフ

安定した資金流入が継続しています。

次はスリム全世界株式(オール・カントリー)もプロットしたものです。オール・カントリーの純資産総額は1兆円です。

スリム全世界株式(オール・カントリー)もプロットしたもの

緑のラインのオール・カントリーは、2019年までは楽天全世界株式に追いつけそうにありませんでしたが、2020年になって増加ペースを上げ、追い抜いてからも勢いを維持しています。ラインの反り返りがそれを示しています。オール・カントリーの人気は驚異的です。

楽天全世界株式は、設定来、VTの経費率が下がったことを除いて、信託報酬を引き下げていません。信託報酬税抜き0.12%+VTの経費率=実質的に負担する運用管理費用(税抜き)を守り通しています。対抗値下げしなくても純資産総額の伸びをキープできるなら、値下げしないのも戦略のひとつです。それに対する受益者の答えは、資金流出入に表れます。

楽天全世界株式は、その安定した運用に相応しい資金を集められていると言えますが、全世界株式インデックスの人気の多くをオルカンに奪われてしまったことも事実です。

オール・カントリーの方が低コストだけど

楽天全世界株式のベンチマークはFTSEグローバル・オールキャップ・インデックス、オール・カントリーはMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスと、ベンチマークが違うので同列での比較はできません。が、運用報告書から計算したオール・カントリーのトータルコストは楽天全世界株式より安いです。(でも運用報告書にある数値はあてにならないので注意が必要です。)

楽天全世界株式とオール・カントリーのトータルコスト比較表

また、楽天全世界株式にはVT同様、三重課税問題が存在します。これはうれしくないです。

無視できない三重課税コスト

日本人が米国以外の資産に投資する米国籍ETFを買う場合、三重課税問題が発生します。VTの米国以外の投資先から得る配当金は、米国外での現地課税と、米国での10%課税が適用されます。ここまでが二重課税で、日本でさらに20.315%課税されると三重課税になる、というものです。

そんなマニアックな話はいいやって方は、ここまで飛ばして下さい。

2017年度は推定0.087%

VTの2017年度の年次レポートにある、配当金の課税に関する数値は明らかに不自然でした。そこで、配当金への外国税率を10%と仮定して逆算したのが次の図です。

配当金への外国税率を10%と仮定して逆算した図

配当金の39.60%に対してさらに10%課税しているのが余剰(三重課税の原因)で、それは配当金全体の比率で見ると3.96%になります。

配当金は年率2.2%で、これはVTの保有額に対する割合ですから、これに3.96%を乗じた0.087%が三重課税コストになります。

2018年度は0.118%

次はVTの2018年度の年次レポートから、配当金への課税関係をまとめた図です。

VTの2018年度の年次レポートから、配当金への課税関係をまとめた図

配当金の49.17%に対してさらに10%課税しているのが余剰(三重課税の原因)で、それは配当金全体の比率で見ると4.92%になります。

配当金は年率2.4%で、これはVTの保有額に対する割合ですから、これに4.92%を乗じた0.118%が三重課税コストになります。

2019年度は推定0.112%

困ったことに2019年度の年次レポートには、米国外の株式から得た配当金の額が明記されていません。

2018年分度は、配当金の54.7%が外国で源泉徴収済みでした。この大事な数値が分からないのですが、2019年度は50.0%だったとして試算します。

VTの2019年度の年次レポートから、配当金への課税関係をまとめた図

すると配当金の44.67%に対してさらに10%課税しているのが余剰(三重課税の原因)で、それは配当金全体の比率で見ると4.47%になります。

配当金は年率2.50%なので、これはVTの保有額に対する割合ですから、これに4.47%を乗じた0.112%が三重課税コストになります。

なお、配当金の年率(Dividend Yield)が明記されていなかったので、配当金実績から自分で計算しました。

2020年度は推定0.095%

残念ながら2020年度の年次レポートにも、米国外の株式から得た配当金の額が明記されていないため、配当金の50.0%が外国で源泉徴収済みだったとして試算します。

VTの2020年度の年次レポートから、配当金への課税関係をまとめた図

すると配当金の44.52%に対してさらに10%課税しているのが余剰(三重課税の原因)で、それは配当金全体の比率で見ると4.45%になります。

配当金は年率2.14%なので、これはVTの保有額に対する割合ですから、これに4.45%を乗じた0.095%が三重課税コストになります。

なお、配当金の年率(Dividend Yield)が明記されていなかったので、配当金実績から自分で計算しました。

2021年度は推定0.100%

2021年度の年次レポートにある数値も、この図を正確に描くには不十分でしたが、おおむねこのような関係と思われます。

VTの2021年度の年次レポートから、配当金への課税関係をまとめた図

すると配当金の41.9%に対してさらに10%課税しているのが余剰(三重課税の原因)で、それは配当金全体の比率で見ると4.19%になります。

配当金の年率(Dividend Yield)は2.4%なので、これはVTの保有額に対する割合ですから、これに4.19%を乗じた0.100%が三重課税コストになります。

VTの三重課税コストは0.1%程度か

三重課税問題は、オール・カントリーのような現物株運用のファンドには存在しません。配当金への課税は現地(外国)と国内の譲渡税のみで、余剰となる米国課税がないからです。この課税の仕組み上、三重課税問題は都市伝説ではありませんが、大半の受益者はその存在すら知らないと思います。また、ベンチマークがVTと同じで現物株運用のファンドがあると、リターン差から三重課税コストの存在を確認できると思うのですが、残念ながら存在していません。(オール・カントリーのベンチマークがVTと同じだったら楽しかったと思っているのは内緒です。)

VTが好きなら、三重課税問題を許容するというのも選択肢でしょう。VTに思い入れがないなら、三重課税問題は気にした方がいいと思います。それでも楽天全世界株式を選択するというのもありです。

評価:これまでは最高評価だった楽天全世界株式

楽天全世界株式の現在のコストは低水準で運用も安定しており、安心しておすすめできるとして来ましたが、VTIとVXUSにも投資するように変わったことにより、これまでの最高評価の維持は難しくなりました。VTを買うだけのインデックスファンドが良かった人は、失望しているかも知れません。VTIとVXUSに投資して経費率を抑えながら、VTだけに投資しているのと同じ運用ができるかどうかは、未来にならないと分かりません。すでに怪しい雰囲気を感じています。

日本を含む全世界株式に投資したい場合、運用コストと人気で考えると、おすすめは楽天全世界株式かオール・カントリーの二択でしたが、VTIとVXUSにも投資する運用が好みでない場合は、SBI・V・全世界株式も選択肢にするのがいいでしょう。

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