投資信託は粗製乱造される傾向にあり、そこでは受益者保護は二の次なのが実情です。金融庁がつみたてNISAの適格要件に厳しい制約を設けたのは当然と言えます。僕ら投資家から見ると、投資信託は簡単に設定されますが、満足に純資産総額を集められない(=極端に人気がない)場合、いとも簡単に繰上償還されてしまいます。
たわら先進国株式低ボラティリティ高配当戦略も、あっさりと繰上償還されました。うまく行くかどうか分からない組成の商品への投資には、より用心すべきだと教えてくれています。
なお商品名が長いので、ここでは「たわら先進国株式高配当戦略」と略します。
このファンドは繰上償還済みですが、以下、意図的に「過去形」を抑えた書き方をしています。
たわら先進国株式高配当戦略
2016年3月31日に税抜き信託報酬0.85%で設定されました。高いですね。MSCIコクサイを参考指数にしているアクティブファンドです。低ボラティリティで高配当の銘柄を選んで投資します。
投資対象銘柄のインカム水準やリスク水準等に着目した独自の定量モデルにより個別銘柄の投資魅力度を測定します。
ポートフォリオの構築にあたっては、投資魅力度および地域、業種、銘柄分散を考慮し、投資効率(リスク調整後リターン)の向上をめざします。引用:目論見書
なお、解約時信託財産留保額額0.1%が設定されています。また、つみたてNISA適格ではありません。
運用コスト
次は運用報告書から計算した運用コスト(トータルコスト)です。たわら先進国株式と比較しています。
信託報酬が支配的ですが、隠れコストも一桁高いです。次は隠れコストの明細です。高さが目立つ項目を赤字にしています。
保管費用がべらぼうに高いです。
リターン比較
MSCIコクサイを参考指数にしているのですが、とても残念な結果に終わっています。
たわら先進国株式とのリターン比較
次はたわら先進国株式高配当戦略の設定日直後を避けた、2016年4月15日から2019年11月15日までの、たわら先進国株式との比較です。
赤のラインがたわら先進国株式、緑のラインがたわら先進国株式高配当戦略です。青のラインはリターン差で、たわら先進国株式ーたわら先進国株式高配当戦略です。
2018年9月まではたわら先進国株式に負けていました。2018年10月以降は互角でした。たわら先進国株式高配当戦略は、高いコストに見合うパフォーマンスを発揮することができませんでした。
売れませんでした
次は設定来の資金流出入額の累計の推移です。純資産総額は5.34億円で繰上償還されました。設定日の純資産総額が5.08億円ありましたが、そのうちいくらかはアセットマネジメントOneによる初期投資かも知れません。
たわら先進国株式高配当戦略は、ほとんど売れなかったと言っていいでしょう。信託報酬とパフォーマンスを考えれば当然の結果ですね。
繰上償還されました
たわら先進国株式高配当戦略を繰上償還する案内には正直驚きました。理由は2つあります。
- 仮にも「たわらノーロードplus」シリーズと銘打って、ネット上で展開している商品のひとつである。
- 設定から3年半しか経過していない。
たわらノーロードplusシリーズには3商品がラインナップされていました。
引用:アセットマネジメントOne
繰上償還する予定のお知らせにはこうありました。
当ファンドは2016年3月31日に設定し、信託財産の成長を図ることを目的として積極的な運用を行ってまいりました。しかしながら、2019年6月末時点の受益権口数が約4.5億口と信託約款に定める繰上償還(信託終了)の基準となる口数(10億口)を下回っているため、信託約款の規定に基づき繰上償還(信託終了)する予定です。
総口数が4.5億口で、目論見書にある条件の10億口未満だから悪いけど運用やめちゃうよ、ごめんね、ということです。でも、たった3年半で諦めるのは、早すぎると思いました。
そして、2019年11月19日に繰上償還されました。
繰上償還は阻止できます
受益者が決められた期間内に書面にて繰上償還に反対する意思を表明し、反対の口数が全体の1/3を超えていた場合、繰上償還は中止されます。
アセットマネジメントOneが運用しているMHAM外国株式インデックスファンドには、繰上償還を中止したという過去があります。(現在も運用されています。)
「MHAM外国株式インデックスファンド」につきましては、2019年8月13日付の書面にて受益者の皆さまへ繰上償還に関するお知らせを行い、2019年9月5日まで受益者の皆さまからの議決権の行使を受け付けました。
この結果、書面決議において、賛成する受益者の議決権が、基準日である2019年8月13日時点での受益者の議決権の3分の2未満であったため、本議案は否決されました。
人気が出るかどうか分からないものに注意
投資信託を組成する際には、期待したパフォーマンスが発揮できる、人気が出て目標とする売上を達成できる、と考えるはずですが、そうなるかどうかは運用・販売してみないと分かりません。実際、人気を獲得するのはそうたやすいことではありません。
人気が出ないと資金が集まらず、売上を確保できません。いつまでもそんな投資信託を運用したくないので、繰上償還が選択肢になります。
目論見書にある繰上償還条件の純資産総額をクリアできないかも知れない、十分な人気を獲得できない気がするものは敬遠した方がいいかも知れません。少なくとも、そういった投資信託に投資する際は、繰上償還のリスクが実在することを良く理解しておくべきです。