複利効果を説明するのに数学的に生成したグラフは、計算間違いではないかと思うようなカーブを描きます。期待リターンがより高く、年数がより長くなるとその効果の強度は驚くほど上がります。
リスク資産に投資するインデックス投資では、期待リターンは決して数学的に作用してくれませんが、常時、確実に数学的に働いている力も存在します。信託報酬です。基準価額が上がろうが下がろうが、純資産総額から毎営業日必ず天引きされます。リターンは不確実ですが、コストは確実なのです。
そしてわずかな信託報酬差も、期待リターンが高く年数が長いと驚異的な差を生み出します。それを、次の記事で登場したAさんに再登場してもらって実証します。
試算条件
- 誕生日が1月1日のAさんは専業主婦(国民年金の第3号被保険者)です。
- Aさんは2020年の30歳から60歳の誕生日前までの30年間、毎月23,000円を家計からiDeCoに拠出します。
- iDeCoで買うのは期待リターンが年率5%の良質なインデックスファンドです。拠出額から手数料167円を引いた残りで購入します。
- 60歳から70歳になる前までの10年間のどこかのタイミングで、全額一括で一時金として受け取ります。iDeCoの意地悪仕様を回避できるので、とんでもなく有利な退職所得控除のメリットを最大限に受けられます。
- 投資対象のインデックスファンドを、スリム先進国株式相当とたわら先進国株式相当として比較します。違いは信託報酬だけです。
期待リターン年率5%と信託報酬差0.1%ポイント
2020年から拠出期間30年、受取可能期間10年の合計40年の試算をするのに、期待リターン年率5%で数学的に生成した基準価額データをスリム先進国株式相当とします。それのコストを年率0.1%ポイント増量したものをたわら先進国株式相当とします。
複利効果により美しいカーブを描いていますが、わずか年率0.1%ポイントの差が驚くほど大きな差を生み出しています。つみたてNISAで目安となる20年でも無視できない差が見られますが、iDeCoなら30年、40年は十分現実的です。
積立投資30年+ガチホ10年
次は30年間毎月23,000円を拠出し、受取可能期間の10年間ガチホした場合の積立シミュレーションです。スリム先進国株式相当です。
Aさんから見た元本は手数料を含めて828万円です。灰色のラインは元本です。複利効果が半端なく、ガチホしている10年間に評価額は1,000万円以上増えています。
次はたわら先進国株式相当です。
違いはコスト差0.1%ポイントだけですが、40年後の利益率は282.5%対271.4%と、計算間違いを疑いたくなるほどの差が生まれています。
退職所得控除
AさんはiDeCoの意地悪仕様を回避できるので、とんでもなく有利な退職所得控除のメリットを最大限に受けることができます。
次の表はAさんが受け取り可能な10年間の各年末に全額一括で一時金として受け取った場合の試算結果です。スリム先進国株式相当です。
次はたわら先進国株式相当です。
手取り額と利益率の差をまとめました。
60歳で売却しても36万円、65歳で売却すると54万円もの差になります。スリム先進国株式もたわら先進国株式もベンチマークはMSCIコクサイですから負うリスクは同じです。(早期償還リスク、運用会社の破綻リスクは考えません。)証券会社を選べばiDeCo特有の手数料も同じです。
現実感がない?
数学的に生成したデータだと現実感がないですか。ではスリム先進国株式の2020年以降の基準価額データを手描きで作りました。
2020年年初から2060年年末までで、結果的に年率5%で成長したようです。
次は信託報酬を0.1%ポイントだけ増量した、たわら先進国株式相当とのリターン差をプロットしたものです。
コスト差はしっかり作用しています。
次はAさんのiDeCo口座シミュレーションです。スリム先進国株式相当です。
次はたわら先進国株式相当です。
期待通りの差が見られます。少しは現実感が得られたでしょうか。
iDeCo口座は移管できます
僕はかつて楽天証券のiDeCo口座でたわら先進国株式を買っていましたが、スリム先進国株式に切り替えたくてわざわざiDeCo口座を松井証券に移管しました。
現在、スリム先進国株式をiDeCo口座で扱っているのは次の3社です。
- 松井証券
- マネックス証券
- SBI証券(セレクトプラン)
iDeCo口座の移管には(たいてい)数千円の手数料がかかりますし、完了までに2、3ヶ月かかります。(SBI証券のオリジナルプランからセレクトプランへの移管は無料です。)でもそんなに心配しないで大丈夫です。
それより、30年、40年の運用は当たり前というiDeCoならではの事情と、破壊力抜群の複利効果を考慮して、わずか0.1%ポイントであっても信託報酬が安い商品が選択できる口座にすべきです。もちろん、インデックスファンドの評価は信託報酬だけでは決まらないので、他の要素も含めて判断が必要です。特に隠れコストが曲者で、信託報酬差をはるかに超える隠れコスト差が普通に存在します。
DCニッセイ外国株式 vs ニッセイ外国株式
SBI証券(オリジナルプラン)が扱っているDCニッセイ外国株式の信託報酬は税抜き0.189%ですが、2019年10月から税抜き0.140%に引き下げられます。でも、DC専用でなくて誰でも普通に買えるニッセイ外国株式の信託報酬はすでに税抜き0.0999%です。つまり、引き下げ後もDCニッセイ外国株式とニッセイ外国株式には0.0401%ポイントの差が残るということです。
では同じ計算を信託報酬差0.04%ポイントでした結果を見ます。
当然、利益率はスリム先進国株式(=ニッセイ外国株式)とたわら先進国株式の中間となります。
次は税引き後の手取り額比較です。
この表は、SBI証券(オリジナルプラン)でDCニッセイ外国株式に投資するのと、手数料ゼロでSBI証券(セレクトプラン)に移管してニッセイ外国株式に投資するのでは、まだ29歳と若いAさんにとって大きな差が生まれることを示しています。