インデックス投資

スリムシリーズの売上を陰で支えるつみたてんとうシリーズの巧妙な戦略

三菱UFJ国際投信はスリムシリーズに力を入れていますが、同じマザーファンドを買う別のシリーズも運営しています。「つみたてんとうシリーズ」です。

投信ブログでも取り上げられることの少ないシリースですが、実は売上面でスリムシリーズを支えています。どういうことでしょうか。

更新情報

参照しているデータを最新版に更新しています。

同じマザーファンド、異なる信託報酬

投資信託という商品においては、同じマザーファンドを買うベビーファンドを運用するだけなのに、異なる商品名、異なる信託報酬で販売されることは当たり前に行われています。既存商品の信託報酬を引き下げられないから、別のシリーズとして設定した代表例がeMAXISシリーズから派生したスリムシリーズです。

スリムシリーズは販路をネット証券主体とし、また、三菱UFJ国際投信の判断で信託報酬を引き下げることへの同意を求めるため、現在でも20社程度しか扱っていません。対象顧客はネット証券を利用する、コスト意識の高い受益者です。

でも世の中には銀行など金融機関の窓口で投資信託を買う人も一定数いるわけで、そういう人にもeMAXISシリーズよりコスト競争力のある商品を届けたい(その領域で商売したい)と思うのは自然です。そうして設定されたのが「つみたてんとうシリーズ」だと理解しています。信託報酬はほぼ値下げ前のスリムシリーズですが、スリムシリーズと違って業界最安を追求しません。

つみたてんとうシリーズの販売会社は(商品で違いますが多いものは)63社もあります。うち47社は銀行です。

三菱UFJ国際投信のしたたかな戦略

こちらのインタビュー記事にこうあります。太字は河童の加工です。

「つみたてシリーズ」は、後発のインデックスシリーズの手数料水準に負けない低コストとし、目論見書等の印刷物の提供や商品導入時の販売員研修も踏まえたフルセットのサービスを提供する「つみたてNISA向けのデファクトをめざすシリーズ」と位置付けた。「eMAXIS」シリーズによって当社のインデックス運用の品質もご確認いただけていたこともあって、多くの金融機関で採用していただくことができた。ただし、「eMAXIS Slim」シリーズと異なり、業界最安値を標榜しているものではない

引用:三菱UFJ国際投信「つみたてんとうシリーズ」、つみたてNISAのデファクトとして多くの販社が採用

言ってしまえば同じ商品を販路と販売方法(=顧客)を変えるだけで異なる値付けで販売するわけです。そう聞いて「インチキ」だとか「きたない」とか思うのは間違っています。そうして「つみたてシリーズ」から得られた利益は僕らが絶賛している「スリムシリーズ」を運営している会社である「三菱UFJ国際投信」を支えます。

実質中身は同じ、でもパッケージングと販路が違うため消費者が購入している価格が異なるものは普通にあります。たとえば缶コーヒーです。ペットボトルのお茶でもいいです。駅の自販機、駅構内のコンビニ、街中のコンビニ、イオンなどのスーパー、OKストアのようなディスカウントストア、同じメーカーの同じ商品でも販売価格は同じではありません。安く買いたいなら購入方法(場所)を選べばいいだけです。

つみたてんとうシリーズ

全部で9本あります。派生元はeMAXISシリーズとスリムシリーズで、意外なことにスリムシリーズにはない商品もあります。また、全商品がつみたてNISA適格です。何しろ商品名が「つみたてなんとか」ですからね。

つみたてんとうシリーズ商品一覧表

売れ行きはどうでしょうか。設定来の資金流出入額の累計の推移で人気を確認します。

つみたて4資産均等バランス

スリムシリーズにはない組成です。純資産総額は67億円です。

つみたて4資産均等バランスの資金流出入額の累計の推移グラフ

安定した資金流入が続いています。

つみたて8資産均等バランス

純資産総額は472億円です。

つみたて8資産均等バランスの資金流出入額の累計の推移グラフ

安定した資金流入が続いています。スリムバランスの1,045億円にはかないませんが、その45%もの純資産総額を集めているのは凄いと思います。

つみたて新興国株式

純資産総額は122億円です。

つみたて新興国株式の資金流出入額の累計の推移グラフ

安定した資金流入が続いています。

つみたて先進国株式

純資産総額は388億円です。

つみたて先進国株式の資金流出入額の累計の推移グラフ

安定した資金流入が続いています。ラインの反り返りが顕著です。

つみたて先進国株式 H型

スリムシリーズにはないタイプです。純資産総額は6.94億円です。極端に売れていません。

つみたて先進国株式H型の資金流出入額の累計の推移グラフ

安定した資金流入が続いていますが、純資産総額を増やすのは難しいですね。でもこの商品をラインナップに加えたのは良い判断だと思います。

つみたて日本株式(TOPIX)

純資産総額は101億円です。

つみたて日本株式(TOPIX)の資金流出入額の累計の推移グラフ

この商品だけ短期売買のおもちゃにされていますが、傾向としては増えています。

つみたて日本株式(日経平均)

純資産総額は279億円です。

つみたて日本株式(日経平均)の資金流出入額の累計の推移グラフ

安定した資金流入が続いています。

右肩上がりだし、上側に反り返っています。スリム国内株式(日経平均)の純資産総額は134億円しかありませんから、つみたて日本株式(日経平均)は2倍の純資産総額を集めています。つみたてんとうシリーズを馬鹿にしてはいけません。

ただし、つみたてんとうシリーズが設定されたのが2017年8月16日なのに対し、スリム国内株式(日経平均)が設定されたのは2018年2月2日と約5ヶ月後でした。

つみたて全世界株式

派生元は、人気沸騰中のオール・カントリーです。商品名がシンプルです。

2020年3月に設定されたとは言え、純資産総額はたったの1.07億円しかありません。

つみたて全世界株式の資金流出入額の累計の推移グラフ

資金流入は続いていますが、金額が少ないです。どうやらまだ販売に力を入れていないようです。

つみたて米国株式(S&P500)

スリム米国株式(S&P500)は圧倒的な人気を誇りますが、つみたて米国株式(S&P500)は2020年3月に設定されたとは言え、純資産総額はまだ5.71億円しかありません。

つみたて米国株式(S&P500)の資金流出入額の累計の推移グラフ

もっと人気が出ていいと思います。まだ販売に本気出していないようです。

スリムシリーズの売上高

次はスリムシリーズを三菱UFJ国際投信の売上高順に並べたものです。

スリムシリーズを三菱UFJ国際投信の売上高順に並べたもの

純資産総額の合計は1.34兆円、売上合計は5.6億円です。

円グラフで見るとこうなります。

スリムシリーズの三菱UFJ国際投信の売上高の円グラフ

売上高上位5商品で全体の82%を超えます。だからと言って、売上高下位の商品の存在価値が低いということではありません。

つみたてんとうシリーズの売上高

次はつみたてんとうシリーズを売上高順に並べたものです。

つみたてんとうシリーズを売上高順に並べた表

純資産総額の合計は1,445億円、売上合計は1.4億円です。

円グラフで見るとこうなります。

つみたてんとうシリーズの三菱UFJ国際投信の売上高の円グラフ

売れている商品とそうでない商品の差が激しいです。売上高上位4商品で全体の88%近くを占めます。だからと言って、売上高下位の商品の存在価値が低いということではありません。

売上高を見比べると

スリムシリーズとつみたてんとうシリーズの売上高を見比べると、つみたてんとうシリーズが馬鹿にできない存在だと分かります。

上記表を並べます。

スリムシリーズを三菱UFJ国際投信の売上高順に並べたもの

つみたてんとうシリーズを売上高順に並べた表

純資産総額の合計は1.3兆円1,445億円と9.3倍の開きがありますが、売上高の合計は5.6億円1.4億円と4倍の差しかありません。投信ブロガーに話題にされなくても、多数の地方銀行、証券会社で扱われ、ネット証券以外を嗜好する受益者から貴重な資金を地味に集めているのです。(他社に取られるぐらいなら、eMAXISシリーズの顧客を失うことになっても攻めるしかないという考えがあると想像します。)

また、どうせマザーファンドは同じだし、高いリスクを負うことなくニッチな市場を攻められるのは(たとえ一物多価だと言われても)、運用会社にとって大きなメリットでしょう。つみたてんとうシリーズの場合は信託報酬が十分低コストなので、ターゲットとなる受益者にとってもそうだと思います。

つみたてんとうシリーズの存在意義

ネット証券を好む、コスト意識が高い人はスリムシリーズを選択するでしょう。でも世の中にはそうでない人も一定数存在し、実店舗を通して投信を買う受益者の受け皿としてつみたてんとうシリーズがあります。

スリムシリーズの方がよりローコストなだけ有利ですし、信託報酬を業界最安水準に対抗値下げしてくれる期待はスリムシリーズ特有のものです。でも、つみたてんとうシリーズの受益者を馬鹿にしてはいけません。少し高めの信託報酬を負担することで間接的にスリムシリーズを支えてくれているのです。

マザーファンドは同じだし、ファンドマネージャーも同じでしょう。異なる商品企画、価格設定、販売ルート、販売戦略で異なる受益者層にアクセスすることで、スリムシリーズの売上を補完しています。巧妙な戦略と言えるでしょう。その領域、市場は、攻めなければ他社に取られていたかも知れないのですから。

つみたてんとうシリーズの受益者は、スリムシリーズの超ローコストという恩恵を享受している全ての人にとって、ありがたい存在なのです。

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