楽天全米株式はVTIを買うだけのインデックスファンドです。そのため楽天VTIとも呼ばれます。VTIを自分で買う場合に生じるデメリットを解消してくれる代わりに、楽天投信投資顧問が徴収する運用コストを負担しなければなりません。その運用コストは、信託報酬と隠れコストから構成され、毎営業日、純資産から天引きされます。
楽天全米株式の第一期決算期間の運用コストは期待外れに高かったのですが、第二期は大幅に低減されました。第三期も低水準が維持されています。優秀です。
更新情報
楽天バンガードHEADSからもらった回答を追記しました。また、参照しているデータを最新版に更新しています。
楽天全米株式の運用コスト(実質コスト)を推測する方法
楽天全米株式はバンガード社のETFであるVTIを受益者に代わって買います。その価格はVTIの終値です。また、VTIから年4回配当金が出ますが、それを国内課税なしで再投資します。
次の手順でVTIトータルリターンを生成します。
- 2010年1月5日に10,000円でVTIを買ったことにします。扱う株数は「端株数」です。つまり、VTIの取引価格が15,000円なら0.6667株買ったことになります。
- 配当金が出たら米国での10%課税後のドルを再投資します。税引き後の配当金でVTIを端株数で買うのです。そうして保有株数を増やします。保有株数が増えるのは配当金を再投資した時だけです。
- 円をドルに替える為替手数料もVTIの購入手数料もゼロとします。
- 評価額は円換算して求めます。
- 評価額の推移を指数化します。
たとえると、河童証券がVTIを買うだけのインデックスファンドを運用して、配当金の再投資までしますが、信託報酬も隠れコストもゼロ円の場合の基準価額の推移を生成するようなものです。そのため、このトータルリターンは現実にはありえない仮想的なものです。
これと楽天全米株式の基準価額の推移を比較することで次のコストの総和が推測できます。(VTIの経費率を除きます。)
- 純資産から毎営業日天引きされている信託報酬。
- 運用報告書に記載される、隠れコストと呼ばれる、信託報酬以外のコスト。売買委託手数料、有価証券取引税、監査費用、保管費用など。
- 楽天全米株式がコストとは認識しないものの、運用で生じたロス。たとえば純資産の一部を現金で保有したことによる機会損失。
信託報酬、隠れコスト、ETFの経費率を合算したものは、実質コストとも呼ばれます。この記事では実質コスト=トータルコストです。
反論歓迎です。
高コストだった第一期決算期間
楽天全米株式の第一期決算期間は期待を裏切る高コストなものでした。昔はいいから現在が知りたいって方はここまで飛ばして下さい。
次は2017年9月29日から2018年7月17日(第一期決算期間)における楽天全米株式とVTIトータルリターンの比較です。
青のラインはVTIトータルリターンー楽天全米株式です。赤の矢印の位置で跳ね上がっているのは、楽天全米株式の運用上の問題でリターンが劣化したためです。同じ現象は楽天全世界株式にも観測されました。
次は運用が安定してきたと思われる、2017年11月1日からの比較です。
青のラインはきれいな直線で、その傾きは楽天全米株式の運用コストの大きさを示しています。
次はVTIトータルリターンの運用コストを年率0.40%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりました。よってこの期間の楽天全米株式の、VTIの経費率を含んだトータルコストは税込み0.44%程度だと推測されました。ところが、第一期運用報告書から計算した数値はそれより小さく、税込み0.3021%でした。
僕が推測したトータルコストと、運用報告書から計算したトータルコストが一致しない理由はいくつか考えられるのですが、ここでは運用報告書にある数値が正しいとしましょう。
当時、楽天全米株式の受益者はこのコストの高さに大いにがっかりしました。目論見書にある次の表現から期待していたものとの差が激しかったからです。
引用:目論見書
この桁数の多い数値は(当時の)VTIの経費率0.04%を含んでいます。受益者の多くはこれが実際には(隠れコストを加えると)税込み0.3021%になるなんて思わなかったでしょう。「実質的に負担する」という表現から受ける印象とは大きく違います。
大きく改善された第二期決算期間
次は2018年7月18日から2019年7月16日(第二期決算期間)における楽天全米株式とVTIトータルリターンの比較です。
赤の矢印の位置にある大きなヒゲは、VTIの配当金を取り込むタイミングの違いによるものです。無視して下さい。
次はVTIトータルリターンの運用コストを年率0.20%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりました。よってこの期間の楽天全米株式の、VTIの経費率を除いたコストは税込み0.20%程度だと推測されました。
第二期運用報告書から計算した数値はそれに近いものでした。第一期に高かった隠れコストは半減されました。
トータルコストからVTIの経費率(0.03%)を除くと税込み0.1928%になりました。推測通りでした。
次は隠れコストの明細です。
売買委託手数料が大幅に削減されました。第二期は努力したということでしょう。また、印刷費用というふざけた項目を計上していた「その他」がゼロになりました。
低水準が維持されていた第三期決算期間
次は第三期決算期間が開始した2019年7月17日から2020年4月30日までの、楽天全米株式とVTIトータルリターンの比較です。
赤の矢印の位置にある大きなヒゲの発生理由は不明ですが、無視していいです。また、黄色に塗った株価暴落開始後はリターン差から運用コストを推測できないため除外して考えます。
次は2019年7月17日から2020年2月20日までで、VTIトータルリターンの運用コストを年率0.20%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりました。よって楽天全米株式の第三期の、VTIの経費率を除いたコストは、第二期と変わらず、税込み0.20%程度だと推測されました。
第三期運用報告書から計算した数値は第二期から削減されていました。
トータルコストからVTIの経費率(0.03%)を除くと税込み0.1790%になりました。推測値より少なかったです。
次は隠れコストの明細です。
売買委託手数料が下がっています。でも残念なことに「その他」が増えました。うち第二期ではゼロになった「印刷費用」が0.002%計上されています。第三期の隠れコストは十分安く、それは素晴らしいですが、第二期にゼロだった「その他」が増えたのはちょっと気に入らないです。
第四期決算期間は超低コストで推移中
次は第四期決算期間が開始した2020年7月16日から2021年1月29日までの、楽天全米株式とVTIトータルリターンの比較です。巨大なトゲは無視して下さい。
次はVTIトータルリターンの運用コストを年率0.16%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりましたが、直近1ヶ月は増量し足りないですね。楽天全米株式の第三期決算期間もこのような感じのスタートでした。今まで通り、とも言えますが、できれば現在の超低コスト運用を継続して欲しいものです。
「ETFをマーケットメーカーから購入する計画はありますか?」への回答
SBIバンガードS&P500は、VOOをマーケットメーカーから購入しているので、売買委託手数料がかかっていないそうです。では、楽天全米株式や楽天全世界株式はVTIやVTを、ブローカーからではなくてマーケットメーカーから購入すれば、圧倒的なコストダウンができるはずです。
そこで、楽天バンガードHEADSで質問してみました。このサイト、質問するといつも丁寧な回答がもらえます。今回もそうでした。(改行だけ編集しています。)
ご質問の件ですが、弊社では、ETFの売買において、証券会社(ブローカー)だけでなく、流動性供給者又はマーケットメイカーと呼ばれる金融機関も活用し、最良執行の考えのもと日々の執行コストをできる限り低減するよう努めています。
発注に際しては、市場の状況や発注数量、条件面等を総合的に勘案しながら、ブローカーなのか、マーケットメイカーなのか、また、どの会社に発注するのか等を決定しております。
なお、これまで河童様がご自身のブログ内で分析されていらっしゃいます通り、基準価額には、すべてが反映されておりますので、引き続き、基準価額の動向をご確認いただけますと幸いです。
この回答、奥が深いですね。
人気が衰えない楽天全米株式
SBIバンガードS&P500が設定された時、その後スリム米国株式(S&P500)が対抗値下げをした時、楽天全米株式を指して「死んだ」とか「終わった」などの発言が見られました。それから1年ちょっとになりますが、楽天全米株式の人気は盤石です。
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。スリム米国株式、SBIバンガードS&P500もプロットしています。右端は2021年1月29日です。
赤のラインの楽天全米株式は、緑のラインのスリム米国株式に抜かれてしまいましたが、その人気は安定しています。青のラインのSBIバンガードS&P500も売れていますが、楽天全米株式との差を縮めるのは容易ではありません。
楽天全米株式は、設定来、VTIの経費率が下がったことを除いて、信託報酬を引き下げていません。信託報酬税抜き0.12%+VTIの経費率=実質的に負担する運用管理費用(税抜き)を守り通しています。それは、対抗値下げしなくても、人気が衰えないからだと思われます。これを先行者利益と呼ぶべきか、VTIのブランド力による効果と呼ぶべきかは分かりません。
楽天全米株式は、その安定した運用に相応しい資金を集められていると言えるでしょう。
それでも儲かっていません
楽天全米株式の純資産総額は1,963億円、スリム米国株式は2,683億円です。次はその純資産総額における、運用会社(委託会社)の売上です。(スリム米国株式は受益者還元型信託報酬制度を採用していますが、漸減率が小さいのでここでは無視しています。)
運用会社の取り分は、信託報酬の一部に過ぎず、超ローコスト化が進んだために純資産総額が1,900億円以上あっても、売上は1億円に届きません。ビジネスとして継続可能にするには、純資産総額の桁をひとつ増やしたいところでしょう。そうです、1兆円規模です。そんな馬鹿と笑っている人は、楽天全米株式が登場した頃に、3年4ヶ月で純資産総額が2,000億円に迫るとは想像できなかったことでしょう。僕もですけどね。
評価:楽天全米株式のコストは低水準で運用も安定しています
楽天全米株式の現在のコストは低水準で運用も安定しており、人気も盤石で安心しておすすめできます。
投資対象銘柄数が多く、投資対象セクターが分散された米国株式インデックスに投資したい場合、運用コストと人気で考えると、おすすめは楽天全米株式かスリム米国株式(S&P500)の二択になります。両者のパフォーマンスはほぼ同じで、どちらを選ぶかは好みの問題です。