先進国株式+新興国株式+国内株式で組成される「全世界株式」の代表格は楽天全世界株式とスリム全世界株式(オール・カントリー)です。日本ではその組成は売れないと言われた時期がありました。今そんなことを言ったら「馬鹿じゃね」と笑われそうですが、そのひと昔前の通念を打破したのが、楽天全世界株式でした。
楽天全世界株式のベンチマークはFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスです。スリム全世界株式(オール・カントリー)のベンチマークはMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスです。ベンチマークは違いますが、受益者はベンチマークよりも商品そのものへの関心が高いようです。
更新情報
参照しているデータを最新版に更新しています。
スリム全世界株式(オール・カントリー)
2018年10月31日に税抜き信託報酬0.142%で設定されました。その後信託報酬を3回引き下げています。すべて同率への対抗値下げです。次はその履歴をまとめた表です。
スリム全世界株式(オール・カントリー)はつみたてNISA適格です。またiDeCoナビによると松井証券、マネックス証券、auアセットマネジメントのiDeCo口座で扱われています。
スリム全世界株式(オール・カントリー)誕生前
オール・カントリーは楽天全世界株式に13ヶ月遅れで設定されました。オール・カントリーの誕生にまつわる昔話には興味ないって方は、ここまで飛ばして下さい。
楽天全世界株式の躍進
スリムシリーズ第一弾が設定されてから7ヶ月後に登場したのが、楽天全世界株式です。楽天全世界株式が設定直後から高い人気を獲得できた背景には、当時人気の高かったVT(バンガード社のETF)を、インデックスファンドとして手軽に買えるようにしたことがあるはずです。
でも当時は、「全世界株式」と言えば先進国株式+新興国株式を指していたようです。たとえばeMAXIS全世界株式には、カッコ付きの補足名がありませんが、先進国株式+新興国株式です。これのスリム版は、スリム全世界株式(除く日本)です。これが設定されるのは既定路線だったとして、当時投信ブロガーは日本を含む全世界株式に、時価総額比で投資する、楽天全世界株式の対抗となる商品を熱望していました。
不発だった3地域均等型
ところが三菱UFJ国際投信が出した答えは違っていました。2018年4月3日にスリム全世界株式(3地域均等型)を設定したのです。そして当時、ブロガーミーティングで「時価総額比の全世界株式の予定はない」と明言して、出席者の多くをがっかりさせました。
3地域均等型は現在でも、スリムシリーズらしくない不人気商品です。その組成が広く受け入れられなかったということです。eMAXISバランス(8資産均等型)が高い人気を獲得し、そのスリム版が設定直後から安定して売れたのとは対照的です。
ど真ん中で勝負
オール・カントリーは2018年10月31日に設定されました。FOY2018の投票対象になるには、この日までに設定されていなければならない、という特別な日です。
オール・カントリーの設定に関して、三菱UFJ国際投信は勝負にこだわりました。3地域均等型の国内株式がTOPIXをベンチマークにしていた(よって既存のマザーファンドが利用できた)ように、その33.3%ずつの比率を時価総額比である82%、11%、7%に変更するだけでオール・カントリーを組成できたわけですが、三菱UFJ国際投信の代田取締役は「国内株式をTOPIXで代用するのは潔しとしない」と言われていました。
つみたてNISAの指定インデックス投資信託として適格申請するためには、前記比率を固定する必要があり、それだと「時価総額比で投資する」になりません。ですから、時価総額比で行くなら、TOPIXでの代用はできません。そして、求められている(人気が出ている)のは、時価総額比です。
そうして選択肢に上がったベンチマークはMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスとFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスになりましたが、三菱UFJ国際投信はMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスを選択しました。
MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスの国内株式部分はMSCIジャパンですが、三菱UFJ国際投信はそのマザーファンドを運用していなかったのでわざわざ新設しました。代田取締役は「ど真ん中で勝負したかった」と表現されていました。
国内株式をTOPIXで代用せず、MSCIジャパン指数に連動するマザーファンドを新設したことについては、投信ブロガーの間でも賛否両論ありました。否定的だった人が気にしたのは次の2点でした。
- マザーファンドの純資産総額が十分な額になるまでは安定した運用が期待できない。
- 明らかに、TOPIXで代用するより、コスト的に不利である。
そもそもTOPIXで代用すると時価総額比にできないので矛盾した指摘ですが、結果的に、この心配は杞憂で終わりました。
意味のない受益者還元型信託報酬制度
スリムシリーズは純資産総額が500億円、1,000億円を超えると信託報酬が漸減される「受益者還元型信託報酬制度」を採用していました。当初は十分意味があったのですが、信託報酬の引き下げ時にオール・カントリーの受益者還元型信託報酬の削減幅が1/10に減ってしまいました。
現在は純資産総額が5,000億円超から漸減されます。
この漸減率は数字の遊びレベルで、現実の世界ではその恩恵を実感するのは無理です。ただし、たとえ実質的な効果がなくても、それが「宣伝効果」を生み、さらに人気を押し上げる可能性があります。マーケティング戦略としては、実に有効だと思います。
次はスリム全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬が漸減される様子です。右端は3兆円です。
現在の純資産総額は赤丸の位置で、税抜き信託報酬は0.1029%です。競合商品との比較で、メリットのひとつとして宣伝されるかも知れませんが、実質的な効果は期待できません。
運用コスト=信託報酬+隠れコスト
運用コスト(トータルコスト)は信託報酬と隠れコストの合計です。隠れコストは運用報告書に記載されている、売買委託手数料、有価証券取引税、保管費用、監査費用などから構成されます。
次はオール・カントリーの運用報告書から計算したトータルコストです。
この隠れコスト、第三期になって削減されています。誰も文句を言わない水準になったと思います。
第四期も地味に削減されています。受益者還元型信託報酬制度より、こちらの方が効果的です。
リターン比較
ベンチマークが同じMSCI ACWIである商品と比較しています。
ステートストリート全世界株式との比較
次はオール・カントリーの設定直後を避けた2018年11月15日から、2023年4月28日までの、ステートストリート全世界株式との比較です。
青のラインはリターン差で、オール・カントリーーステートストリート全世界株式です。右肩上がりの美しい直線です。その傾きは、トータルコスト差を示しています。なお、コロナショックによる株価暴落時に凹んでいるのは正常です。
たわら全世界株式との比較
次はたわら全世界株式の設定直後を避けた、2019年8月5日から2023年4月28日までの、オール・カントリーとの比較です。
青のラインはオール・カントリーーたわら全世界株式です。コロナショックによる株価暴落時に段差ができていますが、まあそういうこともあるでしょう。
運用報告書から計算した数値も、実際の基準価額データも、オール・カントリーの方が低コストであることを示していました。でも最近は、互角になってきていますね。
売れています
次は楽天全世界株式とオール・カントリーの、設定来の資金流出入額の累計の推移です。楽天全世界株式の純資産総額は2,707億円、オール・カントリーは10,158億円です。
赤のラインがオール・カントリーです。2019年までは楽天全世界株式との差が広がる一方でしたが、2020年になってオール・カントリーの資金流入額が上がり、差が縮まり、ついに追い抜いてしまいました。その後もオール・カントリーは資金流入額を増やしていることが、ラインの反り返り具合からうかがえます。
直近90日間の資金流出入額の累計はこうでした。
- 楽天全世界株式:206億円
- オール・カントリー:1.252億円
6倍の違いがあります。楽天全世界株式の人気は盤石ですが、オール・カントリーは圧倒的です。ここまで差が付くと予想できた人はいないでしょうね。
日本株式インデックスマザーファンド
三菱UFJ国際投信がオール・カントリーのために新設したMSCIジャパン連動のマザーファンドが「日本株式インデックスマザーファンド」です。2020年4月27日決算時の純資産総額は18.37億円でしたが、2021年4月26日決算時には103億円を超えました。ほとんどオール・カントリーによるものですが、MAXIS全世界株式とつみたて全世界株式も利用しています。
新設当時は心配(批判も)されました。MSCIジャパンの純資産総額が少ないうちは安定した運用ができないのではないかと。確かに、マザーファンドの新設にはリスクもあったわけですが、そのリスクを取っていなければ、オール・カントリーの圧倒的な成功はありませんでした。
現在オール・カントリーの純資産総額は約1兆円で、その5.5%が国内株式です。よって、MSCIジャパンのマザーファンドは550億円以上あるはずです。
「オルカン」は登録商標です
オルカンという呼称(愛称)は自然発生的に使われるようになったと思うのですが、三菱UFJ国際投信は2021年7月6日に商標登録を出願し、2022年1月28日に登録されています。そのため、投資信託に「オルカン」が使えるのは三菱UFJ国際投信だけですね。
トレカンは無視していいです
通称トレカンのTracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)が、オルカンのほぼ半分の信託報酬で登場して話題になりましたが、信託報酬以外にコストが明らかに大きいため同じ土俵では比較にならないと、三菱UFJ国際投信にスルーされてしまいました。
賢明な読者のみなさんは、当面、トレカンは無視していいです。半年もすればごまかしの効かない基準価額データから、トレカンの現実のコストが(オルカンとの比較により)見えてくるはずです。
評価:オール・カントリーは最良の選択肢
日本を含む全世界株式に、時価総額比で投資するなら、オール・カントリーは最良の選択肢になります。楽天全世界株式、SBI・V・全世界株式も良い選択肢ですが、他の選択肢は論外ですね。
オール・カントリーは運用コストが安く、純資産総額(人気)に勢いがあります。でも、そもそもベンチマークが違うので、同列には比較できません。
楽天全世界株式(またはSBI・V・全世界株式)とオール・カントリーのどちらが良いかは、人によって答えが変わります。