2024年から非課税期間無期限のシン・NISAが開始されます。非課税枠が1,800万円もありそれだけで十分な資産形成が可能です。そのためわざわざ制約が多く使いにくいiDeCoを利用するメリットが激減しました。これに伴い、この記事の結論を変更しています。
僕のブログにしては珍しく挑発的なタイトルです。でも決して羊頭狗肉ではないことを現実的なシミュレーションでお見せします。
実は、うちの子供は今年20歳になりました。国民年金加入の手続きをしたところです。並行してiDeCo口座開設の準備もしています。この記事ではうちの子供Mくんに登場して頂きます。
想定条件
Mくんは大学生ですが、親の勧めに従って国民年金をきっちり納めます。付加年金も納めます。そして2020年1月からiDeCoで積み立てを開始します。2022年4月からは企業に就職する予定です。よって、国民年金の第1号被保険者として拠出可能なのは2年3ヶ月です。その間は上限である月額67,000円を積み立てます。68,000円でないのは付加年金を納めているためです。その原資は親から贈与されたものです。
Mくんが就職する頃には、iDeCoの加入規制が緩和されているものとします。
これにより、大学生時代から始めたiDeCoを就職先に邪魔されることなく、そのまま継続可能です。また、Mくんの世代には次の制度改革が間に合います。
なお、この記事では65歳まで拠出可能としておきます。拠出計画はこうです。金額は現実的なものに抑えています。Mくんには頑張ってこれくらいは積み立てて欲しいものです。
- 大学生の間は月額67,000円です。(親からの贈与があるので楽勝。)
- 就職してから5年間は月額5,000円です。(ここからは自力で。)
- その後5年間は月額10,000円です。(これぐらいできるでしょう。)
- その後5年間は月額15,000円です。(社会人になって10年経過しているんだから。)
- その後は65歳の誕生日の前まで月額20,000円です。(積み立ててきて良かったと思っているはず。)
就職先の退職金制度がどうであれ、前記加入規制緩和により月額20,000円は拠出可能です。
Mくんは65歳から75歳になる直前までの10年間に、一時金で全額受け取ります。後で受け取るほど(相対的に)有利ですが、暴落が怖いので70歳からの5年間のどこかで決断することにしておきます。
期待リターン年率4%
次は期待リターン年率4%の基準価額の推移です。
2020年から拠出可能期間45年+ガチホ期間10年の55年間です。人生100年であっても半分を超える長さです。それだけ長いと期待リターン年率4%であっても複利効果によるカーブは強烈です。
異論もありそうですが、この記事では期待リターン年率4%でシミュレーションします。
積み立てシミュレーション
積み立て45年間+ガチホ10年間のシミュレーション結果です。
灰色のラインが元本です。大学生時代は急激に立ち上がりますが、就職後拠出金額が減るので増加率が下がります。黄色に塗った期間は拠出できないのでガチホです。
45年間で元本は約1,000万円になりました。
赤のラインが評価額です。ガチホ期間中に1,000万円以上増えています。暴落がないなら75歳の直前で全額受け取れば、評価額は元本の4倍以上になりますが、そううまくはいかないでしょう。
退職所得控除の意地悪仕様
iDeCoは非課税制度ではありません。一時金で受け取る場合は、退職所得控除というとんでもなく強力な優遇税制が適用されますが、とても意地悪な仕様があります。
この意地悪仕様を回避できるかどうかは働き方に依存します。Mくんが将来できるかどうかを今考えても無意味です。
意地悪仕様を回避できた場合
意地悪仕様を回避できると退職所得控除をフルに利用できます。その場合、70歳から75歳直前までの5年間に一時金として受け取ったときの計算結果です。
上から70歳の年末、71歳の年末、と並んでいます。
70歳の年末の手取り額が3,369万円、74歳の年末の受け取り額が3,864万円です。評価額が大きいので退職所得控除をフルに利用しても結構な税額になってしまいます。
「実効税率」は利益と税額の比率で、特定口座なら(現行制度のままだと)20%です。それよりは十分低い税率だということが分かります。何より、拠出金を全額所得控除にしながら、高い利益率を達成し、これだけ低い税率でその果実を手にできるのです。素晴らしいじゃないですか。
意地悪仕様を回避できなかった場合
MくんのiDeCo拠出期間は45年です。その最初の2年は大学生でしたから、退職金の対象勤続期間とは重複しません。また、勤続43年で退職する場合も、退職所得控除2,410万円を使い切るかどうかは分かりません。
勤続43年の退職所得控除=40万円✕20年+70万円✕23年=2,410万円
意地悪仕様を回避できなくても、退職金の受け取りで退職所得控除を使い切っていなければ残りをiDeCoの受け取り時に利用できます。(複雑すぎますね。)
でも、ここではiDeCoで使える退職所得控除が最低の80万円だとして計算します。最悪のケースです。
税額がどーんと増えました。500万円を超えています。泣きそうですね。実効税率は23%を超えているので、ここだけ見れば特定口座の方が良かったと思うかも知れません。
- 元本約1,000万円のうち就職後に拠出した約820万円は全額所得控除の対象になっています。
- 2070年になっても譲渡税の税率は20%でしょうか。上がっているかも知れません。
- それを言ったら、退職所得控除の仕組みも変わっているかも知れません。
分からないことをあれこれ想像しても答えは出ません。
期待リターン年率4%は現実的か
株式インデックスの期待リターンは年率5から6%として良いと思います。今後は下がるという予測もありますが、それが当たるかどうかは未来にならないと分かりません。
現実の基準価額は暴落も含めた大きな変動を伴いながら上昇します。そのため、期待リターンn%で数学的に生成した基準価額は現実感のないものになってしまいます。でも、55年間もの実データは手元にないため、こうする以外にありません。
次はMSCIコクサイをベンチマークにしている日興インデックスファンド海外株式の実際の基準価額の推移です。
リーマンショックを経験しながらも、約18年間の利益率は156%、年平均8.6%にもなりました。これを踏まえると、期待リターン年率4%は適度な数値に思えます。
Mくんが投資先にMSCIコクサイを選択した場合、2020年からの55年間でどれだけ成長するか確認するには、あと何十年も必要です。
老後資金問題は解消
意地悪仕様を回避できてもできなくても、45年間積み立て投資ができたMくんは、2,800万円を超える老後資金を一括で手にできます。70歳以降という遠い未来の話ですが、老後資金問題は解消です。
2070年以降ならもっと必要なのでは?大丈夫です。就職してからの43年間、積み立て投資を継続できるぐらいなら、つみたてNISAも活用してしっかり資産形成できていることでしょう。
積み立て投資と言う良薬
意地悪仕様を回避できれば超ラッキー、できなくても泣くことはないと思います。何より、iDeCoに毎月拠出することが良い薬になるはずです。
この薬、安価に手に入りますが、情弱と呼ばれる人たちは決して服用しようとしません。体に毒だとでも思っているのでしょうか。怖いことにこの薬の最大の効能は、格差拡大です。
シン・NISAで十分、iDeCoは不要
Mくんの場合、シン・NISAで十分な額の資産形成が可能であり、出口戦略が難しいiDeCoは不要になりました。この判断は各個人で異なります。
でもMくんはiDeCoを始めていたので、いまさらやめられません。
- iDeCoは開始すると途中でやめられない鬼仕様です。
- 拠出を停止すると退職所得控除額が増えません。
- 拠出を停止しても毎月66円は徴収されます。
そこでMくんは拠出金額を毎月5,000円に下げます。拠出金は全額所得控除対象なので、5,000円でも手数料負けはしません。年間6万円の拠出を37年以上継続します。実際に選択できる出口戦略は、その頃にならないと分かりませんが、入金力はシン・NISAに全振りするのが良いと判断しました。