2017年2月にスリムシリーズの第一弾が登場した頃から、インデックスファンドの超ローコスト化が急激に進行しました。商品選択の際に押さえるポイントは、信託報酬だけではないものの、信託報酬が高いとそれだけで選択肢から落とされてしまうのが現実です。
たわら新興国株式は、超ローコスト化競争に付いていくことができず、その結果、高コストかつ相対的に不人気です。インデックスファンドは純資産総額の多い方が何かと有利であり、不人気な商品は受益者と共に衰退していくものです。
更新情報
参照しているデータを最新版に更新しています。
たわら新興国株式
2016年3月14日に設定されました。信託報酬は(当時でも高水準の)税抜き0.495%でしたが、2017年12月30日に0.340%に引き下げられました。でもこの対応、結果的には残念なもので終わっています。
信託報酬引き下げを時系列でまとめるとこうなります。青字はスリム新興国株式の引き下げ履歴です。
たわら新興国株式が最安水準に引き下げますと発表してから実施するまでの間に、ライバルが驚異的な値下げをしてしまったのです。その後、たわら新興国株式は信託報酬を引き下げていません。ローコスト化競争から距離を置いたということです。
高い運用コスト
運用コストは、信託報酬+隠れコストのトータルコストで見る必要があります。隠れコストは運用報告書に書かれている数値から計算しますが、事前には分からず運用報告書が公開されてからびっくりすることが少なくありません。
次は運用報告書から計算したトータルコストです。スリム新興国株式と比較しています。
たわら新興国株式のトータルコストは0.956%と、引いちゃいそうな水準です。信託報酬にも差はありますが、たわら新興国株式は隠れコストが異様に高いです。
次は隠れコストの明細です。高さが目立つものを赤字にしています。
売買委託手数料、有価証券取引税が高いです。新興国株式では鬼門と言える保管費用も高いです。でも、第3期まではここまで高額ではありませんでした。
ここからマニアックな話になります。そういうのはいいやって方は、ここまで飛ばして下さい。
たわら新興国株式のトータルコストの推移
次はたわら新興国株式のトータルコストの推移です。
第4期に隠れコストが跳ね上がっています。第5期はさらに増えました。次は隠れコストの明細です。
第4期、第5期は売買委託手数料と有価証券取引税が高くなりました。どうしてそうなったのでしょうか。
売買委託手数料と有価証券取引税が増えた理由
良く言われるのは、純資産総額に占める割合が高い金額の売り注文が発生した場合に、売買委託手数料と有価証券取引税の負担が増える、というものです。
次は第4期以降の、毎営業日ごとの資金流出入額の推移です。第4期と5期で、売却が目立つところを黄色に塗ってあります。
売却はコスト負担が大きく、解約時信託財産留保額は資産を守るために有効に働くと言われます。たわら新興国株式には解約時信託財産留保額はないので、この売りが売買委託手数料と有価証券取引税に影響したのかも知れません。
第4期はマザーファンドの売買比率が上昇
たわら新興国株式のマザーファンドの売買比率は、第4期に急上昇していました。第5期はさらに増えています。マザーファンドで上昇した売買コストを、たわら新興国株式のベビーファンドにどう負担させているのかは不明ですが、これが売買委託手数料と有価証券取引税を増加させた要因かも知れません。
また、なぜか第4期以降は先物比率が過去3期より明らかに上昇していました。これは歓迎できないですね。
たわら新興国株式とスリム新興国株式のリターン比較
株価暴落前まで
次はたわら新興国株式とスリム新興国株式のリターン比較です。2018年年初から、コロナショックによる株価暴落が始まる直線の2020年2月20日までです。
青のラインはリターン差で、スリム新興国株式ーたわら新興国株式です。青のラインの傾向は右肩上がりで、これはスリム新興国株式の方が低コストであることと符合します。
株価暴落時に問題を起こした模様
次は2018年年初から2020年12月30日までの比較です。
株価暴落時に大きく差が開いています。新興国株式であれだけの株価変動があったのですから、期待通りの運用ができなくても仕方なかったかも知れません。でも、たわら新興国株式の受益者は2.5%ポイント程度のリターンを失ったことは事実です。
スリム新興国株式とFunds-i 新興国株式のリターン比較
次はスリム新興国株式とFunds-i 新興国株式のリターン比較です。グラフのスケールは同じです。
株価暴落時に青のラインが凹むのは想定通りです。この比較からは運用に問題はなかったように見えます。
次はスリム新興国株式の運用コストを年率0.28%ポイント増量したものとの比較です。
青のラインはほぼフラットになりました。まぐれではこうはなりません。よって、多数決では(ここには掲載しませんでしたが他の商品との比較結果も踏まえて)、問題を起こしたのはたわら新興国株式だと判断します。
運用報告書ではどう言及されていたか
次は下方乖離を起こした第5期の運用報告書からの引用です。
引用:運用報告書
この表現は、数値を除いて第4期と変わりません。つまり、下方乖離については特段言及されていません。
たわら新興国株式の受益者には不運でした
今回の暴落のような状況だと、特に新興国株式では、どのファンドだって乖離を起こしておかしくないものと推測します。たわら新興国株式は盛大にやらかしてしまい、こうやって取り上げられてしまいました。でも、たわら新興国株式の受益者から見れば、2.5%ポイント程度のリターンを失ったことになるわけで、不運でしたで済ませて欲しくはないでしょうね。
なお、この記事の結論では下方乖離を無視しています。どうしてかと言うと、株価暴落時に下方乖離を起こしたぐらいで死刑宣告していたら、生き残れるファンドがなくなるからです。
Fund of the Yearの順位
次はたわら新興国株式とスリム新興国株式の、Fund of the Yearの順位です。スリム新興国株式は2017年度から対象です。
たわら新興国株式は2017年度から選外です。スリム新興国株式ですら毎年順位を落としているので、これは高コストファンドの当然の結末と言えるでしょう。
人気もスリム新興国株式にはかないません
次はたわら新興国株式の設定来の、資金流出入額の累計の推移です。純資産総額は89億円です。
ラインの形状は頭打ちになるのを必死にこらえているようで、あまり良くはないですが、それでも一定のペースで増加しています。
スリム新興国株式もプロットすると、競争の厳しさが良く分かります。
緑のラインがスリム新興国株式です。純資産総額は450億円です。ラインの形状が、圧倒的な人気の違いを表しています。
こうなると、信託報酬をスリム新興国株式が対抗値下げできない水準にまで引き下げでもしない限り、競争に勝つことはできないでしょう。
評価:たわら新興国株式を選択する経済的合理性はありません
厳しいようですが、たわら新興国株式を選択する経済的合理性はありません。
- 信託報酬が高い。ローコスト化競争から距離を置いているのは明らか。
- 相対的に不人気。現状では、スリム新興国株式の純資産総額に追い付くのは無理。
また、先物比率が10%を超えているのも歓迎できません。スリム新興国株式は4%未満です。
新興国株式という資産クラス(ジャンル)で、たわら新興国株式が生き残れるとは思えません。たわら新興国株式を応援したいのなら話は別ですが、その気がないのなら投資しない方が賢明です。