つみたてNISAは、制度設計の趣旨から考えると毎月とか毎日とかの積み立てでしか利用できないのがあるべき姿だと思うのですが、金融機関によっては実質年初一括投資が可能です。利用者から見れば購入方法に自由度があった方が便利であることは間違いありませんから、制度設計の趣旨は置いといて、年間最大投資可能枠40万円をできるだけ柔軟に活用出来る方が好ましいでしょう。
統計的には積立投資より一括投資の方が有利と言われるのと全く同じ理屈で、つみたてNISAも年初一括で投資した方が、毎月積み立てるよりも有利になります。本当にそうでしょうか。実在する商品の基準価額データを使って検証しました。
更新情報
2022年の結果を追記しました。
比較方法
投資信託の基準価額データを使い、過去のある月からの12ヶ月間をつみたてNISAの投資可能期間だったらと仮定して、次の計算をします。
- 年初一括投資は初月の最初の営業日に40万円購入、約定した時の口数を計算します。
- 毎月積み立ては、12ヶ月かけて毎月の月初の営業日に初回は33,700円、2回目以降は33,300円購入します。合計40万円です。そして約定した口数の合計を計算します。
- 年初一括投資と毎月積み立ての保有口数の差を計算します。
つみたてNISAは毎年1月から12月の12ヶ月間が投資可能期間と決まっていますが、それだとサンプル数が少ないので過去の実績データを1ヶ月ずつスライドさせながら、ある月からの12ヶ月間における積み立て方法の違いによる保有口数を比較することにしました。
保有口数の差を見る理由
つみたてNISAは最長20年間の1セットを20本程度(開始時期によって変わります)利用可能ですが、各セットは独立していて影響しあいません。(この検証に関係ない制約には触れません。)各セットのリターンは最初の1年間で購入できた口数と売却時の基準価額だけで決まります。それは次の公式が真理であるためです。
評価額=保有口数×基準価額
よって、より儲かるようにするには保有口数を多くするしかありません。基準価額はコントロールできないからです。そして、保有口数は投資可能期間内に決定し、その後の19年間では絶対に増やせません。(追加投資できないからです。)また売却しなければ絶対に減りません。
つまり、保有口数の差=そのセットの期待リターンの差となります。保有期間に関わらず、です。
リターンの差はどれだけ安く買えるかで決まります
上の話では保有口数で考えていますが、一般的には平均取得価額を用いるのが適切です。投資信託でより儲かるようにするには安い時に買うことで平均取得価額を下げれば良いのです。が、上の話では投資金額が40万円で固定なので、分かりやすい保有口数を用いました。
年初一括投資と毎月積み立てのどちらがリターンが高くなるかという話は、どちらが安く買えるかと同意です。
- 投資金額が同じなら、安く買えると保有口数が増えます。
- 保有口数が同じ場合、安く買えているなら平均取得価額が下がります。
共通事項
- 比較期間は2011年年初から2020年12月末です。
- ある月からの12ヶ月間をつみたてNISAの投資可能期間と見立てます。これを1セットとします。
- 1ヶ月ずつずらしながら各セットを計算します。
- セットごとに、年初一括と毎月初積み立ての保有口数の差を求めます。
- 保有口数の差のプロットは直近の11ヶ月には(計算できないので)ありません。
- グラフの下に年初一括の方が有利だった割合を表示しています。便宜上「勝率」という言い方をしています。
- グラフの緑のラインが保有口数の差で、プラス圏内にある時は年初一括が有利であることを示しています。
シミュレーション結果
説得力抜群です。
グラフの見方
次はeMAXIS先進国株式のシミュレーション結果です。
- 赤のラインは基準価額の推移です。
- 緑のラインが保有口数の差です。直近1年間は空白です。
- ある月からの12ヶ月間が弱気相場だと緑のラインはマイナス圏を遷移しやすいです。この場合は、青の丸で囲った期間です。
- 右下の赤枠で囲ったところに、年初一括の勝率を表示しています。eMAXIS先進国株式だと69.7%なので、年初一括を選択する方が有利で終わる可能性が高いです。
- 年初一括を選択時にどれだけ得するか(毎月積み立てよりリターンが高いか)は、基準価額の推移次第ですが、多い時は10%を超えます。
eMAXIS国内リート
基準価額の動きが予測できれば、どちらが有利か分かるわけですが、それは難しいです。確率的には、年初一括の方が有利です。
eMAXIS新興国株式
弱気相場の期間の長さが、年初一括の勝率を引き下げています。
結果発表
2010年末までに設定された主な商品の結果一覧です。
過去9年程度の実績だと、おおむね6割以上、資産クラスによっては7割の勝率なので、可能なら年初一括を選択するといいという結果が得られました。
おまけ:長期で見ても傾向は同じです
次はS&P500種指数に投資するSPY(米国籍ETF)のトータルリターンを使ったシミュレーション結果です。1994年年初からです。
どちらが有利かは12ヶ月ごと、現実世界ではカレンダーの1月から12月の基準価額の推移で決まります。比較期間の長い短いは関係ありません。
現実世界ではどうだったか
つみたてNISAが始まった2018年から毎年、年初一括投資と積立投資のどちらが有利だったかを調べています。
つみたてNISAで年初一括投資する方法
金融機関を選ばないとできません。つみたてNISA口座の柔軟性は、金融機関によって驚くほど違いがあります。
楽天証券
積み立てを毎月行う場合、毎月の積み立て額の上限は33,333円(40万円÷12ヵ月)ですが、ボーナス月設定が可能なため、毎月100円積み立て+1月にボーナス設定398,800円で実質年初一括投資が可能です。
SBI証券
毎月100円積み立て+1月にボーナス設定398,800円で実質年初一括投資が可能です。また、SBI証券は設定のチェックがゆるいため、毎月100円積み立て+1月にボーナス設定399,900円でも通るようです。その場合、2月以降は非課税枠の残りがないのでエラーになりますが、無視すればいいだけです。
マネックス証券
毎月100円積み立て+1月にボーナス設定398,800円で実質年初一括投資が可能です。
松井証券
ボーナス(増額)設定がないため、年初一括投資は不可能です。また、年の途中からつみたてNISAを利用する場合、非課税枠40万円を満たす方法はないようです。
auカブコム証券
毎月100円積み立て+1月にボーナス設定398,800円で実質年初一括投資が可能です。
大和証券
ボーナス設定がないため、年初一括投資は不可能です。
結論:確率的には年初一括が有利ですが、無理する必要はありません
過去の実績を参考にして選ぶなら、確率的には年初一括の方が有利です。でも年初に一括投資する資金を用意できない場合は、無理しないで12ヶ月かけて積み立てましょう。毎月積み立てであっても、つみたてNISAは資産形成にものすごく有利な制度であることに変わりありません。
年初に一括投資するのが無理でも、年初にボーナス時設定で20万円、毎月20万円÷12ヶ月の積み立て設定のようにできるだけ早く投資した方が、確率的には有利です。
が、年初一括投資した時に、2020年のようにその年の早い月に暴落を経験すると、精神的ダメージが大きいリスクがあります。その場合に「しまった。暴落してからまとめて投資すれば良かった、クソ!」と後悔するようなら、普通に毎月初積み立てするのがいいです。そして、暴落してから積み立て設定を変更して、ニヤニヤしながらボーナス設定で非課税枠の残りをほぼ埋めるような買い方をすればいいのです。とにかく、無理しないことです。
ある年のつみたてNISAについて、年初一括投資と毎月積み立てのどちらが有利かは事前には分かりません。そのことを理解した上で、自分にとってどちらが良いか判断してください。